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●今の現実

ブックマークありがとうございます!


俺はある歩道のに立っていた

場所は異世界ではなく日本だ


どこかわからないから

周りを見渡した

高い建物や薄汚れた信号機


車の排気音がよく聞こえた


目の前にはたくさんの人がいた

少しだけゆっくりに見える人だかりを眺めていた

何となくだけど知っている気がした、この場所をそしてこの人達を


彼らは誰だろう

何人かで固まって歩く、後ろ姿は楽しそうに見えた

歩道を歩いている彼らを見ていた

次第に人は増え、道いっぱいに広がっている


俺は彼らについていった

どこに行くか分からなかったけどなんとなく足が動いた

道を歩くたびに、曲がり角を曲がるたびに胸の中が何故かモヤモヤした


彼らはある建物に向かっていた


そうか、ここは学校か

俺はようやく思い出した

ここは日本の自分たちが通っていた学校だ


見るまで気づかなかったのは多分今までのことが自分にとって衝撃的だったからだろう

とても昔のことに思えた、

少し前までは毎朝起きてここに通っていたのに道まで忘れていた


きっとこれが慣れてきてるってことだろう

引っ越した時とか卒業した学校の事を思い出せないやつに似ている

古い記憶は薄れていくそのうちここの事も忘れるのだろうか


友達もこの風景もそしてみんなとの絆もいつか消えるのだろう

頭の中から少しずつ消えていく

それが怖かった


誰も気に留めない

誰も俺が居なくなったことに気づかない

そんなに長く居たわけじゃ無いけど心のどこかで覚えて欲しかった


それに自分の時よりもみんな仲良さげだ

自分がここから居なくなってどれくらい経つのだろう


俺はそう思いながら学校に入っていった

おぼろげな記憶を頼りに自分の教室に向かった


無駄にある階段を登った

いつも愚痴をこぼしながら登った階段だったけど

なぜかあまり疲れなかった


教室はとても賑やかだった

机に腰掛けくだらない話をする男子や端の方で固まっている女子

あの時とあまり変わっていなかった


変わったところといえば、俺たちの机が無くなっていた

居場所もいたという跡すら片付けられていた


そりゃそうだよな


急に居なくなった糞ガキどもの居場所なんてないよな

学校はそうゆう場所だから仕方ないんだ


俺は後ろの壁にもたれかかってため息をついた

誰も見られていない

分かっているけど分かって欲しかった


ズルズルと地面に座り込んで俯いた

自分だけが優遇されるはずがなかったんだ

俺が忘れているのに相手は覚えていてくれているなんてただの妄想で理想だった


顔も思い出せないクラスメイトの背中を眺めた

横切る彼らはきっと覚えていない

俺の前を通る彼らは知らないんだ


無償の愛は存在しない

利益と得られるステータスによって友人を作る

絶対的な立場によって信頼を作る


人はそういう生き物だった

ずっと忘れていた、温かいところにぬくぬくといたから忘れていた


目の前の彼らは俺に気づきもしないけど俺は違った

誰かに見つけて欲しかった

だから足を運んだんだ


もうここに俺の居場所はないんだ


当たり前のことを自分の都合のいいように勝手に思い込んで偽造した俺に回ってきた真実だ


「だけどやっぱり知りたくなかったなぁ」


弱々しい声で呟いた







俺は家に帰った

扉は鍵がかかっておらず引いたらすぐに開いた

玄関に脱ぎ捨てられた靴の横に自分の物を置いて上がった


なんだか合宿から帰って来た時のような感覚だ

とても懐かしい家の壁を触れていた


何故か人は一人もいない

兄弟は居ない両親と自分だけの家

机に散乱された父の仕事で使っている書類


ソファの上に母のよく読んでいる雑誌が置いてあった

テレビはつけても映らなかった

電気類は全てつかなかった


作りかけの食事がフライパンの上にあった

俺はそれをつまんで食べた

異世界ではまともなものを食べていなかったらとても美味しく思えた

いつもと変わらない味だったのに涙が出てきた


涙でぼやけた視界のせいでよろけて冷蔵庫にぶつかった

マグネットで止めてあったプリントが次々と落ちてきた


木の葉のように降ってくるプリントは俺の前に落ちた

視界に入った一枚のプリントにはこう書かれていた


『行方不明者』


それを目にした瞬間それを投げた

そして危険物を見るのように遠ざかった


俺は流し場に吐いた


胸糞悪かった


両親は覚えていたんだ俺が消えたことを

だから探したんだ存在しない俺のことを


嬉しさよりも罪悪感と言葉にできないドス黒い物が出てきた


きっとそれは見ないようにしていたもの

異世界召喚なんてものが絶対にみてはいけないもの


それは現実だ


「なんで、なんで」


俺は何度も吐いた


中身が空っぽになっても出した


俺が暴れたせいで机の上にあった書類がぶちまけられた


俺は見たくなかった

何が書いてあるか分かってしまったからだ

目に入ったところには捜索願いや届出


その紙を前に後ずさりした

逃げるように立ち去ろうとしたが


目の前に人が立っていた


「父さん……」


見る影もない父だった

痩せ細って隈もできているし毛も抜けていて

見た目はもう老人だった




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