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7.過去

大迷宮にやってきて2時間。今までの俺の経験からしてありえないスピードで大迷宮を攻略していた。




セフィは強かった。マジで強すぎた。



難易度が中位だったからか、傷1つ負わない。ていうか魔物は全員ワンパンしてる。

出会い頭に剣で切りつけて、はい終了。

やべぇ。




そうするとズンズン迷宮を進んで、気付けば5階層に来ていた。



「強いねぇ」


「まだまだです。かなり体が鈍っていて動き辛いですね」


え、これ以上動けるの?太刀筋なんてとっくに視認できなくなってんのに?


バッタバッタと倒れるサイクロプス。

一応この階層のボスなんだが、五匹全部がまとめて死んでいる。


サイクロプスってあれよ。巨人みたいなやつよ。人間の8倍くらいでっかくて棍棒バンバンぶん投げる一つ目野郎だぜ。


俺なんて殺気だけで尻尾巻いて逃げるのに、セフィが一刀両断した。


「いやー、お疲れ様です」


俺はサイクロプスをアイテムバックをにしまう。


少し前にポイントが貯まったのだ。

いや、早すぎるでしょ。と思うかもしれない。

なんと、俺が倒さなくてもセフィが倒したら俺のスキルポイントになったのだ。


それを知った時の俺の笑みは、セフィの罵倒を10連続くらうほどだった。

恐らく、セフィが俺の所有物として換算されているかもしれない。

その考えはともかくとして、俺的には万事オーケー。



なので、アイテムバックを早々に購入した。



もーね、超便利。入れたい物の一部分を突っ込めば自動で吸い取ってくれる。

魔物の死体も召喚したものとかも。

そんで欲しい時にはバックに手を入れて頭の中で念じるだけ。



一回自分はどうなのか気になって腕ごと突っ込んだら吸い込まれた。マジで死ぬほどびっくりしたし、腕がもげるかと思ったけど、慌ててセフィが助けてくれた。


何がとは言わないけど柔らかかった。

またやろう。




ともあれこれで無駄な素材も捨てないで済む。

そのためここでの狩りは素材、迷宮ポイント、スキルポイントと、3つのうま味がでた。

怖いのは、素材の飽和で買い取り拒否かな。

そもそも普通はこんな量を持ち歩けないから領主側にとっても今までなかっただろうし、アイテムバックの存在が表に出ると面倒そうだ。





でも大丈夫。なんてったってセフィがいれば、なんとでもなる。

俺に抗えるようだけど、一応命令どおりに動いてくれるし、いざとなれば守ってくれる。


まぁ、冷たい目はずっとなんだけどね。


隷属魔法の優先順位上げとこうかな。



「次の階段ですね。あと3階層下に行くと最下層だと思われますれます」


「よっしゃ、行こう」


なんとも酷い絵面である。奴隷だけに戦わせて自分は後ろからついて行く。

セフィが蔑むのも納得の外道だが、効率的にも、俺的にもこれは譲れない。




薄暗い迷宮の中、2人の足跡だけが響く。まるでこの世界に2人だけになってしまったようで、不思議な気持ちがする。



そういや、双子は元気だろうか。


セフィがいる手前、好きなだけモフるのはむずいかもしれない。でもやるのだ。あの尻尾は絶対に俺の物にする。

いわば俺が命を賭けた代償なのだ。正当な報酬だ。だったらいかにセフィでも黙らせる。そうしたい。




俺は安物の短剣を片手に、外套を羽織るセフィの後を追いかけた。



✴︎






最下層を攻略してしまった。


最後に出てきたのはガーゴイル千匹くらい。バカみたいに広い洞窟の中で蠢いていたけど、セフィが一瞬で焼き尽くした。


なんだこのリアルチート。最高、惚れそう。


「終わりましたね」


「最高。惚れそう」


口に出てしまった。


「大丈夫ですか?頭」


「一応ね、一応」



セフィは取り合ってくれなかった。

というより徐々に当たりがきつくなってきた。毒舌だ。


「宝箱がありますね」


「開けてみてくれ」


手のひらサイズの小さな箱が置いてある。

