最強とは何か
ハーネイルが部屋で寝転んでいる時
建物の外は大量の影で埋め尽くされていた
人類最強格の戦士を仕留めるために呼ばれたエリート達だ
木の上に草陰に隠れて機会を待つ
魔法部隊は詠唱の準備
そしてこの作戦のリーダーであるバースは暗殺の準備をしていた
バースはボウガンにミスリルで作られた矢を付ける
確実に息の根を止めるためだ
弦を限界まで伸ばし射出する
真っ直ぐハーネイルへ向かう途中にバースはハーネイルと目が合った
ガラスを突き抜けた先に
ハーネイルは矢を掴んでいた
バースはとっさに指示を出したこいつはヤバイと早く殺せと
上級爆裂魔法を五人同時に放つ
一つで大型魔物は殺せる威力だ一人に撃つにはオーバーキルすぎる
だが煙がはれた先にいたのは無傷のまま立っているハーネイルだった
「まだ若いのにいい度胸じゃねえか」
両手を鳴らしてまるで無防備のまま瓦礫の中から何も無かったかのように歩く
自身の通る道にある瓦礫は蹴飛ばし全て粉砕する
(嘘だろ、あれ食らって無傷な訳がない)
バースは腰に付いている投げナイフを4本取り出した
猛毒種ブラックコブラの体液が付着したそれは触るだけでも危険だ
ましてや体内に入れば一瞬で死に至る
しかしバースが所持しているのは八本これを使えば半数を失う
コストだってかかるしこの後のことを考えると使いたくない代物だ
だが相手は化け物級さっきの死角からの刃に反応し
待機していた上級の爆裂魔法を五つ程もろに食らって無傷な相手
バースは出し惜しみは出来ないと
戦士として、いや生物としての勘がそう言ったのだ
本能に任せるがままに両手に一つずつ持ち腕を交差させ投げた
ただ真っ直ぐにハーネイルに向かった
当たれば勝利なのだから
ハーネイルは踏み込んだ
地面のひび割れ砂埃が舞う
彼は真っ向から突っ込んだのだ
バースは絶句した。ブラックコブラの毒だ、A級の魔物だガキでも危ないと知っている、相手は戦士だ暗殺者のナイフに毒が塗られている事くらい知っていて当然だ
バースの頭の中は混乱していたこんな馬鹿な真似をする奴がいるかと
だがハーネイルは冷静だった
彼の身体が弾丸のように突き進む
ナイフが刺さる直前に全て叩き落とした
タイムロスを感じさせないその動き
それは戦闘経験だバースのように才能に恵まれていても経験が浅いと判断を誤るのだ
バースは毒を知っていた、だから避けると踏んだがハーネイルは避けようとしなかった。
そして反応が遅れた
それは一秒にも満たない時だったが戦士の身体を動かすのに十分すぎた
地面は砕け破裂音と共に衝撃波を放ちバースの腹部を捉えた
暗殺者のが軽装を好むが防御を怠っているわけではない、むしろ多い方だろう
だが関係ない圧倒的な力の前ではあまりに無力だ
例えば殴っても痛くならないヘルメットを被ったところで大砲は受け止めれない
バースは見誤ったのだ
A級の魔物の攻撃を耐える、上級魔法を諸共しない耐性
しかしこの『超越者』ハーネイルの一撃は耐えきれない
考える前に自分の愚かさを感じる前にバースは吹き飛んだ
蹴った石が飛んでいくかの如く飛ばされて何度も地面に叩きつけられた
内臓は破裂し骨も粉砕
これほどの装備を整えてこのザマだ。もし減らしていたら大丈夫だどたかを括っていたら
意識は、命は無かっただろう
バースは赤黒く変色した部分を抑え立ち上がろうとするが足が動かなかった
(ヤバイヤバイ)
ただ二本の足で立って歩いているだけでこれ程の圧力をかけて来るも者が他にいるだろうか
絶望
恐怖に場の圧力に耐えきれなかった者が後ろから斬りかかる
「にぃげぇろおおおお」
バースは喉に際限なく溢れる血液を吹き出し叫んだ
そいつと戦うな
逃げろと
だが動き出してからでは遅い
ハーネイルは敵兵の顔面の位置に既に蹴りを放っていた
