困った時の最強パンチ
ブックマークありがとうございます!
もうこの章も大詰めです
戦線の状況は最悪に尽きる
飛行船の登場により兵の腰が引けてしまい
一方的に押されてしまっているのだ
ついさっき飛行船が陥落したが士気が膨れ上がることもなくそのままの状況が続く
王国軍は防戦一方、魔族達は着々と押し上げてくる
そして沢山の兵たちが散っていく
その中で必死に戦っていた少女がいた
「はあああ」
飛んでくる魔法を剣で切り刻み飛美斬撃を放つが受け止められていた
「ティエラさん撤退です」
「まだよ!」
ティエラはここから退けば負けると感じていた
そのため引くわけにはいかないと剣を握る力が強くなる
「アラコクス、今からお前を殺す者の名だ」
アラコクスから放たれた斬撃はティエラの剣を容易に斬った
そして脇腹を斬り刻み吹っ飛ばした
大量の血が飛び散りもう駄目だと
ここで死んでしまうのだとティエラは感じ目を閉じる
それを受け入れ何の抵抗もなく攻撃を食らった
身体にかかる衝撃に後方に倒れた
しかし地面はやって来ないもう死んだと感じたがまだ声が聞こえた
「どうした?今度は勇者でなくそこの女でも助けに来たのか?」
その言葉にティエラは誰かに抱えられた事に気付いた
目を開けて倒れる身体を支えらている少年の顔を見た、自分と大して変わらないだろう年齢の少年だった。ここから逃げて欲しいと心から思い叫びたかったが
しかしその少年の鋭い眼光が何も言わせなかった
「人間はな少し経つと感情なんて忘れる生き物だ。だから今忘れる前にお前を潰す」
少年もとい水成
水成はアラコクスから放たれる剣を掴み握力だけで砕いた
手のひらから崩れ落ちる剣の残骸が地面に散らばる
「ここから先は行かせない」
「惨敗したのにそこまで自身があるとは驚きだ」
確かに水成は惨敗した
勝利条件が違ったが戦闘においては負けていた
固有魔術に振り回され逃げの一手しかできずにいた
「人間そうそう変わらんし負けた直後にリベンジしても結果は同じだ」
しかし水成は分かっている
自分の弱さを知っているのだ
「だけど足元引っ張ることくらいはできると思うが」
ティエラを立たせて前に出た
「そうか死にたいか、それなら『劔の宴』」
無数の剣がアラコクスの背後に浮かぶ
そして戦場に散らばっている剣をかき集めてゆく
「相手をしようお前が死ぬまで」
アラコクスが片手を水成に向ける
すると剣の矛先は全て水成へ向き狙いを定めて一斉に放たれる
「悪いなぁ、確か俺は諦めが悪いそうだ」
彼の影がブレた
そしてまた現れた時水成はアラコクスの顔面に拳を叩き込んでいた
しかし水成の脇腹にも剣が突き刺さっている、凱殻のお陰で浅い切り傷にまで収まりそんなもの気にしないとばかりに腕をふるった
アラコクスを殴り飛ばし血を吹き出しながら吹っ飛ぶ彼を見据えて
「届かなくて良い、引きずり下ろすからさ」
「今に見てろ、クソ野郎」
親指を下に立てた
■
目で見て反応している余裕はない
心眼を発動しこれから起こることを予測する
ほんの一瞬でもいい一秒先を見ろ、それができるはずだ
この技術ならできる、未来を認識しろ
風の向き、魔力の流れ、物体の向きだ
これからアラコクスをがどう動かすか感じろ
飛んでくる剣を観察しろギリギリまで観て感じろ
回避はできる
心眼に使う魔力を増幅させる
通常の倍以上の魔力を放ち僅かな動きを感知し目の前の斬撃を支配しろ
《下からの斬撃》
咄嗟の出来事に後ろへ回転して避ける
すると先程の位置に剣が通り過ぎて行くのが見えた
俺が感じたのと同じ、心眼で観たものと同じ
次の攻撃を予測してすでに拳を置き叩き落とす
そして流れるように次の剣が襲いかかってくる
後ろに飛んで避けようとすると何かに当たったので振り返ると
そこには突っ立っていた少女がいた
「退け!邪魔だ、さっさと援軍呼んでこい」
「何で?そこは一騎討ちで戦う所でしょ、私に出るなと言っておいて卑怯よ」
とんでもないこと言い出したぞ
「うるせえ、そんな簡単な相手じゃない固有魔術師だぞ」
こんな相手を真正面から戦って勝てるわけないだろ
しかしその合間にも剣が押し寄せてくる
「ああもう、舌噛むなよ」
この邪魔な少女を担いで走る
「何するの!」
次々と向かってくる剣を避けながら走る
「お荷物は捨てた方が良いんじゃないのか?」
魔法か、岩石が数個放たれるが連続して回し蹴りを放ち全て砕く
「そうしたいんだがここで見捨てると俺たちの勇者がうるさいんだ」
「何知り合い?」