金の装飾が施されていて、綺麗な宝石も散りばめられている。


セフィは慎重に宝箱を開けた。

本来スキルで中身を確認したいのだが、セフィなら何が来ても対応できるのだろう。


「短剣、ですね。属性が付いているようですが」


「へぇ、見せてくれ」


そう言ってセフィから短剣を取った瞬間。



「ーーーっ!?」


カラン、と音を立てて落とした。


「ユキ様?」


宝箱の短剣は俺の手によく馴染んだ。いや、馴染みすぎていた。まるで、長年使ってきたかのようにするりと嵌る。

極め付けは柄の部分にある黒い血痕。



気がつくとセフィに抱きついていた。


奴が、奴がいる。


どうしてここにあるかは知らないけど、これは昨日まで俺が使っていた短剣。


そう考えるだけで全身がガタガタと震えた。


「何をなさるのですか、ユキ様」


セフィに剥がされそうになっても俺は頑なに拒否した。


あれはダメだ。再びあったら間違いなく死ぬ。ていうか死んだはず。


どうして俺が生きているのか、そもそも本当にここが現実かも分からない。そんな恐怖で体が動かなくなる。



「・・・・大丈夫ですか?」


しばらくしてから、セフィが呟いた。


「あちらにセーフティエリアがあります。今晩はそこで寝ましょう」


ビクッと体が震えた。


「だ、ダメだ。あいつはそこから来るんだ」


「あいつ?魔物ですか?」


「あぁ、魔物だ。名前までは知らないけど。バカみたいに強かった。仲間が何人も死んだし、俺も一度殺されたはずだった」


「ユキ様は生きていますが?」


「分からない。けど、3ヶ月前に冒険者について行った時に襲われて、セフィを買う前に迷宮に潜ってきた時にも襲ってきた奴の気配と同じだ。3ヶ月前の方は命からがら逃げたせたんだが、昨日の方は記憶が曖昧なんだ。いきなりセーフティエリアから出てきて俺を追いかけてきて。結局俺は途中で逃げるのを諦めて、大人しく攻撃を受けて意識が途切れた。はずなのに、目が覚めたらあいつはいなくなってて、俺は無事だった。

その時捨てた荷物の中に、この短剣があったんだ」


「つまり、ユキ様はその魔物を恐れているということですか?」


「あぁ」


「では、帰られますか?」


「できればそうしたい」



そう言うと、セフィはじっと俺を見つめてきた。


「本当に?」


「・・・何が言いたい?」


「私は奴隷ですので何があろうとユキ様を守るように、この首輪で強制されます。それに、ユキ様は自力でも瞬殺されなかったのでしょう?」


「つまり?」


「逃げ続けるのですか?今なら私と討伐できるというのに。そうすれば今のように怯えることもなくなるのですよ」




俺一度考えて、息を吸って、より一層震えた。


「・・・無理だ。あれには抗えない。俺もセフィも殺される」


「ユキ様から見て、私とその魔物どちらが強いのですか?」


「セフィ」


「それなら、私がいれば十分です。それに自力でも出口に逃げるアイテムを使えば逃げられるはずです」




あれに抗う?戦う?絶対にごめんだ。




「狩場を、ダンジョンに変えよう。もうここには来ない。今日もたくさん稼げたし、何よりここでやるメリットも薄い。だったら別にいいだろ」


当たり前のことだ。この世界、死にやすい世界で、一番大切なのは手前の命。

戦闘スキルすらない俺が、生き延びるには慎重になるしかない。

誇りだろうが、私怨だろうが、とっくのとうにドブに捨ててきた。


「一生怯えたままですよ?」


「それでいい」


「どこかで遭遇するかもしれません」


「すぐ逃げる」


「どうしてもできませんか?」


「できない」



はぁ、とセフィが本当に呆れたため息を吐いた。


その通りだ。

短い付き合いの中で、セフィにとっての俺の評価は低い。

別にそれはいい。俺は俺のために行動する。いくらセフィの容姿がどストライクで心臓バクバクだろうが、自分を殺したものには立ち向かえない。現実とはいかにしても残酷だ。見方はどうあれ突きつけられる事実が厳然として俺を苛む。


