次に
「ありがとうございます」
目を逸らしながらお礼を言われた
それもそうだろう先ほどまで俺は魔族相手に大量殺人をしたんだ
恐れてもしたかない、自分たちもそうなるかもと思っているかもしれない
その恐怖に耐えている
仕方ない
ここで我を忘れて暴れた俺が悪い
自分の弱さが招いた結果だ受け入れるしかない
助けたからといっても敬られるはずはない
敬われたかったから戦ったわけじゃないが助けた相手から恐怖の目で見られるのはいい気がしないと思った
いつまでもこんな場所に入れておくこともない
魔族はほとんど殺した
少なくともここら一帯は全滅しただろうから捕まった人たちを出してもいいだろう
檻に手を触れると悲鳴が上がる
俺は檻をこじ開け中にいる人たちを解放する
足が使い物にならない人は持ち上げて運んでやる
ついでに首や足に付いている枷も壊す
敷き詰められた人たちは少しずつ外に出ている
俺は回復魔法なんてはなっから使えない
傷を負った人へは何もできない
ただ棒立ちで眺めていると足を引きずった母親とそれを支える子供がいた
まだ幼く母親を持ち上げる事や支える事ですら満足にできていなかった
俺は不憫に思ったのか手を貸そうと差し伸べると
「来ないで!」
子供は泣きそうな目を必死にこらえていた
殺されると思ったのか、足が震えている
「……わかった」
■
穴蔵
それは俺たちの世界で防空壕のようなものだと思っている
だが一家に一つあるものでなく一種の施設だと思う
現に領主邸の近くにある建物の地下にあったから間違いないだろう
半壊した建物の瓦礫を退かしながら進む
魔族達がここを漁った際を破壊したと思われる家具
タンスやクローゼットで隠されている部屋の扉が壊されていたお陰で
隠し部屋を探す手間が省けた、こういうものは厳重に隠されている
わざわざ一つずつ確認しなくて済んだ
これは楽をした
しかしこれが意味することはわかっている
すでに魔族に入られていると言うことだ生きている可能性は無い
逆に魔族が潜伏しているかもしれない、警戒して振霧を使っておこう
石でできた階段を降りる
思ったより作りがしっかりしている
殴ったも壊れはしないかもしれない
壁に手を当てながら慎重に降りていく
途中いくつか壊れていたからだ、戦闘でもあったのか
こんな狭いところでは戦いづらいだろう上をとったら勝ちだな
穴蔵の中は予想より遥かに酷かった
漂う死体の匂い、焼き尽くされた人体
焼死体となってなお原型をとどめているものはごくわずかだった
髪の毛が散らばり熱され固形物となった血液
焼き焦げた死体が大量に重なっているゴミを積み重ねたよう乱雑に放られている
残された部位は黒く赤く日で炙っような感じで死んでいた
より中に入ると灰になった人たち
骨だけなったものが沢山転がっている
生きたまま死んだのか、残された骨の形はもがき苦しみ必至に火を消そうとしたのが
目に見える
鼻に付く匂いがした、先程感じた死体の匂いではない
それより不快感が少ない
何があるのか匂いの元である液体を見つけ触り匂いを嗅いでみる
ガソリン
いや違う似てはいるが多分違う
異世界も似たようなものがあるのか
魔族たちは穴蔵の を見つけた後ガソリンもどきを流し込み火を放った
地中の為外へ出られない、狭い空間の中で爆発が起こったのだろう
人間が絶えられるものではない
俺のような技術があっても爆発を防いだ後、酸素低下で死亡
どう転んでも殺せるのだ、初めは魔族ではなく魔物のために作られたものだ
知恵を持たないものなら良かったが、彼らにはあって作戦を立てていたのだろう
きっと穴蔵のことも知っていた
知っていた上で対策を練ってきた
土壇場で組み立てたお粗末な作戦なんかより
初めから戦うことを予測した上でなら勝つことができる
当たり前のことだが戦争なんてそんなものだ
情報の多い方が勝つ
■
国の軍がようやくやってきた
軍と騎士は違うものらしい
輝樹がいたところは騎士だそうだ
軍も騎士も国が所有していることに違いはないが
規模が全く違うのだ
軍自体は誰でもなれるしすぐに追放されることもある
競争率が高い、いわばピンからキリまでいるということだ
強うやつから弱いやつまで頭がいいやつから悪いやつまで
一方騎士はエリート中のエリート
