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月夜

次回新章突入?


目を覚ました輝樹は刀を腰に刺し外に出た

輝樹が寝ている間に日は落ちていて、辺りは暗かった


灯りであるカンテラも油が切れ消えかかっている


宿舎にはいくつかの灯りは残っているが少しずつ消えていく

食堂の灯りは消え中に居た人々は宿舎に戻って行った


建物の灯りは消え 月明かりだけが残っていた


輝樹は宿舎へ向かった

誰もいない暗闇の中何もすることが無かったからだ

せっかく出てきたのに帰ることになる。しかしそれが一番いい事だろうと思い歩いた


宿舎の中はとても静かだった

いつもなら馬鹿騒ぎする者がいたり、遅くまで仕事をする者がいるが今回ばかりはいない

皆も魔族との戦いで疲弊し休眠を取っている


日中の魔族の乱入に遠征は中止になった


輝樹が寝ている間に疾風鳥が伝書を持ってきた

その内容は早急に帰還せよとのことだ


敵である魔族が動いたのだ何も対策しないほうがおかしい

既に軍は準備を進めている。騎士団や魔法師ものんびりしていられない

物資の供給ルートの作成からなんやらをしなくてはならないのだ


輝樹は誰もいない廊下を歩く

柱との間から見える月夜はとても綺麗だった

輝樹たちの世界では高層ビルが立ち並び空を見上げても月も星も見えないことが多い


だがここはよく見えた

無駄に明るいネオンもなければ自動車や電車の音も聞こえない

木の擦れる音と虫の声、自然の向こうの人が失ってしまった物が生きている


そんなことを思いながらただ月を眺めていた

それは記憶にあるものより大きく見え、そして輝いて見えた


輝樹は廊下を飛び出し屋根に跳んだ

レンガでできた屋根の上に座り空を見上げた


「なんだ先客が」


斜め下からの声に反応して見てみると、そこにはムウがいた


「どうしました」


「いつもだいたい見てんだよ日課だ気にすんな」


ムウは屋根を掴みよじ登ってきて輝樹から少し距離を置いて座った


「だいぶ遅いぞ、寝なくていいのか」


「今起きた所なんです」


「そうか」


二人の間に沈黙が流れた


「いやなに、お前んとこにも月ってあるんだったっけ」


急に思い出したよう話すムウに輝樹は答える


「ありますよ、でもここより少し遠くですが」


輝樹は感じていた

きっと距離も違うだろうが、感覚的なものが大きい

大きく明るいものなら沢山あった世界だったからきっと小さく見えた


だけどここでは唯一の灯りだ

暗い夜を照らす夜の太陽


だからか綺麗に見えたのは


「確か月は空よりもっと高い所にあるらしいな」


「宇宙って言うんです」


「それだ、昔の勇者が言ってたらしい、ここも一つの星だったけな、強いて言うなら島だって」


「その外は無数に広がる未開地だ」


ムウは子供の頃に聞いた話をしていた

勇者の世界、輝樹たちの世界は文明が発達しており自分達が知らないことまで知っている

しかしあっている保証はなかった

だけどここに勇者がいる

自分の夢が存在する事の証明がいるのだ


「俺は元々ハンターだった、だから誰も行ったことがない秘境に行ってみたいんだ」


そのため本来なら話す事のないことまで滑らせてしまったのだ


「なんでハンター辞めてしまったんです、月影なんてしなくても食っていけるでしょう?」


ハンターは腕がものをいう職業だ

魔物を狩ったりダンジョンを攻略したりする

少年なら一度は憧れるものだが現実は甘くない、弱ければ死ぬ


だけどムウには強さがあるそう簡単に辞めるはずがない


「俺は強かったが他はそうでない」


「俺には甥っ子がいたんだ」


ムウは空を見上げて悲しそうに言った


「死んだんですか?」


「ああ、イジメだそうだ」


「あいつは俺に憧れてた、いつか自分もそうなりたいと言ってた」


ムウは俯いた、輝樹はそれを眺めていた

どこの世界にもある現実だ


「俺はイジメだ奴らを皆殺しにした」


「許せなかったんだ」


ムウが誰を許せなかったのか輝樹にはわからない

気づいてやれなかった自分自身なのか

イジメに加担した人間たちなのか


ただ後悔の念だけは伝わった


「大量殺人だ、普通なら死刑だろうよ。でもな、ちょうど殺した連中が国にとって要らない奴らだった」


都合が良かったのだ

自分達が手を下すまでもなく始末される


「そこで国王が話を持ちかけてきた、貴族を殺した罪を帳消しにしてやる代わりに自分の元で働けと」


「俺は何言ってんのかわかんなかった。こいつ馬鹿かって思ってた」


「国王は言ったんだ『ある少年の信じた英雄(ヒーロー)が殺人鬼ってことになるのはどうだ?どんな風に思うか』って」


『彼の信じたものを消したくなければ従え』


「俺にはあいつの顔が浮かんだ、俺のことかっこいいって言ってくれたんだ」


ムウの目からは涙が出ていた


「俺はそれを守るためにあいつの信じた俺であるために今のところにいる」


「そうなんですか」


「少しだけわかる気がします」


輝樹もこの五ヶ月間水成が死んだと思っていた

きっとこの孤独感と似たようなものだ


「僕も友達を失ったと思ってました、ずっと前から一緒だった友を」


「その時は絶望しました、どこにぶつけて良いのか分からずに溜め込んで押しつぶされそうになった」


あの時輝樹は後悔の念があった

もっとこうしておけばと何度も思った


「もしもとか、だったらとか、数え切れないほど考えて、その度に自分が嫌になって」


「でも彼は生きている可能性が出てきた、それが嬉しかった」


あの時最後に言われた言葉を信じるなら水成は生きている

可能性があるならそれは希望だ


「変わったな」


「はい?」


ムウが小さく呟いた


「最初にあった頃のお前はどこか薄汚れていたが今は違う」


「ちゃんと前を向いている」


輝樹の目を真っ直ぐに見ていった


「こっから先は後戻り出来ない殺し合いだ」


「わかってますよ」


「その手を汚す、愛する者を汚れた手で触れる事は出来ない」


「わかってます」


「僕は自分の道を選んで生きます、だから大丈夫です」


輝樹は刀に触れながら答えた


「なら大丈夫だ」


ムウは立ち上がり輝樹にむかって拳を突き出す


それを見て輝樹も立ち上がり拳を突き出した

二人の拳は合わさった


「ならやる事はわかるな」


「ええ」


月下に二人の男は約束を交わした

それは秘密を共有し、新しく友となった者たちの誓いだ



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