恐ろしい。考えるだけで身の毛がよだつ。前の晩に少し話した男が首だけになって目の前に転がってきた記憶は、永遠に取り払われない。


セフィもいつか俺を見限ってどこかに去るだろう。彼女からして隷属の首輪などどうということもないようだし。


俺は諦める。命以外は諦める。それに付属する感情を優先する。



そう、思っていたのに。





セフィは俺の背中まで腕を回して、思い切り抱きしめてきた。


「率直に言って情けないですね。あと一歩、もう一歩で全てを変えられる。何故それだけのことができないのか呆れて物も言えません」


セフィはいたって冷淡に、なんの感慨もなく言う。


「ですが、その気持ちは、分からなくもありません」


「そりゃどうも」


「なので、私が助けます。ユキ様が私を治して下さったように。私の救って下さったのはユキ様なのですよ?

ユキ様が踏み出せない一歩があるなら、その手を引いて差し上げます」


セフィは優しく笑うと、俺の手を取って、両腕でがっつりホールドしてきた。


「断る」


無視された。



「おいっ!何をするつもりだ?」


「さぁ、行きましょうか。迷宮を出るまでこの手は離しませんので」


「ねぇ、待って。待って下さい、お願いします。なんでセーフィエリアに行くの?話聞いてた?ねぇ?

ちょ、進むな!おい。なんでそんな力強いんだっ!奴隷が主の言うことを無視するとか洒落にならねぇよ?」


ズンズンと、セフィは進んで行くと、すぐにセーフティエリアに着いた。



「何も、居ませんね」


「降ろせっ!おい、隷属の首輪!仕事しろやテメェ!セフィも今すぐ下ろさないと後で分かってるよな?」


「どうぞお好きに。全て終わってからですが」


くそっ。斯くなる上はっ!!


俺はとっさに手を振りほどいて腰に手をやる。出口に戻るアイテムが入っている袋だ。


「させません」


セフィはパッと俺の腰から袋を奪った。


俺は焦っていた心をなんとか落ち着かせて冷静に腹のわたを煮詰める。



「本当にやめてくれ。いくら俺が嫌だからってこんなことをするのか?」


「違います。ですが、私はどうなろうとやめません」


セフィの声音からは絶対の意思が伺えた。

というかなんとなく不機嫌になっている。


「じゃあせめて離してくれ」


「それもできません。スキルで出口に戻るアイテムを買うおつもりでしょう?身動きが取れない今なら使えないということは、先ほど確認いたしましたので」


こいつっ!!だから俺を拘束したのかよ!

まぁ、胸のあたりは大変なことになってるからぜひ続けて欲しいが。



はぁ、と今度は俺がため息をついて、力なく両腕を垂らした。



「分かった、降参だ。もう逃げないから。離してくれ」


「絶対ですか?」


「絶対。そもそも俺、セフィの早さに勝てないだろ」


「たしかに」


「納得すんな」


「失礼しました。・・・では、今晩はここで野宿ですね。そろそろ肉体的にも疲労が溜まってきました」


まじか。セフィが疲れているとは思わなかった。

俺は抵抗を諦めて、スキルを使う。


「じゃあ、飯と寝床だな」


「これで逃げたら怒りますよ」


「怖い怖い」


実際召喚できてもすぐにセフィが奪えるようかなりの至近距離にセフィがいる。

こんな状況じゃなきゃ最高だったのに。




ーーーーーーーー

キャンプ用テント

海、川、山、のどこでも使える超便利テント。設営時間はわずか五分で、2、3人眠れるスペースを確保できます。


別途購入推奨


万能シート

ゴツゴツした岩や、平坦でない地表からあなたを守る!まるで雲の上にいるかのような安らぎをお届けします。


あったか布団

夏の暑さにも冬の寒さにもこれさえあれば大丈夫!暖かくて冷めやすい最高級の素材を使った一品。枕もあるよ。

ーーーーーーー



なんかセコイ販売方法だったが、仕方ない。全部買うか。もちろんテントは2つ分。

2人用だろうが2つ買う。広い方がいいし、一人分だと他のセットがうまく入らない大きさになってた。セコイ。


高っ。何で1000ポイントすんだよ!属性付きの短剣の方が安かったぞ!


