孤独だったあの頃
ブックマークしてくれた方
ありがとうございます
俺は輝樹と共に食事を取りその後彼の訓練を見ていた
本人が頑張っているのか
素人とは思えないほど様になっていた
まるで何年もやっていたかのよう
素人の俺からしたら違いなんて微塵も感じないが素直にすごいと思う
兵士とタイマン勝負を何度もしていた
空手とかでよくある連続組手のようなものだった
それでも持っているもの自体は剣だし少し違うかもしれない
枠となる線が引いてありその中で剣を構えて何度も打ち合う
そして輝樹が勝ったら別のやつがやってきてまた繰り返す
何度も何度もそれを繰り返して1時間か2時間かした頃にようやく輝樹の体力が切れ
休憩に入った辺りで俺は場を出た
当初の目的通り書庫に行こうとしたがかなりの時間を使ってしまっていた
今からいっても何ができるか、せいぜい今持っているものを元の位置に戻してから適当にいくつか持って帰れば終わりだろう
どれにするか迷って最初の一部だけ見るなんて時間はあまりない
どうするか悩んでいると
近くにあった魔法訓練所に居た火織と立花に呼び止められた
正直行く気は全くと言っていいほど無い
ただ見ているだけでも無駄にはならないと思い魔法訓練所に入った
ここは剣の訓練所とは違い長さがあった
弓道の訓練所みたいに遠くに的がありどれだけ届くのかスピードを上げているのか
遠距離の攻撃手段には変わりないんだが
「ねえ見てみて」
火織に見て欲しいと頼まれた
どうせ自慢だと思いながらもついて行く
射撃場みたいになっているところまで連れていかれ俺は近くの椅子に腰かけた
火織は台の上に乗り
「ファイヤーボール」
安っぽい詠唱の後に拳大の火の玉が出現し
的に向かって飛んで行った
お世辞にも速いとは言えないくらいだったが
まだ一週間も経ってないのに凄いと素直に思った
それに間髪入れず
「ウォーターボール」
張り合う様に立花が水の玉を飛ばした
火織よりも速く命中し
ドヤ顔を決めた
何で張り合っている
それにムカついたのか
火織は大量の火の玉を創り的に向かって飛ばした
それに負けずに立花も打ち出す
長い間競い
最後は魔力切れで仲良く倒れた
何してんだこいつら
それを見届けてから書庫に向かった
■
俺は書庫から帰り持ってきた書物を机に置いて
ベットに倒れこんだ
こっちに来てから余り会話をする機会が無かったからどうしているのか気にはなっていた
がどうやって顔を合わせればいいのかわからなかったのが本心だ
けれどみんな頑張っているのか
そう思って安心したのかそれとも…
輝樹は武術の訓練
火織と立花は魔法
戦うための準備をしていたのだ
■
俺には力が無かった
あの時の輝樹がぶっ壊した測定器の代わりが来て俺はそれで測った
しかし結果は無残だった
《適正が一つもない》
これは国にとっても世界にとっても初めてで
俺が漁った書物にもそんな記述は存在しなかった
これは貴重で珍しい
ただ言えるのは
人類最弱、ただの一つも魔法が使えない
どんな奴でも使える生属性さえも存在しない
あの時異世界に召喚されて
みんなで戦うと約束したが
俺には何にも無かった
立花や火織の様な高い魔法適性も
輝樹の様な卓越した身体能力も無い
俺は何も得られなかった
あの時
俺は少しだけ柄にもなく期待していたんだろうと今ならわかる
みんなでなら乗り越えられると
戦えると
そんな理想を勝手に信じ
ありもしない力を期待した
馬鹿みたいだ
俺は少しの間泣いた
馬鹿だった自分に
この厳しい現実から逃げ出したい気持ちに
どうしようもない気持ちを吐き出させずに
どのくらい泣いたのか
「話がある来い」
扉の向こう側から聞こえた声に顔を上げた
全く聞き覚えのない声だったが俺は身体を起こした
ドアノブに手をかけ扉を開いた
外に立っていたのはこの城に何人もいる召使いの人に似ていた
ただ彼らと違うのは何か鋭い目つきだ
「何か用でも」
「お前の処置について報告がある」
彼らはこの国の上層部から送られた奴ら
ご丁寧に変装までしてきてやってきたのだ
「我々と来てもらおう」
扉を閉めようとすると隙間に手を入れてこじ開けられる
木でできたとびらにヒビが入り割れるような音がする
「いいから来い、さもなければ」
戦闘訓練のない素人の俺でも分かるほどの殺気を放つ
