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復習回のようなものです



目を閉じるといつもの光景

あの時の景色


それは忘れないという戒めの意味なのかただ忘れることができないのか

俺にとってはどうでもいい話だ





俺はこの時生まれて初めて

人間が俺たちが当たり前だと思っていた事を感じた

誰にも脅かされることの無い日常は無いのだと


死にたくないではなく


俺は心の底から生きたいと願った


馬車の中から流れる血がその気持ちを増幅した


落ちていた剣を拾い構える

輝樹がやっていたように両手で正面中段に構えた


足が震えてるのが分かる

逃げ出したい 泣き出したい

だけど俺は


生きたいというものを持ち


「ゔあああああああああああ」


力一杯叫んだ


全体重をかけた踏み込み、重力と共に振り下ろされる剣

そこから生み出されるパワーで魔物をぶった斬った


ーーーーーー




「まずは水成、あなたの傷を治そう」


泣き止んだ俺にユノは言った

その言葉に俺は自分の腕を見た

膝の部位から千切れた腕が元に戻るのか不安はあるがここで渋ったところで何も起きない

ならばその言葉を信じるしかないだろう


そして俺は一歩踏み出した

先の無い腕をユノに向けた、治るということを信じて


そしてユノが腕に触れると淡い光が出た

優しい光、これがあの時聞いた治癒魔法だと感じた

ゲームとかでは無い現実はこんなにも優しいんだな


感情に浸っていると腕が生えてきた


「これで良しと」


俺は自分の腕を見ていた

指を動かし手首を回す、本物で二度と戻るはずのない腕だ


「す、すげぇ」


頭の悪い言葉しか出てこない


ついでに足も治っていた、腕ほどではなくとも足のダメージも酷かった

あんだけの衝撃を耐えたのだ限界値を超えている


それも昨日の傷以外の昔スポーツしていた頃の古傷まで

これは腕ではなく身体全体の悪いところを直してくれたのだろうか



俺は治っていく腕を見て思い出した


「なぁ、これってどんな怪我でも治せるのか…ですか?例えばこの腕みたいに失った物とか」


俺はとても食いついて聞いた

ウザがられたかもしれなかったが今知りたかったのだ

これの使い道


「治せなかった事はないが、何故だ誰か怪我でもしたか?」


「まあそんな感じです」


ユノは小さくため息を吐いてこっちを見た


「あなたの働き次第」


「じゃあ…」


治してくれる、しっかりとその口から聞いたわけではないが可能性が少しでもあった

俺はそれが嬉しかった、この世界に来て嫌な事ばかりだったけどようやく少しの希望を見つ

けた、






ーーーーーー




自身の過ちを見せられ続けた

何度も何度も、やめてくれと叫んでも目をつぶっても叩いても流れる地獄のような光景

二度と見たくなかった、掘り返してほしくなかった傷口


「これがお前だ」


「違う」


絞り出した声で反論する


「本当にそう思うか、認めろ」


「お前に幸せは訪れない」


俺の心が折れた

口から溢れる黒いものに飲まれる


「一生背負う罪がある」


やめろ

言葉にすらならない叫び声


「その手で誰かを握れるか」


やめてくれと叫んでも声など出ない

奴は口を閉じない


「誰かが必要としてくれるのか?」


記憶にある人たちが見えなくなっていく

顔が見えない、モザイクがかかったようにボヤけてる


「そんなやついない」


行かないで

置いてかないで

必死に手を伸ばすが誰もとってくれない


「お前に幸せは」


「無理だ」


どうしようもない現実

変えることのできない過去の出来事

確かに俺はあの時全てを奪った、希望も未来も

そして二度と夢を見る事が出来なくした


「全て奪った、周りの人間からまた奪うんだ」


そうだ、俺は全部奪った

これから会う人からもきっと奪うだろう

全部言う通りなんだよ、俺は出来た人間じゃ無いむしろ糞な奴だ

勝手な都合で傷つけて、結局何もできない最低野郎だ



奴は俺の顔面に蹴りを入れる

