明日から本気出す
読者に感謝
馬車が国軍基地についた時
時刻は夕方だった
今から全員集める訳にもいかず明日集める事になった
輝樹は馬車からバックパックを担いで降りた
既に人は宿舎に次々と入っていた
輝樹もそれに続いて歩き出そとした時
「輝樹ちょと来い」
団長の声がし輝樹は足を止め
声の方へ向いた
「何ですか?」
馬車の間から現れた団長に声を出す
すると団長は
「俺たちは別だ、あっちの建物で食事会だ、言っても魔法師来てないから大した事話さんし眠いだけだ」
頭を掻きながら横の建物を指差す
「わかりました」
内心少し面倒くさいと思いつつも従う
輝樹は団長の後ろについて歩いてると
「おいハーネイル」
輝樹の背中から聞こえた声に振り向く
「少し待て」
団長からの制止に足を止めた
「なんだムウか」
団長は後ろからやって来た顔に傷のある大男に手を軽く振る
大男は輝樹と団長の前まで来て
「そうだな、俺はムウだよろしくな」
「僕は輝樹です」
軽く挨拶を交わすとムウは輝樹の手を掴み勢いよく振った
「その辺にしとけ」
「ああ悪い悪い」
団長の制止にムウは手を離し一歩下がった
「それとコイツが月影のボスだ」
輝樹の戸惑いに追い打ちをかけるように伝える
「えっ」
輝樹は混乱しているところに新事実を突きつけられ間抜けな声を出した
「ああ本当だ俺がボスだ」
ムウは笑いながら言う
軽く話していると
奥の建物内から人が走ってきた
「ちょとボス!あなたが居ないと私入れないのよ」
ムウの後ろから金髪の少女が現れた
髪を後ろで結った少女がムウを揺する
「コイツはティエラだこの前拾った新入りだ」
ムウが少女の代わりに自己紹介する
「僕は輝樹と言います」
「ふーん、あなたが勇者なの?パッとしないな」
ティエラは輝樹を上から下まで見定め
素直に思ったことを言う
「そ、そう」
輝樹は苦笑いし
(初対面なのに)
そんな輝樹を笑って見ていた団長は
「一応準備があるから、先に行く」
「そうか悪いな」
ムウは腕を組んで言った
「また後でな、て言っても直ぐに会うか」
「ではまた」
団長はムウと拳同士を合わせてからその場を離れた
団長の後を追って輝樹も歩き出す
■
輝樹と団長が去った後
「どうして騎士団長はあの弱そうな奴を気にかけるのですか」
ティエラはムウに聞く
ムウは少し考え
「きっとアイツは看取って欲しいのさ、自分が死んだ時 俺の死は無駄じゃないって証明して欲しんだろう」
「そうですか」
ティエラは不可解だった
彼は勇者だが相手は国内最強の戦士 騎士団長ハーネイルだ
そう簡単に死なないだろう
どちらかというと勇者の方が先に死にそうだと感じた
それを汲み取ったのかムウは言う
「確信はしてない 信じてるんだ、自分より強くなって欲しい その素質は俺が見た限り十分ある」
ムウは空を見上げた
その目は何故か悲しそうだった
「相手は魔族、この戦争は今までで一番デカイ、いつ死んでもおかしくない」
ムウはの頭を わしゃわしゃ と片手で撫でた
ティエラは両手で腕を掴み払いのけた
「やめてください」
ティエラがムウの前に立ち顔を見上げた時
ムウはいつもとは違う顔をしていた
「お前は死ぬなよ、アイツが勇者を信じるなら俺はお前を信じよう」
「急にどうしました」
ムウの顔はいつもの笑っている物に戻った
「精々強くなれ、勇者に負けたくなければな」
ムウは手を振りながらティエラの横を歩いて行った
ティエラはヒラヒラと手を振るムウの後ろ姿を見ていた
「言われるまでもない、絶対にやりますよ」
時刻はもう夜だった
長い遠征1日目が終わった
■
「魔法師は明日来るらしい」
会議が終わり、宿舎へ向かうとき
輝樹は団長の後を歩いていた
「そうですか」
「今日はもう寝ろ、明日はさっきの通りだ」
先ほどの会議で明日の予定は決まった
午前中は模擬戦、午後は団体戦だ
「失礼します」
輝樹は明日のために休んでおこうと思いその場を離れあてがわれた部屋に向かった
団長は輝樹が見えなくなるのを確認してから
宿舎とは違う反対方向に向かって歩いた
訓練場にある観戦場のようなところで足を止めた
「もう良いか」
低い声とともにムウが暗闇の中から現れた
団長は柱にもたれかかりながら口を開いた
「今回何かある、気をつけろ」
「俺に言ってんのか、そんなもん早々来るかよ」
笑っているムウに団長は釘をさす
