戦いは辛い
心がブレまくる主人公
魔族の兵から身ぐるみ剥いで奪ったものを着てなりすます
やってることは泥棒だけど非常時だ仕方ない
何食わぬ顔で扉を開けて家を出た
帽子を深く被り顔を半分くらい隠して歩く
これなら道のど真ん中を歩いても良さそうだ
それにしても普通に魔族歩いてるからもう人は残っていないんじゃ無いのか?
門は閉められていたしこの世界に通信手段があるとは思えないし
もうすでに人間がほとんど生き残っていないと見ていいだろう
そうなるとどうなってるのか
他の街も同じような状況なのか、たまたまここだけ占領されたのか
少なくとも魔族が攻め入った話は聞いていないがこの場で何を言っても変わらない
もうすでに戦争が始まったとみていいだろう
輝樹達が居るだろう王都とはかなり離れている、ここに入る前に軍隊を見かけていないから
この街より先はまだだろう
ここで何かをしているんだな
準備でもしているのかそれとも先行部隊が何かか、一足先に楽そうな所を攻める
ゲームとかでよくあるやつだ
色々考えながら歩いていると異臭が漂ってくる
その方に目をやると一つだけ転がっていた
俺はなぜか近寄った
行かなくて良いのに足が勝手に動いた
地面に倒れている人間の死体に手を触れる 冷たいな
死斑が固定していない、殺されてからまだ一日経っていないのか
でも死後硬直は現れてるし体温が低いから五、六時間は経ってるだろう
斬られたのか
背中から血が流れたように見える
死体を横に動かすと何かがあった。大事そうに子供を抱えていたのか、子供に覆いかぶさって死んでいた
守ろうとしたのか、だが背中から子供ごと刺されて死んだ
意味は無かったのか
俺もさっき殺した
あの場で殺さずに切り抜ける事は出来なかった
『その手で誰かを握れるか』
あの時受け入れて乗り越えたはずなのに自分の中で響く言葉
初めて誰かを殺したよ
何も感じなかったわけじゃ無いがあの時そこまでうろたえなかった
流れままに首を掴み、訓練通りにへし折った
『その先に未来は無い』
俺は死んだ親子の目蓋を閉じてあげてから壁にもたれさせた
彼らはいつか骨になる、誰もここで死んだことに気づかない
勝手に殺して死体の上で胡座をかいて平和を歌う
こんなものに正義は無い、ただのエゴを押し付けるなんだ
これが戦争か
良い気はしないな
こんな嫌な事早く終わらせなきゃ
俺が壊れる
■
「おいお前!」
「はい、何でしょう?」
魔族とのすれ違いざまに声をかけられた
「さっきお前が来た方から音が聞こえたがどうかしたのか?」
どうする
そいつ殺しましたって言うのか、無理だな
なら
腰を落とし剣の柄に手をかける
限界まで力を溜め踏み込む、地面のひび割れる音と同時に
敵の首を見据えて抜刀、斬撃は首掻っ切った
吹き出す鮮血に膝から崩れ落ちる死体、転がる生首
やめておこう
せっかくここまで来たんだ
騒ぎを起こして全て水の泡にしたく無いからな
「いやぁ、四足歩行の巨大ゴキブリが交尾してまして」
「そ、そうか災難だったな」
なんとかなった
ここからはつじつま合わせをしなくてはいけない
こんなものを見逃したらおおごとになる
「しっかりとどめは刺しておいたので大丈夫です」
「そうなら良いが俺は向こうに行くがお前はどうする?」
ついていくことは無理だ
いつバレるかわからないんだ、危険をわざわざ犯したくない
目的地に一直線したいのだ
「一旦戻りたいですが場所がわからなくて」
それとなく聞けば教えてくれそう
忘れた風を装えば良いのか、もし伝達があったらヤバイし
「作戦本部か、ここから右に真っ直ぐ行けばつくはずだ」
魔族は右手を指して言った
「ありがとうございます」
ふぅ
バレてない
めちゃくちゃ焦ったわ
だって話しかけられるとは思っていなかったし、疑われたのかってびっくりしたし
そのせいで変な受け答えしかできなかったんだけど
作戦本部とかいう場所がわかったしいいのかな
それにしてもよくバレんな
帽子なんか被るから使われるのになんでだ
