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アナザー

ちょっと戻ります



ハーネイルが圧倒的なパワーで蹂躙している時

輝樹たちは魔族と遭遇していた


魔族の戦闘能力に輝樹以外の者は反応できずにいた


魔族の放つ斬撃を受け止めカウンターを仕掛ける


時には魔法をそして剣を

極限の読み合いと激しい攻防


「流石だな勇者」


「それはどうも」


距離を置いて輝樹は氷の矢を放つ

魔族は巧みな足さばきで避け距離を詰める


「はあああ」


輝樹の連続攻撃を見事に防いで見せた


魔族は短剣を両手で持って斬りかかる所に輝樹は足を軸に遠心力を加えた斬撃を放つ

短剣を二本とも使い受け止める


「素晴らしい、だがこれはどうだ」


魔族は対象を輝樹から別の者に変えた


魔族は横から攻めてきた者に反応して横薙ぎの斬撃を放つ

輝樹はとっさに間に入り吹っ飛ばされてしまう


その時輝樹は腹部に大きな傷を負った


「任務完了」


魔族はそう言い場を去った



「ううう」


輝樹は目を覚ました


魔族に吹っ飛ばされてそのあと運悪く気絶してしまった

急いで戻ろうと立ち上がると傷は癒えていた


「よう」


輝樹を岩の上から見ている男がいた

普通のシャツにズボンとても兵士とは思えない格好だ


「あなたは誰ですか」


「なーに名乗るほどのものじゃないさ」


男ははぐらかした


「あなたがこれを」


輝樹は自分の体を指して言った

傷が勝手に治るとは思えなかったからだ


「そうだ」


男は無言で見つめていた

輝樹はそれを不気味に思ってこの場を立ち去ろうと思った


「みんなが危ない、僕は行きます」


輝樹はよろけた足で仲間の方角へと向かう


そのとき男は急に喋り出した


「何のために戦うんだ?」


男に急な質問に足を止める


「勇者だから人々を救うのは当たり前だ」


「違うな、自分の為だ」


輝樹の答えは否定された


「何で?」


輝樹は聞き返した

自分の気持ちを他人がわかるはずがないから

ましてや本心なんて


「じゃあなぜ逃げた、あの時お前は耐えきれた」


「なんでですか、何も知らないし見てもないのに」


「いやお前は自分のことしか頭にない、助けたかったのは」


『お前自身なんだ』


その答えに輝樹は怒りを覚えた

握る手には力が入り、今にも感情が表に出そうだった


「お前は怖かったんだ、責められたく無いからな」


「違う!そうじゃない」


輝樹は叫んだ

何も考えず反射的に否定した


「認めろよ、いつまで良い子してる気だ」


「それは違う」


「違わない、今のお前に何の価値も無い」


冷めた目で男は輝樹を見つめる


「ふざけるな」


輝樹は地面を蹴って殴りかかったが違和感を感じた

血が足りないからか身体が重いのかいつもの脚力が無かったのだ


振るわれる拳を止め輝樹の腕を捻る


「がぁぁぁああああ」


腕の痛みを我慢し地面を踏み込み蹴りを放つがまんまと躱される


男は輝樹の頭を踏んで背後に跳ぶ


「何で見切れる」


輝樹は男を殺すような目線で睨みつけた

しかし男は動じず見つめている


「何で何で」


男は立ち上がり手首を軽く振った

そして目にも止まらぬ速さで輝樹の顔面を殴った


とてつもない衝撃に倒れる


「痛い、何で」


輝樹は訳がわからなかった

勇者の加護のおかげで超人的な力と圧倒的な魔力量を手に入れた輝樹が反応すら出来なかった

今までの人間や先程の魔族も眼で追える

あの時庇わなければ自分が勝っていただろう


最強の力を手に入れたはずだとどうしてこんな奴にやられるのかと


男は呆れたように頬杖をついた


「まだ分かんないのか?今のお前は本当のお前だ」


「何を言って…」


輝樹は違和感を感じ辺りを見回す


本気で蹴ったはずなのに地面を何事も無かったようだ

魔法で強化されたわけでもないのに


それに溢れるような魔力は感じない


「まさか…消えたのか」


「ちょっと違う、ちゃんとあるよお前の中じゃないけど」


「返せ!それは僕のだ、返せ!」


殴りかかる輝樹の腕を抑え地面に叩きつけ上から乗る