「あの男が出てきた」
ムウの笑いが止まり辺りは静寂に包まれた
「本当か」
「ああ」
「なら、精々頑張るか」
「そうしてくれ」
ムウはまた闇の中へ消えていった
団長は静かに来た道を引き返す
■
魔法師が来ない午前中は模擬戦となった
人間同士の連携が必要な戦いで味方をよく知らないのは致命的だ
誰がどれだけ出来るかを手っ取り早く知るためには模擬戦が一番だと判断した
そんな中、輝樹はハブられていた。当たり前だろう相手は勇者だ、負けるとわかってて挑む輩はまずいない
実力差がありすぎて怪我をさせてもいけない。これからの戦いに不可欠な者をここで失うわけにはいかない
よって、輝樹にとってちょうど良い相手というものがいないのだ
他の騎士たちは既に始めている
だだ一人取り残され佇んでいると
「ちょと暇なら私と戦いなさい」
ティエラもまた女だからという偏見で見られ、誰にも相手にされなかった
「そうしよう、お互いフリーだし」
輝樹はそう言い訓練所の空いたスペースに歩いた
「どうする、決闘でいいならいいけど」
「構わないよ」
輝樹はティエラから少し距離を置い他ところに立った
ティエラが取り出したのは刀身が細い剣だった
「レイピアなのか?」
「そうかもね、よく知らないけど」
輝樹も自身の得物を抜いた
それは騎士がよく使う形の剣だ
それを横に構える
場の空気は静まる
初動を見逃さまいと集中する
そして動いたのは輝樹だった
両者とも地面を踏み凄まじい勢いで斬りかかる
輝樹の斬り上げをティエラは流し有効打を与えた
バックステップで距離を取りもう一度構える
輝樹は飛んでくる突きを回避して薙ぎ払う
ティエラは間一髪のところで体を逸らし避けた
ティエラが体制を整える前に上から斬りかかる、それを受け止め鍔競り合いをする
輝樹は精一杯の力で押し切り肩にかけて斜めに叩き込むが
ティエラは右足を軸に回転をして華麗に避けそのまま首元に突きつける
「どう?」
「降参します」
輝樹は降参のポーズを取った
■
「アンタの剣は迷いがある」
ティエラは輝樹に剣を向け言う
輝樹は向けられた剣を見ていた
「何を迷っているのこれから戦争しようってんのよ」
「わかってるけど心配だったんだ、自分の仲間が」
輝樹は地面に剣を突き立て、手の力を抜いた
それを見てティエラも剣を鞘に納めた
「知ってる、一人行方不明らしいって」
ティエラは昨日ムウから伝えられていた
「生きていて欲しい」
輝樹の願うような、自分に言い聞かせるような言葉に戸惑う
「何、生きてるって信じてるんでしょ、だったらいいじゃない」
ティエラは首をかしげる
「確かにそうだけどね」
輝樹は俯いた
「彼は人を傷付けれないから、もし…」
輝樹は昔のことを思い出していた
あれは彼らが中学の時だ
高校から同じ立花や火織は知らない輝樹だけが知る惨劇を
あの時輝樹は急いで水成の部屋に向かった
扉の先にいたのは
電気を点けず部屋の隅にうずくまっている水成を見た時輝樹は駆け寄った
水成は虚ろな目で許しを請いた
『嫌だ嫌だ…俺のせいだ…ああぁ」
目は充血し痩せ細った彼を見た時
何も出来ない自分を呪った
心は折れ自殺にまで自分を追い込んだ彼を人間と戦わせたくなかった
倒したのが魔物や魔族と言った人外なら良いが
盗賊だとしても一応人間だ
きっと水成はまた折れてしまうだろうと感じていた
「立ち直れないかもしれない」
輝樹は昔の惨劇を思い返した
「でも立ち直ったんでしょ、人間かなり丈夫になってるし一度経験すればそんなこと無いと思う」
「だけど」
「ああもう、」
ティエラは我慢ならず輝樹をど突いた
急に押されたため輝樹は尻餅をつきしたからティエラを見上げた
「アンタの友達はそんなナヨナヨした奴なの、違うでしょ一緒に戦おうとしたんでしょ、」
ここは輝樹にとって異世界
それによって価値観も変わるだろう
だが、戦いの後押しをしてくれたのも彼であり
頑張れ、お前なら出来ると、励ましたのも彼だった
「そうだね、僕が信じきれてなかった」
輝樹が信じる水成を
輝樹が憧れた水成を
輝樹はゆっくり起き上がった
その手にはしっかりと剣が握られている
「まだいけるか」
「もちろん」
二人は対峙し剣を振り上げた
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