ここで殺されることはないと思いたいが何をされるかわかったものではない
死ななくとも痛みつける手段くらいはいくらでもある
魔道具がたくさんあったからそれくらいはできるはずだ
仕方なくその言葉に従おう
「わかった」
ドアノブから手を離し両手を上に挙げ降参を示した
一人の男が俺の腕を掴んで引き寄せ、そのまま腕を後ろに組まれた
「手間かけさせやがって、コイツを拘束しろ」
俺を捕まえる為にやってきた数人の人により腕を後ろに縛られその紐で首も繋がれた
「下手に動かすと首が締まるから大人しくしなよ」
腕を限界まで上に上げてようやく苦しくならない程度
紐は頑丈に縛られ簡単には解けそうもない
こいつら全員倒す?そんなの無理に決まってるさっき知ったばっかだろ
黙ってついて行くしかない
■
ある部屋につれていかれた
夜だったのと月が出ていないのもあるのか
その部屋は明かりが少なく俺を連れてきた奴らの顔が少し見えるかどうかだった
俺は椅子に座らせられ身動きが取れないよう縛り付けられる
少しの間待っていると扉が開く音がした
俺が入ってきたのとは違う方からした
そして奥の方から一人の男が現れた
貴族の礼服に身を包み、切り揃えられた髪
俺はこいつを知っている
一度だけしか見たことはないが輝樹と話しているのを召喚されてから少し後に見たことがある
という事はこいつは勇者と簡単に会える程の権力がある、それも召喚後一番混み合っているだろう時にだ
だとしたら結構な国の重鎮なんだろう
その男がだれか考えていると
「君には選択権を与えよう」
そいつは俺の目の前まで歩いて来てそう言った
「人を椅子にくくりつけて言う言葉がそれか、だったら選択じゃないな脅迫とでも言おうか」
これはどう見てもそんな雰囲気ではない
選択なんてない選ぶものは既に決まっている気がした
「立場というものを知っているかい?それ相応だと思うが不満か?」
「不満しかないが」
当たり前だ
こんなことをしといて腹を割って話し合おうと
拳銃突きつけて笑顔でお話が出来るかってことだ無理に決まってる
「そうかだったら世間話はやめて本題に入ろうか」
そう言って目を細める
「君にはここから出て行ってもらおう」
「死ねとでも」
ここから追い出されれば何の対策のない輩だ、すぐに野垂れ死ぬ
それだけは勘弁してほしいがこいつに慈悲という言葉があるか
俺は男を見つめた
「そうではないただ邪魔をするな、ってところだ」
「君達が元の世界に帰るには魔王を倒し、軍事にかかる魔力量を転移に使わなくてはいけない」
「それまで大人しくしろ」
「邪魔をした覚えはないが感にでも触ったか」
こいつら貴族は何かとこじつけてくる生き物だから本人の口から言わせれば少しくらいは制限をかけれるかもしれない
ありもしないことを本人の目の前で言える度胸があるか
「君に居られると勇者が揺れ動いてしまう、なんせお荷物だからな」
だろうな
自覚はしていたしこんな事があるかも知れないとは視野に入れていた
「そこで移動の話だ、別に自然豊かでいい所だ作物がよく育ついい所だと聞いているが」
こいつとぼけているのか
目の前の人が何を考えているのかわかる術はない
兎に角言えるのは俺を追い出したくてたまらない事だけか
それ以外は真実か嘘か
「まあすぐに準備しろ王都から山脈地帯を左回りに迂回して進むから時間はかかる」
山脈地帯か確か険しい道で強い風が吹き続けてるせいで通るのは無理だそうだ
その為山脈地帯とよく覚えていないがでかい森との間を通って進むと言っているのか
だったら魔族の侵攻ルートを横切るのか、あそこから進んだとこの海岸からやってくると書いてあったはずだ
こいつ俺を殺す気なのか
「魔族の侵攻ルートを一旦通るのにか」
意図的なのか仕方がないのか
確かに今の最短ルートはこれしかないが右回りなら多少時間がかかるが行けなくはないはず
「今は目立った動きはない、それに君を殺すと色々と不利になるたとえそれが間接的でも」
そう前置きしてから言った
「兎に角だまだ生かしておいてやる」
三日月のように口を吊り上げ笑った
それを俺はただ睨むことしかできない
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