無様に地面を転がった、俺が通った所を鼻血が道を作っていた


それを奴がゆっくりと辿ってくる

見上げる形で奴を見ていた


その時何故か頭の血がスッと引くのがわかった、少しだけ冴えてきたと感じる

光の無い目で睨みつけるその眼を見てわかった


そうだったのか


きっとこいつは誰にも会えなかった俺だ

俺が塞いで閉じ込めたから誰にも触れる事が出来なかった自分

そしてこれは後回しにした俺の罰、一人として歩こうとしなかった罪だ


俺を見下ろす瞳はどこか寂しそうだと

こいつは俺で、俺のもっと暗いところだったんだと今気づいた


奴は俺の胸ぐらを掴んで持ち上げた


ようやくちゃんと顔が見えた

俺と同じ顔してる、あの時崩れた俺と同じ

塞ぎ込んで全てに絶望した最低な奴の顔、鏡に映る醜い顔だ

俺と同じなんだ何もかも


奴は俺を殴った

地面に這いつくばって倒れる


だけど俺は知ってる、これに何の意味も持たない事を

俺が勢い任せにぶん殴るのと同じで何も無い

勝手な行動、意味のない憂さ晴らし


やっぱり小さいな


「俺が本当の俺だ」


「そうだろうな」


そんな事わかりきってる

最低野郎だろう、糞だろう

わかってる知ってる理解してるそれくらい当たり前だ

何もできない何もすることすら出来ない

行動に意味を持たず、屍とおんなじだ


「そろそろ消えろ」


奴は拳を握った

振り上げられた拳が高く見える

ゆっくり降ろされる拳を放心して見てた


顔面にめり込み後ろに飛ばされた





消え入りそうな意識の中流れてきたのはこの光景だった


なんでもない日ただ話しただけだ

どうして覚えているかもわからないこの光景なのか


『何かしたい事はないの』


そうだったな、聞かれたんだ


『どうしたそんなこと聞いて』


『目標を決めるの、そうした方が頑張れそうでしょ』


この時ユノは俺に持って持ってほしかったのかもしれない


でも俺は


『死亡フラグになりそう』


『それが何か知らないけど、はい言って』


あの時は誤魔化したけど


「俺嫌だったんだ」


弱々しいその声は俺の奥底に眠っていたものだった


ようやく気付いた、いつのまにか置いてきてしまった自分の気持ち

バカだなあ俺は、ずっと偽っている内に自分を見失ってた

偽りの自分に食われてしまっていた、自分で自分を洗脳してた


背後にへばりついた黒いものを取り払う

黒いものは跡形もなく消えた


俺の仮面にヒビが入る


「自分が、何もできない自分が、どうしようもない現実が」


「お前には無理だ」


奴は俺を踏みつけた

踏む力は次第に強くなっていく

痛いし辛い逃げ出したいこんな事があるかと叫びたい

全部投げ出して逃げたくなっただろう


今までなら


「でもさ、」


俺を必要としてくれた、信じてくれた

だったら答えるしかない、俺がすることは今決まった


信じて待ってるんだ

だったら答えるしかないだろ




いつかのことを思い出した

それは最近のことだった、食事が終わった後片付けをしている時だった


『ねえ私に料理教えて』


『急にどうした』


急に聞かれて驚き手を止めた


『何、ダメなの』


ジト目で見てくるユノに俺は折れたのだ


『分かった、また今度いつかだ』


『絶対にね、破ったら承知しない』


そう言う彼女は少しだけ笑ってた気がした




『ちゃんと帰ってくること、良い?』


『分かってるってそうそう死なない』


言いよるユノに下がりながら答えたことがあった




いつも屋敷を出る時森に入るとき


『いってらっしゃい』


そういってくれた

無性に嬉しかったんだ、いつも見る誰もいない玄関と灯りのない部屋を見るのが

返事が返って来ずただ響くだけの声が寂しかった


魔物に追われてボロボロになって帰ってきた俺に


『おかえり』


そういってくれたのが嬉しかったんだ

知らなかったんだ、誰かが近くに居てくれる喜びが

ずっと求めていたんだ、誰かに言われたかったから頑張ってきた


才能があるからサッカーやってたわけじゃなかった

みんなからの声援が嬉しかった、声を掛けてもらえるのが嬉しかった