来るとわかっていたから、初めから知っていたかの様なタイミング
剣と彼らのプライドをへし折り向かってくる悪魔
後頭部から中身が飛び出し人としての原型を留めて居ない程の破壊力を持った蹴り
次は誰が餌食になるのか
「勇気がいるよな、わかるぜ俺も」
ハーネイルは口を開いた
その表情は明るかった
「死にに行くのは」
変わったのだ
目が口が顔の全てが
目は鋭くただ獲物を狩る事だけを考えている
どう殺すか、どうやって殺すか
彼らは怖かった、自分達に向けられた目が殺意が
彼らの中での最強
今まで恐れていたのは自身の上司である師団長や軍団長だ
魔王が強いとは聞いた事はあるが実際に見ていないので分からなかった
それは剣術が魔法が頭脳が色々な物に特化し極めた者たちを言う
しかし彼らの目の前の人間は違う
圧倒的なまでの力に剣術がまであるのだから底が知れない
立つしかない
立って逃げるそれが今のバースに出来る最低限の事だ
「全員退避」
潰れた声を上げ逃げに徹する
現実は甘くない
瞬時に悟ったハーネイルは衝撃波を生み出し飛び上がった
木の上で待機していた魔族の首をへし折ったのだ
ゴキ
鈍い音が静寂の森に響く
「がぁぁぁああああ」
「敵だああ」
仲間を殺され逆上した兵を相手にハーネイルは拳を叩き込む
魔族の兵は宙に浮いた。相手の力以上の拳を叩き込んだ事で静止した
その隙を突いて脳天へ踵落としを決める
首から先を抉り取られ力無く倒れこむ死体
首から流れる血が彼らの命の砂時計の様だった
■
「次は誰かな」
意気揚々とした声が上がるが場は地獄絵図だ
(やらなければ)
バースは立ち上がる少しでも時間を稼ぐ為に
今回の任務はハーネイルの殺害ではない、勇者のサンプルの入手だ
障害になりゆる可能性のある者の始末では無い
いや出来ないのだ
ならばする事は一つしかない
この男を
この戦士を仲間の元へ行かせないよう時間を稼ぐ
ハーネイルが動けば恐らく一瞬で決着がつく
バースに残された道は命を捨てたった一人抑える事
それだけに全神経を集中させる
(見切れないのはわかってる、実力差だってわかってる)
「軍に志願したその日からこの命、国に捧げた!」
バースが無意識にやっていたのは魔族軍隊の敬礼に近いものだった
心臓を指し示し覚悟を決める
周りの兵も後には引けない
自身の隊長である者がこれ程までに綺麗なのだから
「俺のとこも見習って欲しいな」
ハーネイルは空を見上げ呟いた
「いいぜ、ならこっちも」
ハーネイルは大きく息を吸い剣の柄に初めて手をかけた
「ラテム王国騎士団長ハーネイル」
「いざ」
全身全霊の力を振り絞り最後の戦いに向かった
「はああああ」
「がぁぁぁああああ」
ハーネイルの超人的なパワーに押し負けそうになるが
「俺たちだって」
背後からの魔法攻撃
無数の火球がハーネイル目掛けて降ってくる
彼は全て真っ向から弾き飛ばした
剣圧に怯みそうになるが足を叩いて
「まだだ、終わってないぞ」
「戦える」
ある者は剣を
ある者は弓を
ある者は杖を
それぞれの獲物を強く握りしめて処刑場へと上がる
ハーネイルの超人的な動きに翻弄され次々と殺されていく
背後からの突きに身体を捻り躱す
敵の腕を掴み投げ飛ばした
高速で飛んでくる火球を斬り裂き斬撃を飛ばす
「まだだ、まだだ」
尽きることのない攻撃
負けると分かっている戦いにこれ程までに真剣に戦える者がどれほどいるか
逃げ出さず立ち向かう勇気
きっとそれは誇りの為なのだろう
バースは最後の切り札を切った
今の自分がどれだけ保つか分からないがやるしか無かったのだ
「『固有魔術、心性領域解放』」
バースは体内から大量の魔力を放つ
木々を揺らし土煙が舞う
『号哭の泥沼』
彼の固有魔術が発動した
最初の方のよくわからない所の修正をこれからするつもりです(多分するんじゃないかな…)