ついでに食糧もいくつか買って、アイテムバックに突っ込んどいた。


「さて、テントも張ったし、食事にしよう」


「そうですね」


セフィに渡してあるのはハンバーガー。

普通より少し豪華な感じで、味付けも手が込んでいる。

俺も同じものを食べながら、セフィが食べるのを待った。




「ーーーーーっ!?」


そしてセフィがハンバーガーを食べると、体が痺れたかのように動かなくなった。


「へへへ、食ったなぁ!のこのこ食いやがった!バカな奴め、そん中にはなぁ、麻痺薬が入ってるんだよぉ!」


俺はどこぞの悪役のように口を歪ませてセフィの近くにある袋を奪った。


本当にアホな奴だ。俺は麻痺付きのハンバーガーを召喚したのにも気づかないとは。


この間にトンズラこいてやる。


効果は30秒。これなら奴が来ようとセフィなら対処できるだろう。俺は逃げる。



「あばよ、迷宮の外で待ってるからなぁ!はははは!」


くくく。笑いが止まらない。いかにセフィが俺を思ってくれようと、嫌なもんは嫌なのだ。

降参したと見せかけて、堂々と裏切ってやる。


俺は高笑いしながら素早くアイテムを掲げて、


「で、満足ですか?」


がっつりホールドされた。


「なんで?」


「麻痺耐性ですね。私のステータスにありますよ?あと、麻痺薬もわかっていました」


そういやそんなスキル持ってたような。

いかんせんセフィの持つスキルは多すぎて認知しきれていなかった。


セフィがギリギリと俺を締め付ける。


「痛っ、死ぬ死ぬ!」


「大丈夫です」


「どこがだ!」


「気絶する境目を弁えてきますので」


「大丈夫じゃねぇ!」



気絶の手前は大丈夫とは言わねぇよ。




「・・・・分かった、本当に逃げない」


「本当に?」


「本当、マジで」


「だったら口を開けてください」


ぎくっ。バレてる。


「おいおい、俺の口の中に興奮するのか?変態め。って痛い!痛い!すみませんでした!」


大人しく口の中にある飴を吐き出した。


「はぁ、これは?」


「溶けきったら爆音があちこちでなるやつ」


「何故舐めていたのですか?」


「セフィの気をそらして逃げようかと」



ダメだ、さっきより締め付けが強くなった。

セフィの細腕は、完全に俺の背中に手を回して離さなかった。


ていうかこれ、真正面から抱き合ってる感じになるんだけど。

胸がむぎゅうと、息苦しそうだ。

そろそろ別の意味でやばい。



「あーっ!分かったから、もうしません」


「ダメです」


「じゃあどうすんだよ」


「ユキ様がそこまで私といたいようですので、一晩このままでお過ごしください」


へ?と思うや否やテントに連行された。


「セフィさん、テントなら向こうにありますよ?」


「ユキ様のご意向のようですので」


望んでねぇ!本当なら最高にウェルカムだけど今は違う!TPOだよ、まじで、後でならいくらでも来てください。むしろお願いしますから今は無理だって!



「私としても、主に気絶などさせたくないのですが」


「分かった。もういい」



ここはひとつセフィの胸を堪能して気を紛らわそう。柔らかい。




「全く、人間性のかけらも失いましたか」


「うるせぇ」


「そのままだと一生結婚できませんよ」


「まずは自分のことだろが」


「ヘタレ」


「黙れ」


「臆病な弱虫」


「黙って」


「脆弱で軟弱な最低男」


「やめて、そろそろ心が復活できなくなる」



セフィはゆっくりと片手を解いてくれた。


よしっ。片手でもスキルは使える。


俺はスキルを使おうとして、またもや防がれた。


そんな攻防を5、6回繰り返していると、セフィが両手を俺の頭の後ろにやった。


そうなると、さっきまで堪能していた胸が目前に迫って来る。


「ですが、私にとっては評価のできる存在です。いかに倫理的にも性格的にも最悪だとしても、それは変わりません」


「さりげどころか完全にディスってるよね」


「えぇ。なので、そんな評価できる存在がこうも惨めだと悲しくなります」


「もうちょい素直に」


「ユキ様ならできます。というか私がやりますから見ていて下さい」


「断りたい」


「はぁ」


セフィはまたも冷たいため息をして、俺の髪の毛が少し靡いた。


「でしたら、逃げなかったら私がなんでもいうことを聞きます」


なんでも!?あんなことやこんなこともできると!!