だいたいが貴族のでだったりするのはそのせいだ
そして目の前にいるのはむのう
「良い気になるな、俺たちならもっと早くお前らなんかよりできた」
わざわざ突っかかってきたのか
知ってるさでもな俺は自分の気持ちが抑えられなかった
その未熟さが原因だって言いたいのか
対して何も知らずに今ようやく遅れてきたってのにいいご身分だな
「やめろ!そんなことをしても意味がない、俺達が着くまでの間彼らが無事だという保証は無いむしろ礼を言うべき相手だ」
横から入ってきた大男は少年を引き剥がした
しかし少年は言い足りないのか睨みつけてきた
「無事に決まっている我々を敵に回すなんて考えられない」
全く持って意味のない言葉
そこに何があるのか、その絶対的な自信はどこから来るのか知りたいくらいだ
「それを慢心と言う、醜い真似はやめろ」
正論で少年を教えようとしているが一向に聞かない
まるで自分が正義だと言わんばかりにだ
こいつを見ていると先の魔族を思い出す
今すぐにでも殺してやりたい衝動に駆られるがここでこいつを殺してしまえば
俺は引き返せなくなってしまう、敵以外も気にくわないやつ全て皆殺しにしたいと思っているからだ
神経が過敏になっていても許されることではない
ここで問題を起こして後々輝樹達に何かあったら俺が困る
ここは我慢しなくてはいけない彼らと同じにならないためにも
「ですがこいつは被害を出した」
少年は食い下がらない
自分の意見を貫く様子だったが
「やめろ」
大男の低い声にびびって黙った
彼はこの少年の上司なのか蹴落とせるだけの力がある
「ゔっ、はいわかりました」
「ここを鎮圧してくれたこと感謝する」
「たまたまです」
「君の仲間はどこにいる、できれば呼んできて欲しいのだがハンターなのだろう」
この人は俺をハンターだと勘違いしている
それもそうだろうハンターは確か街の防衛が義務ずけらており
こんな非常時なら率先して戦いに向かうものだ
「違いますただの旅人ですよ俺は」
「では残っている兵は君と共に戦った者達はどこにいる、ここの指揮をとったものがいればいいが」
居ないがどうするか
帰ったとかっていうか
無理だな誤魔化すのは無理そうだからいうしかない
「いません、一人でやりました」
「それはすごいな」
大男は少し考えてあら
「この先にある戦場にできれば俺たちときて欲しいのだが」
やっぱり魔族が居たから何かあると思っていたがそんなこととは
すでに始まっていたのか、というか今始まったのか
どちにしろ答えは決まっている
「行きましょう」
戦地に向かうことになった
戦いは始まったばかりですこれから激化する
誰かが犠牲になってしまうしその中に輝樹達も含まれているだろう
そのせいで失ってしまえば俺の意味がなくなる
今までしてきたことの意味が全てなくなってしまうのだ
だったら戦うしかない
俺がしてきたことの意味があると
そして何も失わないために
それと帰りが遅くなりそうだ
■
「何しに来たの」
ユノは誰もいない空間に言い放つ
すると空間に歪みが生じて中心部から一人の男が現れた
男の格好はみすぼらしいと言えるボロ布を纏っている
「ちょっとな」
半笑いで答える
「七番目、語り手、書き記す者、ブックマン、観測者、ミチビキ、どれで読んだ方が良い?それともエノクが良かった?」
イヤミのように言った
「随分とやってくれたようね」
「悪い話じゃないはずだ、勇者を青いままにする方が問題のはずだが」
エノクと呼ばれた男は地面に座りあぐらをかく
「あなたがこちら側だからいいけど寝返ったら殺す」
ユノは普段絶対に見せない鋭い眼光
彼女を中心に放たれる殺気、視界に写ったもの全てが崩れ落ちてゆく
「俺がか?馬鹿言ってんじゃねえよ俺作ったのアリオスだろ」
「だからといって裏切れないわけではないはず」
警戒を全く解かないユノ
対するエノクは何も変わらない、何か確信している様子で
「まあ少なくとも」
そう言ってエノクは懐から一つの本を取り出した
「こいつのようには行かせない、利害の一致だ」
「それは何?」
「ある男から受け取った本だ、それ以上は無理だ」
エノクは微笑する
「こんな事しに来たわけではない」
本を一旦懐に戻して立ち上がって言った
「水成が戦地に向かった、こいつは最悪の状況だと思わないか?」




