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対談

もう少しでこの章終わるはず…




「今の水成が行っても無駄だ」


エノクは強く言い放った

それはまるで何かを確信したように、絶対的な何かを確信して言っている

それはユノにも伝わった、しかし当然受け入れられるわけがない


「死ぬ、そう書かれていたのか」


冷静ではなかったがユノは吐き出しそうな感情を奥に飲み込んだ

ここで取り乱しても無駄だということ、そしてエノクに悟らせない為に


「違う……とも言えないがそうでもないようだ」


エノクははぐらかす


「水成は死ぬ、器がという意味ではなく中身の方が壊れる」


それを聞きユノは思考を巡らせる

あの水成が壊れる、どんな苦行も耐え歯を食いしばった彼が壊れるほどのダメージ

そんなものはユノの知る歴史では一つしかない


「…そうか、勇者が死んだのか」


今回の戦場で勇者が死ぬ歴史は少なくは無かった

それでも満身創痍で生き残る事の方が多く、その時点までは時間がある

実際、戦争が始まってから時間が経っておらず街にまで被害は出ていないのだ


今頃精々荒野で殺し合っているはずなのだ

それに魔族の新兵器もまだ完成していない

この戦争は引き分け、痛み分けで終わると読んでいた


だから水成の行動を許容した

まだ時間があると思い油断していた


「そういう事だ、僅かでもその道はあっただろ」


「それに…」


エノクは続けた


「水成自体を認識できなかったお前がその続きを知ることはできない」


水成の存在自体が異端であり存在してはいけないイレギュラー

そのためユノは今まで予知によって水成を見ることはできない

彼が成すことは全てその眼で見なくてはいけない


「俺達が変えられるものには限度があった、人一人生かすか殺すか、名を連ねる俺たちには

難しすぎる」


神の半分しか受け継ぐことのできなかったユノ

世界そのものに縛られているエノク


彼らは自由意志があっても行動には制限がかかる


ただ一つの例外を除いて


「これからはもう予知は機能しない」


その例外のせいで得もあれば損もある

未来が常に変わり続ける事により一定の予知を見ることができなくなっている

見えたとしても一秒後何が映っているのかはわからないのだ


「それに水成以外の人間には認識すらされないお前にできることなんてほとんどない、声も姿も知覚されないだろ」


「それは……」


ユノは押し黙った


事実だったからだ

誰にも言っていない事


水成以外の人には知覚されない

それは不完全に力を受け継いでしまい、世界から隔離された者の宿命

フェルシオンが起こした数千年前の惨劇

ユノにそのことがフラッシュバックする


「それでも今から行けば間に合うかもしれない」


孤独に耐えてようやく出会えた希望を失いたくないとユノは覚悟を決めようとし

空間に穴を開けて飛び出ようとした


「それにこの空間から出ればまともに動けないだろ、時間切れで死ぬだけだ」


エノクがユノの肩を掴み引き止める


「それでも何とかする」


一向に譲らない

絶対に水成を死なせたくないという気持ちが目に見えて判るほど出ていた

感情を表に出さない彼女にしては珍しいことだった


「時空転移も存在抹消も使えないお前が行って何をする、ここで死ねば後がない」


もう一度エノクは本を取り出してユノに向け険しい顔をして言った


「今ここでお前に消えられると計画が狂う」


「今回は先代勇者の武具が向こうに渡った所為でこうなっているらしい」


先代勇者の武具、それはアリオスの忘れ形見でもあるその事

それを聞いてユノは驚愕の表情を表した

それもそのはずアレはもう使い物にならないはずだった


「いくら数千年ぶりに触れ合うことのできる人間だとしても、ようやく会えたお前の希望だとしても」


「ならどうすれば良いの」


ユノにとって取りたくない策だったがこの際何もかもかなぐり捨てた


エノクにとっても水成が死ぬのは良くないはずだ

なら答えは同じはずだ、そしてここに来たということはエノクには何かあるとユノは感じ取っていた

それならエノクは解決策を持っている


「教えて、なにをするべきなのあなたの計画に彼を生かせるものが入っているのでしょう」


少しの間沈黙が流れる


「ああそうだ、なら出してくれ」


エノクは肩から手を離して一歩後ろに下がった

そして片手を出して


「あるんだろう?渡すはずだった装備が、今すぐ出せ」


エノクはそんなことを言った


「何をするつもり」


それは水成に与える装備の事だと瞬時に察することができた


まだ未完成で誰にも知られていないはずなのに何故かエノクは知っていた


「それを渡す、この際だ全部変えてもらう、勇者は助けてハッピーエンドにするしかない」


ユノからすれば不気味だった


「ここで力を使えば動きづらくなる、最後までいられる保証は無い」


ここで不用意に力を使うべきではないのだから


しかしエノクは聞き入れないとユノは判断した

ここは彼に従っておこうと大人しく頷いた


「わかった」


そうしてユノが取り出したのは白いコートだった

コートというには少しばかり短く、腰より少し下くらいの長さしか無く

何の装飾もされておらずシンプルなものだった


「それで良いのか」


確かにそこらの鎧に比べれば良いものだがこれから戦場の最前線に出る者の装備ではない

魔導収縮砲を数回食らえば消し飛ぶだろう


「まだ未完成、完成した物の三割程度しか無い」


未完成で十分な防御力がないが丸腰で向かった水成にとってはそれだけもあった方がいいのだ


「無いよりマシだろ」


そう言って白いコートを持ち上げ右手に作った黒い渦に入れた

そうしてエノクが空間を歪めた所で


「あなたの背後に誰かいるの?」


その答えにエノクは不敵な笑みを残して去っていった



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