「離せ!」


輝樹は必死に脱出しようと暴れるがビクともしない


「そんな取り乱すなよ、素が出てるぞ」


輝樹は鬼の様な形相で睨みつけた


「余程応えたか」


「じゃあ、もう一度聞こうか何の為に戦う?」


輝樹は答えなかった

ただ沈黙していた


それもそうだ、戦う理由を見失った人間にどうしろと

初めから使命感で優越感で戦っていた者にどうしろと


「人の成長は精神の退化だ」


「お前はとてつもない力を手に入れた、誰もが羨む勇者とかいう絶大な物だ、だからお前は力に酔っていたんだ、優越感、特別な存在と言われて嬉しいから戦おうと思った」


「明確な理由が初めから無いんだ、流されるままに、言われるがままに物事を進めた」


「抗うことも、自身の足で何かを成すことなく」


「ただひたすらぬるま湯に浸かっていただけだ」


「どうしろと!僕にどうしろってんだ」


図星だったのだ

輝樹の中で今までの事が走馬灯の様に流れた


輝樹は人生のレールは敷かれていた

元の世界の時も両親から与えられたものをするだけ


こちらの世界に来ても指定された訓練をこなし、のうのうと暮らしていた


「立てよ、自分の足で、何かを掴んで見せろ」


男は何かを揺さぶるよう言う


何もしようとしなかった男と

何かをする為に必死になった男


「立てた誓いが偽物でないなら、虚勢にしたく無いのなら」


いつのまにか男は輝樹の目の前にいた

地面に這いつくばっている為姿が見えないが男は何かを取り出した


「これを取れ」


男が輝樹の目の前に突き刺したのは刀だった

波の様な波紋を帯び、見るからに強大なエネルギーを放つ


輝樹はそれが欲しいと思った

その力がその美しい刀が

そして幻想を掴み取る強い手がとてつもなく欲した


輝樹の身体はとても重く感じた

重力が何倍もあるかのように重かった


『それがお前の意思の弱さ』


全身の筋肉をフルに使い今にも倒れそうだが立ち上がった


「はぁはぁ」


地面に突き刺さった剣へ向かって一歩一歩向かう

身体は重く意識だってもうろうとしている


今にも崩れそうな足でたどり着く


「これが」


莫大なエネルギーの塊

全てをつかめるだろうその力


輝樹は剣を握りしめ力一杯引き上げる


『それがお前の覚悟か』


引き抜かれた刀は黒く染まる

全てを飲み込む夜のような色だ


「僕は自分の信じる人のためだけに戦う」


覚悟は決まった


「いらないものは切り捨てる」


『それがお前の正義(エゴ)か」


輝樹の目から迷いが消えた

誰の意思にも縛られずただ自分の為に突き進む覚悟を決めた


それは勇者としては失格だろう


だが、戦士として一人の男として


「ようやく実ったか」


「邪魔をするなら、立ちふさがるなら、俺の()()に手を出すなら」


「斬る」


もう迷わない


進むべき道と信じる自分自身の為に戦う


「これが僕の答えだ、異論は認めない」


男は笑いながら


「正解だ、記念にいい事教えよう」


「お前の友は生きている」




「待て!」


輝樹はベットから跳ね起きた


不思議そうに辺りを見回すがそこは訓練場にある病棟の一室だった

さっきまで森である男と話をし刀を手に取ったはずなのに何故かここにいた


(夢だったのか?)


あの時失ったと思っていた勇者の力は戻ってる

自身の魔力を感じるといつものように溢れ出てくるのを感じた


「僕はどうしてここに?」


輝樹は近くにいた医師に聞いた

医師は首を傾げ


「自分で戻ってきたんでしょ、覚えてないの?」


「自分で…」


輝樹は思い出そうとするがそんな記憶はない


(そういえばあの剣)


輝樹は急に心配になった

思い出す時にその存在に気づいた


「すみません、僕の剣知りませんか」


医師に尋ねると少しばかり時間を置いて戻ってきた


「はいこれね」


手渡されたのはあの時の剣だった

それをゆっくり手に取った


(やっぱり夢じゃない)


輝樹は剣を握りしめていた








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