●過去の記憶
ついに過去編
更新速度が遅くなりますが、内容がグッと濃くなるので覚悟してくださいね!
昔思ったことがある
身の回りの人達は本当のことを言わない
それが不思議だった、顔を隠した大人達は空っぽの言葉を使う
まだ俺はそれが社交辞令のようなもので意味などないことを知らなかった
『嘘をついてはいけない』
俺が最初に出会った大人から言われた言葉だ
顔も思い出せないくらい古い記憶だけどこの言葉は覚えてた
彼らは仮面を被っている、テレビでやってる仮面を被ったヒーローのような顔を隠すものではない
心と自分を隠す方のやつだ
大人達の手口は最低だ
人工知能のAIやアンケート占いみたいに物事を決める
好きな物と聞かれて体を動かすと答えればスポーツ選手と書かれるし
漫画が好きと答えれば漫画家と書かれる
あいつらは勝手に道を決めて人に歩かせようとしてる
意思なんてない、ただそれが良いと思っただけで決める最適だが最善ではない
決断を放棄した愚か者と罵っていた
小学校に入学した時に両親は将来は何だとか話していた、別に両親の事は嫌いじゃないけどこの時は嫌だった。自分のことは自分で決めると突っぱねて遊び呆けた
少し経った後、勉強しないと将来が危ないと忠告されたことがあったけど、
親の都合だし知ったこっちゃない
いつかは独り立ちしなければならないのは知っていたけど出来るものならしたくなかった
それは単純に勉強したくないからだ、働かなくて生きていきたいと思った
例えば自分の家がめちゃくちゃ金持ちで何にもしなくてもいい生活
勝手に金が入って当たり前のように食事が出てくる
それはとてもいいと思わないか?
両親が石油王とかだったらいいのにって子供ながらがめつい奴だったのは今でも覚えている
みんな思うしそういった夢を見る、自分ないものは輝いて見えるし仕方がない
隣の芝生は青いって言うしそんなものだ
俺は言ったことがある
『金持ちの子だったら良いのに』
めちゃくちゃ怒られた、外に出されて一晩中凍えていた
この時初めて嘘が良いことだと知った
その下らない考えは憧れとか嫉妬とかそういった感情から来ているのだろう
人間誰でも目の前のやつがなんか凄い事していると凄いなとかかっこいいとか思う
でも自分がやってできなかったら相手を蔑む、何であいつが ふざけんなとかだ
それでも人間は建前と本音を使う、頭が良いからだ
その後に想像出来る事態を回避するために取り繕ってる
身近ではこんな感じだ
クラスの女子が話している声はデカイよく聞こえてくる
『○○ちゃんって可愛いよね』
実際にはそんな事思っていない
私以下だわーとか内心は腐ってる臭豆腐より臭い
あいつらは出かける時の服装まで相手に気を使ってる
被らないとか雰囲気を壊さないようにとか頭ん中調和で一杯だ
男も大して変わらない
凄いとかやべーとか口には出すけど俺が俺がと思っている
あいつらは自分が一番大好きだから俺の方が凄いと感じてるだろう
自分は美化されて映し出されるのは本当のようだ
■
小学校も高学年になった時俺は部活に入った
元々は輝樹が入る予定だったが都合が悪くなったとかで人数だけでもという事で入れられた
体を動かすのは好きだったし嫌々やるわけじゃなかった
ここで俺の人生は変わった、言うなればターニングポイントだ
その時の俺は毎日放課後になると練習した、家に帰ってもする事はなかったし両親がいないことの方が多い家庭だったこともあり遅くまでボールを蹴っていた
陽が沈んだ辺りで家に帰り、自分で食事を作って食べる
小さい頃は作り置きしてあったりしたけどこの頃になるともう無い
自分でなんとかしろという事だった
家事能力は俺にとって必須だった
給食があるとしても朝と夜は作らなくてはいけない
皿洗いも忙しい両親に変わってやることが増えた、両親も俺がやるようになってから
手を出すことが少なくなった
寂しいと聞かれたらどうかわからない
そういう気があったかもしれないが別にどうという事はなかった
全て自分でこなして周りの助けが必要なくなってから少し経った時
俺が入っていたサッカー部の試合が行われる事になった
新人戦だったから上手い人たちが居ないこともありそこそこ頑張れた
周りからも褒められることが嬉しかったのか
それとも誰かに見て欲しかったのか
この頃父とよく喧嘩をした
小学校が終わりを迎える頃には俺は少年サッカーの中ではかなり有名だった
何もすることがなかったせいでよく練習したこともあり他の人より上手かった
新聞や雑誌とかに取り上げられたこともある、それ程までに才能があった
だが父はしっかり勉強して働けと言っていた
今ならその意味がわかるがその時はわかるはずがなかった
『どうして!俺は凄いんだ!』
父向かって自分のことをアピールした
しかし父は受け入れず頭を横に振った
『ダメだ』
『ここに行けば俺はプロになれるし、そうすれば父さんの言う通りたくさんお金を稼げる』
『俺はそう言いたかったわけじゃ……』
この時父は急に黙って額を両手で抱えた
俺はそれを見ていた
『とにかくダメだ、話は終わりだ』
『なんで!父さんは俺の才能を潰す気なの』
『話は終わりだと言った』
『それは逃げてるだけじゃん!なんで認めないの!人の可能性踏み躙って自分の決めた道だけ進めば良いと
ふざけないで!自分のことくらいは決めたい』
『父さんみたいに才能がないわけじゃ無い、俺は逃げない』
『…………』
結果として俺の一存では決められない
有名私立校からの勧誘はダメになった