当たり前のようでなかったもの、ずっと何処かで欲しがってたもの


この手の中にたり無かったものがやっとわかったんだ


俺にとっていつもいてくれて待ってくれる存在が初めてのことだった

灯りのない部屋も誰も居ない家も、振り向いた時闇しかない孤独感が恐ろしかった

そのまま一人ぼっちだと思っていた


でも今は違う


「帰んなきゃいけないんだ、待ってる奴がいるんだ」


暗かった俺に手をとってくれた


もう一度力を入れる

重い体を両手で踏ん張って上げた、ギシギシと音を立てるが辞めない

歯を食いしばって立ち上がる、


「後で怒られるかもしれないな」


「………」


「ユノにはもう少し俺が必要みたいだ」


立ち上がる、体はまだ重い

今にも潰れそうなくらい重かった、けど引くわけにはいかない

ここで負けたく無い、自分の意思を曲げたく無い

そう思ったのはいつぶりだろう


「その先に未来があるのか」


そいつは言う

未来がないと、その先にあるのもは何も無いと

誰も救われず破滅を歩むのか、


「わからないけどやんなきゃいけない」


「他者から与えられた使命なのにか」


「そうだ」


今なら胸を張って言える気がした

偽りでなく自身からこぼれ落ちた言葉、ようやく掴んだ俺の本心

長い間俺にかかっていた仮面は音を立てて崩れた


半透明の仮面は消えた、濁って見えていたものがくっきり写る

そうか、こんなに綺麗だったんだな


「その先で必ず絶望するのにか」


絶望なんてしない

最初が他者の意思でも、自身の意志から出たものでなくても

この想いは偽りなんかじゃない、ここにあるのは純粋な気持ちだ


未来がないなら切り開く


「そんな道があると思うか」


「だったら俺が征く」


先陣切って突き進む

後ろなんか見ない、後悔なんてしない

たとえどんな困難があってもドス黒い闇に飲まれようと

自分を見失ったりはしない


「人はそこまで強くない」


「運命によって決められたレールの上を走るのみ、感情や心など初めから決まっていた」


たとえそうでも俺達は屈しない

絶対に抗ってみせる

四肢を繋がれようとも貫く覚悟がある


そんなクソみたいなレールなんて

最悪を良しとした運命なんて必要ない


「その状況を作り出した運命を俺は…」


俺達は自由なはずだ

運命なんて概念に囚われる必要なんてない

よれよれでも不格好でも足で立って歩けるのだから


「ぶっ壊す」







「やめろ!俺たちは一人なんだ」


「だれも居ないんだよ」


地面に叩きつけられ 全身に響く衝撃


「だから…」


「何だ、終わらない、終わらせない」


「一人じゃないから」


「現実を見ろ!誰が手を差し伸べた、みんなみんな見限ったんだ、見捨てて諦めて」



奴は俺の顔面に蹴りを放つ

見えもしない反応すら出来ない

ただあるのは鼻の骨を砕き、顔をぐちゃぐちゃに潰した事実だけだ


首が千切れそうなくらいの衝撃に耐えきれ身体ごと浮いた


「諦めろ」


同じ自分のはずなのにこの実力差

その差が何なのかは分からない、いずれ分かる時が来るだろうがそれは未来の話

この状況で勝てる見込みはゼロと言っても過言でない


それでも諦めるわけにいかない



「悪いなそうにもいかないんだ」







硬い拳は肉を打ち、骨まで達して痛みとなる

皮は擦れ血が流れる。苦しみと痛みの入り混じった音をあげる

喉に詰まる血液を吐き出して再び拳が交差する


何度何度も殴り合う


泥臭い殴り合い、子供の喧嘩と思えるくらい稚拙な戦いだ



裂けた拳はそれでも止まらず殴り続ける

上から下へ、ただそれだけの動きを何度も何度も繰り返している


意地の譲れないただ一つのもの

他人を信じようとした男と関わりを拒絶した男の対話


「何がだ!それが綺麗か?他人の理想のために犠牲になってかっこいいか?」


「誰が同情する、誰が認める、そんなお前を見ている奴なんていない」


「自分が一番可愛いんだ、他人が傷ついても構やしない」


馬乗りになって叫びながら殴る

顔は腫れ上がり血を流し、それでも彼の意思は折れない


