ギフト
俺たちは作戦本部の前に転げ落ちた
地面を何度も転がり建物にぶつかりようやく止まった
「助かった」
一息つく
本当に死ぬかと思ったから
「これ以上君を巻き込む訳にはいかない」
輝樹が剣をついて立ち上がる
「助けてもらったことは感謝するけど死んでほしくないんだ」
輝樹のその言葉は俺と同じだった
「俺だって同じだそのためにここに来た」
フラフラな足で立ち上がる
地面に血をぶちまけるがなんとか立とうとする
「わかってくれ」
輝樹から俺の腹部に拳が入った
腹にめり込んだのかわかり吐きそうなのと意識が揺れた
「待て!俺は」
視界がブラックアウトした
■
声が聞こえる
「助けて」
振り返ると人がいた
真っ暗な空間の中一人だけしゃがんでいたのが気にかかったから近づいてみた
「痛いよ」
肩までしか無い髪の毛
細い体は性別不明で骨と皮しかない
縮こまっているその身体からして少年少女くらいだろう
「苦しい」
ポツリとこぼす
小さく擦り切れた声で発していた
「辛い」
俺はその子の肩を掴み顔を見た
その顔は目が複数個付いており大きな口を持っていた
頭から食われるくらいの大きな口、汚く並んだ歯
「どうして殺した」
言葉を発した
「何で」
それはこれが戦争だから仕方がない
君がどういう者だったのかたまたまかも知れない
何の罪がないのかもしれない
けれど戦争という言葉はそこまで甘くない
無抵抗だから?
優しいから?
良い人が徳を得る
もうそんな世界ではなくなってしまった
「悪魔」
だからなんだ
人間なんてそんなもんだろ
手のひら返しと媚を売るしかやることがない
「近寄るな」
それは前にも言われた
肩から手を離して後ろに下がった
「消えろ」
消えれるなら消えたい
これなとこから出て行きたい
「お前のせいだ」
吐き捨てるように言った
「どうして、仲間を、大切な友だったのに」
悪いと思っている
でもそうするしかなかった
ここで笑って死んでやるほど俺は馬鹿では無い、剣を握りこの場に足を踏み入れた時点で
覚悟はあったはずだ、殺す覚悟も殺される覚悟もあったのだ
だったらそれをとやかく言うのは筋違いだ
「何で殺す必要があった」
意味のない話だ
無理があるとわからないのか
「呪ってやる」
やってみろ受けて立つ
全部受け入れる覚悟でこっちに来てんだ
死んだって文句は言わない、俺が弱かったからだ
「殺してやる」
だからといって死んでやるわけではない
どれだけ辛くても必死に足掻いて生きるのが俺のやり方だ
呪われて死ぬ気ではさらさら無い
しかし他人に押し付けて自分を正当化する行いは嫌いだった
子供はずっと俺に向かって睨み続けたのを真正面から受け止めた
子供は何も言わずに自身の中で膨れ上がっていく負の念を溜め込んでいる
それにムカついた
昔の自分を見ているようだったからだ
「何か言えよ、殺したいんだろ!俺を、お前らの大切なものを殺してのうのうと生きようとする俺が許せないんだろ!」
俺はその子供に怒鳴った
「だったらやれよ、グチグチ言う前にやってみろ」
俺は子供の腕を掴み自分の首元に手を当てた
「やってみろ、力を入れるだけで締め殺せる」
しかし子供は何もしない
うつむいたまま動かなかった
「こっちは死ぬ覚悟で来てんだ、恨まれる事なんてわかってる。誰かの大切な人を殺す時点で復讐を受けるかも知れない道端で、家で寝ている時に殺されるかもしれない」
それが誰かを殺した者の辿る道
幸せな平穏なんてものはどこにも無い
死ぬまで誰かの殺意に怯えながら一人で歩くしか無い
「それでも自分の大切を守る為にやっている」
それでも
他の誰かを見殺しにしても自分が滅びようとも
それでも生きて欲しい奴がいる、道を踏み外して欲しく無い奴がいる
それだけで恨みを買う理由は十分すぎるだろう
「悔いは無い」
「何で…そう言い切れるの」
手に入る力は無い
弱々しい声で言った
「言い切ってるんじゃ無い、信じてるだけだ」
「俺はお前の憎しみを受け入れる覚悟で今こうしている」
子供の手を掴み顔を付き合わせた
「お前の大切を俺が殺した、報いは受けるが今は無理だ」
子供の目を見て言った
「全てが終わった時いくらでも受けよう」
子供はずっとそらしていた目を向けた
「この身体そのものはどうしてくれても良い、切り裂いても引き千切っても構わない」
「それをする理由は何」
強く聞いてきた
「誰も傷つかなくて良い世界、自由意志が持てる新しい時代」
ユノが願い俺が憧れた世界
「悪者は俺一人で間に合ってる」
誰かがやらなければならない事だから
俺がやる
■
「俺は!」
目を覚ますとそこは作戦本部より後方にある衛生兵のテントの中だった
狭いテントの中にたった一人だけ寝かせられていた
下に敷いてある薄いシートから上半身を起こす
起こす時に違和感を感じた、あれだけ沢山の剣が貫通してまともに動けるなんて事有り得ないのだから
そう思い身体を触ってみると痛みが無く身体中の傷が綺麗さっぱり無くなっていた
「目が覚めたか」
声の方に振り向くと一人の男が椅子に座っていた
「俺はエノク、初めましてだ」
「どうも」
いきなり挨拶をされて戸惑った
「やっぱり見えないか……」
「どうかしましたか?」
なにかを呟いたから聴くとはぐらかされた
「お前、どこまで覚えている?」
「輝樹に戦うなって言われて気絶させられたところまで」
無防備な状態の腹部に拳を入れられた
そのまま地面に倒れ意識を失った
「お前が気絶してから状況はあまり変わらず戦線は一向に進まない」
エノクは淡々と話を進める
「傷は治しておいた、それで戦えるか?」
「ああ、大丈夫そうだ」
「その前に渡しておく」
エノクはアタッシュケースのような箱を俺に向かって投げた
それを受け取り箱を開けてみると
「これは」
白い服が入っていて上着とズボンの二つだった
「着ろ、お前の師匠からのプレゼントだ」
「ユノが?」
と言うことはこいつは人間じゃない可能性が出てきた
あの見た目と年齢がかみ合っていない神
そしてユノ自身が長らく人と会っていないと言っているから
目の前の二十代くらいの奴もまともじゃない
「いいから着ろ」
促されて着ると上着は腰くらいの長さで前をベルトで止め、ズボンを履く
「なんだぴったりじゃないか」
確かに自分に合っている気がする
試しに回し蹴りやら拳を振るってみるが邪魔にはならない
なったら切り取ってノースリーブの世紀末にすればいいか
「その服は破損した箇所は自動で修復される」
「それとこいつは餞別だ受け取れ」
エノクがある物を投げた
それは容器に入った液体が十本
「それは器が全て破壊され魂と引き離されない限り修復できる」
少しでも残っていれば再生できる回復液ってところか
欠損部位まで治せるのはありがたい
「行ってこい、後はお前の戦いだ」
エノクは俺の背中を押した
「ありがとうございます」
俺はテントから出て戦場に戻ろうとした時後ろからエノクが話しかけてきた
「そうだったな、伝言だ『生きて帰って来い、必ずだ』」
「そうですか、ならこっちも頼んでいいですか?」
振り返らずに言う
「ちゃんと帰るので待ってて下さいと」
「伝えよう」
静かにそれを聞き取ってからもう一度屍を踏んだ
意見感想やご指摘をいただければ幸いです