「あなたの奴隷である私が命令に従うのは当然なのですが、1つだけなら私という個人の意思で成し遂げます。例え、どんな命令でも」


「まじすか」


「まじです」


「エッチなやつも?」


「エッチなやつもです」




それは魅力的に映る。

何度も言うようだが、

セフィの容姿は俺のどストライク。見ているだけで飽きないし、今の状況を半年前の俺が知ったら泣いて喜ぶのは間違いない。


薄暗い中で、セフィを見つめた。

黒い長髪からどこまでも透き通る綺麗な瞳。扇情的とも言える体つきは未だにそっちの経験がない俺をダイレクトにアタックしてくる。



「分かった」


「・・・・今回は素直ですね」


「男だし。そういう生き物なんです」



だが、奴への怯えは変わらなかった。


いつ現れるのか気が気じゃないし、万が一セフィが負けたら、果たして俺はどうするのか。

体が震えて思考はおぼつかない。さっきまで逃げることに傾いていた分、今度は悪い方向へと進んでいった。


ありえない膂力。俊敏さ。残忍さ。

脳裏によぎるのは、男の首ばかり。


『に、げぇる、なぁ』




ーーーー三ヶ月前の記憶が蘇る。


どいつも口を揃えて俺を憎んでいた。戦闘が始まってすぐに背を向けた俺のことを。

あいつらは俺を囮にするつもりだった。

実際俺の足は掴まれて両手が固定されて奴の前に放り出された。

腕に巻かれたのは小さな布だけだったのに何をしても解けなかった。

1秒とかかからずに殴り飛ばされた。


頭がガンガン打ち付けられて、視界が赤く染まったけど、案外それが幸運だった。

俺は後方に吹っ飛ばされて布が解けたのだ。

それからのことはあまりよく覚えてない。

誰に会ったか、何を聞かれたか、そのあと俺が何をしたのか。




気づけばセフィが俺の頭を撫でていた。

姉がいればこんな感じだったのか。

慈しむように、宥めるように、愛するように。


セフィは何も言わなかった。


ただただ黙って頭を撫でてくる。


いつまでも、いつまでも。


心が、満たされるようとは、こういうことなのか。



何故だかひどく安心した。




ずっと、このままでーーーーーーーー





✴︎


 




























ユキ様はいつまでも震えていた。

それ程酷い体験をしたのだろう。私自身辛い過去を持ったことがあるから何をして欲しいのかよく分かった。


ゆっくりと、温めるだけ。


でも、今の私がしているのは、

本当はしてはいけないことなのだということも分かっている。


人の傷は、そうそう癒えない。それでも足掻いて、踠いて、躓いて。何度も、何度も繰り返していくうちにいつの日か財産になる。


その人の強さに、勇気に、誇りに、魅力になる。


幾重にも重なった財産は、何者にも変えられないたった1つの自分となる。





時として耐えられない苦痛で押しつぶされても、心の中に大きな穴が穿たれても、決して誰かに助けを求めてはいけない。


でなければ自分がどんどん保てなくなる。


全て完璧にこなせとは言わない。でも、誰かに頼るつけは、いつか必ず訪れる。



だから、私の行動は、ユキ様の財産を、魅力を、全て奪うことになる。




許されない。本人ですらない私がユキ様の弱さに漬け込んでしまう。自己満足で、利己的な恩返し。


嫌がるところを無理やり引き連れるなど最低のやることだ。けれど、ユキ様の怯え方が尋常ではなくて。このまま逃げてしまったら間違いなく彼が壊れてしまうように見えた。だとしたら、私がどれほど憎まれても、彼の心を守りたい。そう願ってしまった。





ーーーどうか、どうか身勝手な私を許してください。





すやすやと眠る彼の寝顔を見ながら、そう呟いた。













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