両親が契約しなかったため話は終わったのだ
結局俺は近くの中学校に通う事になった
部活では顧問の先生からは高く評価されていたが監督からの印象は最悪だった
先生は俺のことを知っていた天才とか逸材とか褒め称えた
だけど監督は俺を試合に出そうとしなかった
ベンチにも入れてもらえず何度も抗議した
どうして出さないんだ、俺が出てたら勝っていたあんなのクソだ
何度も悪態をついた感情任せに言い放った言葉で停学をくらい俺はもっと怒った
今になって思えば分かる事だが俺についてこれる人はいなかった
それは敵もだけど味方もだ、強い奴を一人入れてチームを崩すかみんなでチームとしてやるか
答えは歴然だ、監督は勝つ方にかけたのだ
二年になった時、新しい部員が入ってきた
俺が入ったと聞いてやってきた奴もいたが練習にすら参加させられていない俺をみて
冷めたように帰って行った
そうだよな人間なんて周りの目で動く生き物だ見限って当然だ
『水成さんですか?』
『そうだが何か』
『僕翔って言います、よろしくお願いします』
彼が翔、俺の相棒だった男との出会いだ
■
俺は翔とよく練習していた
彼とは気があっていい友達だった
毎日のように練習してお互いにいいライバルのようなものだった
いつものように練習していると
『全国大会行くのが夢なんです』
翔はボールを拾いながら言った
『そうなのか?』
俺は手を止めて聞いた
すると翔はボールをゴールに蹴って振り向いた
ボールをはカーブを描いて入った
『はい!』
その表情は希望に満ちていた
『行けるだろ?何たって俺たちは最強だからだ』
『そうですね』
この時の俺たちは強かった
二人でフォワードのポジションを取って点を取る
すぐ全国へ踏み入れることが出来た
学校の知名度も上がり俺も前より有名になった
既にプロからの誘いも来ていた卒業したらすぐにでも入れるそうだ
翔もプロに入れるらしくおれに報告に来た
別々のチームになるがまだ一年以上あったから卒業したらなどと話していた
だけどそんなに長くは続かない
光があれば影もあるそのことをまだ知らない俺たちは知る由もない
この時監督は体調を崩して寝込んでいた
代わりにキャプテンが大会名簿を持っていたため書き換えて選手登録をした
そのおかげで俺たちは試合に出られたのだ、今まで弱かったチームが俺たち二人が入ったことで
強豪になったのだ
ベスト8の時だ
確か勝敗は5対0で勝っていた
俺たちコンビが点を入れて敵から奪う確実だった
けど事件が起こった
あれは後半30分のことだ
ペナルティエリアより少し前のところでシュートを放とうとした時
俺の軸足を相手選手が思いっきり蹴り飛ばした
恐らく故意だろうでなければこんな事にはならなかった
俺の足は関節からへし曲がった
あらぬ方向へと曲がった足、しかしこの時気付いた既にボールは放たれていた
ミドルの位置から打つときにはとても力がいるのだ
だけど俺の軸足は曲がっている
コントロールを失ったボールは翔の背中に当たった
彼の体が少し吹っ飛んだのを境に俺は叫んだ
俺たちは救急搬送され、相手はレッドカードで退場だったらしい
監督もいない今、俺たちに頼りきりだったチームは次の試合にぼろ負けした
そしてこの後俺がコートに立つことはなかった
■
ずっと叫んだ
あのとき俺が自分を名簿に勝手に入れなければ
自分が上手くなければ
出てくるのは後悔の念だ、自分の選択が翔を下半身不随にした
もう彼はサッカーはできない、彼の夢は二度と叶わなくなった
俺のせいだ
俺が
凄く後悔した
自惚れていなければ、あの時従っていれば
決められた道を黙って通っていればこんな事にならなかった
ずっとずっと不思議だった謎が解けた
彼らが正しくて俺がずっと間違ってたんだと知った
世界には流れがあってみんなそれに沿って進んでいた、だから傷つかないし悩まない
普通で良かったんだ
俺は見下した気でいて本当は彼らは上にいた、俺の方が異端だ
俺は優越感に浸りたかっただけで俺の方がすごいと自慢したかっただけで、俺が嫌いだった奴らと何にも変わらなくて、ただただ醜いことを永遠にしてきただけだった
俺の勝手な決断が相手を傷つけてそして友達までも奪った
嫌だった、捨てるのが怖かった
今まで掲げた理想を貫くと決めた信念を
だけど背後にへばりついている何かがさせてくれない
怖かった、全てが悪に見えたんじゃない、俺が悪でみんなが善だって背後の何かもずっと言ってる
自分が何をしてきたのか、結果得るものはなく全て失った
俺の名誉は回復の見込みは無いとされ一年もせずに収まった
俺を蹴った奴は未成年だから罪に問われる事はなかった
でも翔の傷は癒えなかった、あの時背中に当たったせいで
下半身が動かなかったのだ、二度と立つ事はなく地面をコートに上がる事はなく
俺たちの約束はそこで途絶えた
寝たきりの翔を見たとき、背後の罪悪感が溢れ出した
それから先はよく覚えていない
一晩中か、いやそれ以上だったかもしれない
涙が枯れ果て喉が潰れた辺りで辞めたんだ
考えることも、そして自分で勝手な決断を下すことも
この時からか仮面は見えなくなっていた
そしてこの後俺は昔見下していた人達のところに加わった
半透明な仮面を被り未来の決断を放棄した
同じ思いをしたくなかったから
水成が魔物と戦えたのは元々運動神経が良かったこともあります
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