「そんな所だ」
こいつ早いとこなんとかしないと
本部に帰って貰えばいいんだが
「こっからどのくらいで本部に着く?」
「二時間半走ればつく」
「遅いな、方角はわかるか?」
少女は指をさして言った
「向こうの山が見える方」
「そうか、なら」
少女の服を掴んで持ち上げた
「着地は自分でやれ」
「ちょと何するの」
降ろせと言っているが無視だ
「時間から惜しいさっさと行け」
本部に向かって投げた
人間の何倍ものスピードで飛んでいくのを見届けて敵に向かって拳を握る
しかしこれ以上の攻撃はなく斬撃の雨が止んでおり
アラコクスは俺を不思議に見ていた
「それで?彼女を逃して良かったのか?」
それがどうした
「この状況で援軍が来るなんて毛ほども思ってないのに」
「二人で戦った方が勝算あったんじゃない?」
確かにそちらの方が勝算は高かっただろう
しかし俺は生きてる人間を盾ににするつもりはない
「泥被るのは俺一人で十分だ、お前殺せば魔族からはお尋ね者だそんな重みちっこい少女に背負わせるかよ」
傷つくのは一人で十分だ
それにあの少女は誰かの名前を呼んでいた
「剣を抜いた時点で覚悟はできてるそれが普通だ」
戦士として生きていくなら死んだとしても悔いは残さない
戦いの中で死ぬのなら本望だろう
「確かにそうだ、だがな」
俺の瞳の中にはある一人の少女が写っている
「俺はその小さい背中にたった一人で全てを抱え込んだ少女を知っている」
来る日も来る日もずっと一人でいた孤独の少女
「全部守ろうともがいた少女を知っている」
誰に会えない悲しみの中めげなかった
「誰だ?赤の他人だろそれが理由ってだけじゃないよな」
「俺は彼女みたいに顔も知らない誰かの為には戦えない」
俺は聖人でも神さまでもない
全員平等に愛し世界平和のために戦うヒーローでもない
「だけど目の前の人くらいは救ってやらないと合わせる顔がない」
ようやくできた本当の家、帰る場所
「理由はそんだけだけ、俺にとっての全てだ」
「たかがそれだけ、何だお前正義の味方にでもなったつもりか」
アラコクスは激情し今までにない速さで剣を放つ
対応できず斬り裂かれ血が吹き出る
「可哀想な少女のために戦いました、凄いなぁ」
「だから何だ?俺も勝手、お前も勝手、その名も知らぬ少女の理想のためにお前は人殺ししてんだろ、馬鹿か?結局誰かのせいにしてるだけ」
変則的な軌道で飛んでくる剣を避けながら走る
「そんなくだらん理由の為に俺たち殺してんのか?反吐がでる」
剣を束ね回転させながら放つ
それを真正面から破壊して前に進む
「俺達だって必死こいてやってんだよ、一部の快楽主義者と違いこぼれ落ちたモンかき集めるのに必死なんだ」
地面が崩れ上からは剣の雨が降り注ぐ
「お前ら青二才の理想論なんて捨てろ、潔く平和のために死んでくれ」
腕で防御するが次第に突き刺さり始める
血が流れ地面に滴る
しかしこの連続した斬撃がやまない限り動けはしない
「今なら間に合う、あの世でお前が殺した連中になぶられるだけだ」
うるせえよ
全てを使いこいつをぶん殴ってやる
防御なんて捨ててもいいだろう
もうこいつ殴るためだけに拳を握ろう
「ふざけんな」
ただ勝利へと進むために
「ふざけんなぁああ」
限界まで引き上げた拳をアラコクスに向けて叩き込む
腹部にあたり遙か遠くの岩石を貫いてぶっ飛んだ
アラコクスは地面を転がりあたりに血を撒き散らす
「絶対に使うなと言われていたが無理だな」
拳からは血が出ている
「何をした?」
腹部への多大な衝撃にアラコクスはのたうちまわる
激痛のする部位を抑えながら口から血を吐き地面を這う
その原因である俺を睨みつけながら腕を伸ばして剣を操ろうとする
「そして俺も」
左腕が爆ぜた
中から裂けた骨が見え
破裂した筋肉の間から血が溢れ出る
「何をした?それは何だお前の腕がなぜ裂けている?攻撃を行ったお前が」
驚愕の表情
それは何か悪夢でも見たようなものだった
「仕方ないだろ、こいつはそれほど危険なんだ」
破裂した腕を前に出し
「俺を覆う魔力の中で反作用として生み出される衝撃を何重にも加速、増幅して力のベクトルを拳から放つ最悪の技」
「人体が耐えきれるわけがない、それを溜め込んで限界まで引き上げるのが俺自身の身体であり魔力だ、今お前が食らった何倍の衝撃を腕に食らっている」
「お陰でこんなんだ」
「腕を捨てたのか」
ようやく足元を掴むことができた
こっから先は下克上だ
感想やご指摘いただければ幸いです