「そんな奴のために、そんなクズどものために……」


髪を引っ張って顔を近づけ殴った

鼻血が擦り切れた拳に着く

後ろに下がった隙に男は腹部に蹴りを入れ立ち上がる


飛ばされた男は手をついて立ち上がる


「引っ込めよ、引っ込んでろ!出てくんじゃねえよ」


立ち上がる時顔面に蹴りを放つが避けられたカウンターをもらってしまう


「綺麗事でどうにかなるのか、笑い者にされて終わりだ」


しかし彼は止まらない

腕を掴み折にかかった

関節を使い腕を折る洗練された動きではないただ力ずくで折る


「離せぇ」


肘で頭部を殴る

男は諦めない


骨は音を立て、ついに限界を迎えた


「がぁぁぁああああ」


腕を折られ叫ぶ



「何が悪い!理想が、気持ちが、あいつの思いが」


横から蹴りを入れ倒れ倒れた男を何度も蹴った


「人を信じる事が間違いだとでも」


「わかってるんだろ、後悔してんだろ」


折れていない腕を掴み引き寄せた


「ふざけるな!勝手に思って解釈して、自己満足でやってられるか」


頭突きをする


「掲げて、夢見て、信じて、悪いのか!俺の気持ちは悪いのか!」


倒れそうになるが腕を掴んでいるから動かない


「黙れ!」


「ふざけるな!」


振り上げた拳が捉えた


「ガァ…ッガハ」


「傷付きたくなくて逃げた、あの時の喪失感をもう味わいたくなかったから自分から避けた」


「悲しみたくない苦しみたくない違うか?」


「答えろ!」


「黙れ!」


「答えろ!」


髪を引っ張って持ち上げる


「俺はまだこんなもんじゃない」


殴った


「俺は変わる」


殴った


「絶対」


殴った








「後悔なんてしない、這いつくばってでもやってやる」


「諦めろ」


「うるせぇ!やったことない俺達が言えるかよ、まともにしたこと無いのに言えるかよ」


「俺は負けない!お前に、」


絶対に


もう一度立ち上がる

拳を握る


殴れ、殴れ



繋がっている

同じ自分だからかさっきよりブレているから

こいつの中が見える


「■■■■■■■」


「■■■■■■■」


「■■■■■■■■■■■」


「嫌だ」


そうだよ

怖いよ


でもそれじゃ何も始まらない

何も変わらない


わかってる


踏み出せない


傷つきたくないから

だがらずっとここにいる

傷つかない怖くない関わらない


ずっと同じ動かない


それが一番


冒険なんてしない

どうせどうせどうせどうせ




俺は変わる

だから



「俺はお前の汚い所を認める、だからお前も信じろ!信じてくれたあいつだけは裏切らない

ようやく出会った信じれる奴なんだ」


「それは……」


奴の胸ぐらを掴んで引き寄せた


「俺を見ろ!汚いだろクズだクソ野郎だよ」


「………」


「だがな、あいつは違う俺を信じてくれた」


「俺たちを見てたんだよ!できるってやってくれって俺たちにこんな俺たちに、それ以上の幸せがあるか!ずっと前から認めてた、俺たちに俺たちにだがら」


殴る力はもうない


奴を掴んだまま力なく崩れ落ちる


「俺たちは許されない、一生かかっても罪滅ぼししても無理だ、だけどあいつは違う」


「だけど」


「俺たちはまた誰かを裏切る気か!また、ふざけるな!」


「うるさいうるさいうるさい」


背後に後退しようとした奴の足を引っ張って倒す


「がぁぁぁぁぁぁああぁあ」







ーーーーーー



「おいお前!準備できてんだろうな」


奥から聞こえる音にゆっくりと目を開く

クリアになった視界

手を握ったり開いして感覚を試すが大丈夫だ、不調なところはなさそうだ


「問題ない、いつでもいける」


「もう着くから」


分かっている


戦場


はじめての殺し合いの場に着く

それが俺の中を駆け巡る

話で聞いたり知識としては嫌という程知っているが実践はしていない


既に人を殺している俺が何を言っても戯言



だけど


絶対に生き残る


そして救ってみせる必ず



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