お陰で良い思いしてるから良いが味方がこんな服装提示したら絶対怒るわ
向かう途中に民家に入る
クローゼットの中やベットの下他にも隠れられそうな場所を隅々まで探す
地下室とかまで探しついでに天井も見上げる
やっぱりいなかった
仕方なく言われた方向へ足を運ぶ
途中沢山の魔族とすれ違うが全く気にも止められない
バレてないのは良いことだ
それにしても人がいない
何度か民家を除いてはいるが一向に見つからない
やっぱり穴蔵にいるのか、探さないといけないな
だが目星をつけたハンターギルドにも行っていないし領主邸にすら行っていない
何かでかい建物があればそこかもしれん
頼むから生きていてくれ
俺は道を駆けて行った
■
本部にたどり着いた時
笑い合い食事をしている魔族
武器の手入れを熱心に取り組んでいる魔族
物資を運んでいる魔族
沢山の魔族がいた
彼らは戦いの準備をしている
それはごく普通の光景なのか彼らの日常か
だとしたら
「がぁぁぁああああ」
「ギィヤアアア」
異様な光景
人生で初めてこんなものを見た
最悪としか言えない、心が無いのかそんなもの悪魔だ
檻に隙間なく詰められた人間、無理やり詰められ押し込まていた
隙間から出ている手足は赤く腫れ上がり血が出て折れている者もいる
家畜のように扱われる
潰された喉で必死に呻いている、助けてくれと嫌だと痛いと苦しい
聞こえてしまう
吐きそうになった
胃を臓器を直接掴まれて挙句シェイクされたくらい気持ち悪い
こみ上げる嘔吐物と怒鳴りたい怒り、しかし今の状況でどうすることもできない
今の俺は魔族として潜入中だから不穏な動きはしてはいけない
周りにいる奴らと同じように
何も不思議で無い様子を装うしか無い、叫びたくても助けたくても
歯ぎしり一つ起こさずに黙って見ているしか無い
この世界では奴隷というものは存在しない
俺たちの世界はどういう経緯か知らないがこの世界だと人気取りのために開放したらしい、今から三百年程前のことと聞いている
だがその常識が多種族まで使用されるなどという幻想は崩れた
無いんだ。
モラルも道徳も無い
あるのはただの優越感
自分の方が上で、相手が下
それで圧倒的な立場を構えて喜んで胸張って自慢して俺が上だと
何がだそれのどこが、お前らは何をしている
人をゴミみたいに
汚物をゲロを道端に捨てられたガムのように見ているのか
何をしている俺
何故殺さない何故襲いかからない
この距離なら一瞬で殺せる
我慢するしかないのか
それが良いのか
それで良いわけかない
ここを終えたら
この場の全ての者の
目を潰す
舌を抜く
二度と笑えないように顎を取る
二度と指をさして痛みつけられないために指を抜く 手にちぎる
待っていろ、お前ら全員その檻にぶち込んでやる
笑ってやる
全員
上から
必ず
「何、お前人間の女に興味あるの?」
誰だお前
触るな
「まぁ身体は使えないこともないしいいんじゃない」
咄嗟に出てしまった腕を抑える
まだだ、ここで動く訳にいかない、耐えないといけない
「へぇそれはすごいね」
「そんなクズの何が良いのか」
死にたいのか
「で、お前はどれが良いんだ?」
殺すぞ
「ちょと恥ずいから向こうで」
「わかった」
裏路地に誘い込んだ
「そんで……」
奴が振り向く前に頭部を掴み指に力を入れる、必死に腕を掴んで引き離そうとするが俺の腕は動かない
少しずつ浮いていく魔族は必死にもがいている、恐怖の目でこちらを見た
お前らも
やっ
た
こと
「やめろ」
何を 今更
頭蓋骨の軋む音、次第に大きくなっていく
そして水風船が潰されたように破裂した
壁に飛び散る血はとてつもない量だったが気にはならなかった
潰した頭を持って身体ごと壁に叩きつけめり込ませる
壁に埋まった部位と千切れた部位はそのまま散乱している
裏路地から血が出ないのを確認してからその場を出た
早く終わらせる
「ガナァラズゥ」
頰が濡れた
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あらすじ変更しました




