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2.獣

説明口調が強めですね。猛省してます。

転生してから半年が経った、と思う。


思う、というのは暦を見ないので、あくまで体感の話。

庶民からしたら行事や儀式のある月は 分かっても日にちまでは特に意識していないようで。



あ、文明は中世ヨーロッパあたりだと思う。

領主が強い国があれば国王が強い国もある。

議会が権力持つとか内閣責任制まではいってないから総合的に成長を控えた国々が並び立ってる状況、みたいだ。まぁ、戦争も控えてるようだけど。






さて、そんなこんなで俺の異世界生活は





概ね考え得る最悪そのものだった。





誰だよ!!善行による配慮とか言いやがったのは!?


飯はまずい。金もない。衛生管理は酷いしゴロツキもうじゃじゃ。住む所も覚束ず、何より生きるのが辛い。

どうやらチェスなどの娯楽は少なそうだったから?売り込もうとしたら職人ギルドに殺されかけた。

そんでもってギルドの仕組みはこれまた親方の権力が強くて門弟なんか奴隷みたいなやつもいた。

糞ギルドもいいところだ。




先に述べたのはまだ良い。良くはないが最悪死にはしない。なら耐えることもできる。



あぁ、考え得る最悪の状況だと言ったな。無論その通りだった。想定の内では。





予想外、考え得ない極悪、劣悪、邪智暴虐な奴らがここにはある。







魔物という。




あいつらは死ぬほど強い。まじ強い。目力ガンガン飛ばして殺気をもろに飛ばす。最初なんか気絶しかけた。

そして戦うたびにどんどん人が死んでいく。

そうすると魔物は強くなる。

殺して強くなって、殺して、強くなる。


いつか殺されるまで、その生き方を延々繰り返す。


もー無理。まじ無理。幾ら何でも涙が出るくらい良いことがない。


魔物なんて聞いてねぇ。戦闘もできねぇ。


金も力もねぇ!!!



もしや天使の言ってた勇者もこの状況にブチ切れたのかも。

あぁ、そしたら肩を並べて言ってやりたい。


「こんの、クソ野郎がぁぁぁぁぁ!!!」




俺の号哭が

青い、青い空に届くことはなかった。






✴︎




天使からもらったスキルは三つ。

鑑定、召喚、極大回復。


いや、俺も考えたよ?でもそれ以外ロクなのがなくて、組み合わせ的にこれしかなかった。


回復は、医者の真似事で頑張ろうと思った。

けど、


「あぁん?回復だぁ?ふざけんな!」


「ゴフッ」


でかい男の腹パンを食らった。


「テメェの変な回復で俺の腕が壊れたらどうすんだ!!」


回復スキルは個人差が強く、信用できないものは、相手にされない。変な回復で腕とかがもげることもあるらしい。


俺のスキルは天使のお墨付きだから、多分大丈夫だが、何回話そうと、俺の傷が増えるだけだった。

更に、幾度かチャンスはあっても、みんな俺に回復魔法使わせなかった。



何故か。それは俺のスキルに戦闘系がないから。

俺は冒険者ギルドという、何でも屋みたいなところに勤めて、魔物の討伐をしている。

ということを生業とする人間のサポーターをしている。

荷物を持ったり、飯を作ったり。



普通、冒険者ギルドにいるのは戦闘系スキルを持つものだけで、それが無ければならない、というわけでもないが、持っていないとかなり白い目で見られる。

臆病者として。

例に漏れずその一員たる俺も、かなり酷い目にあった。



だから戦闘できない俺の信用は最悪。

回復魔法が日の目を見ることは無かった。



さて、鑑定も使いどきが分からん。俺としては敵のスキルの見分けぐらいしか使い道が無かった。


じゃあなんで選んだって?

鑑定で商売したかったんだよ。



無理でしたけど。ここもギルドによってその道は閉ざされ、滅多打ちにされた。



くっ!殺してやりたい。



召喚、は地球のものも、この世界のものも、何でも手に入るスキル。

素晴らしい、はずだった。

ポイント制とか言って魔物を倒してポイントを貯めないと召喚できない。

一ポイント100円くらいで、初期値として1000ポイントあった。



今はもう576ポイントですが。




そんなこんなで、俺の異世界生活は最悪だった。


ほんと、何で天使はこんな仕打ちを選んだのか。

もしや、あの子供を助けたのは不味かった?


いやいやそんなはずはないと、思ってはいるが、心の中に何かが渦巻いていた。



✴︎





「よぉ、ユキ、またクエスト行こうか、囮にしてやるよ!」


ギルドにいるとでか男が俺の方をバシバシ叩いてきた。


「それじゃあ可哀想よ。囮より私の奴隷にしてあげる。」


今度は女冒険者が話しかけてきた。



転生した俺の容姿はかなりの美少年なようで、綺麗な金髪が特徴的。

肉体年齢は10歳あたりか。あの天使、ミスりやがった。容姿は変わらんって言ったのに。

まぁ、これは別にいいか。

ガサツな男衆の中、華奢な人間は目を引くのかもしれない。

そのため女は俺を奴隷にしたがる。


それで喜ぶ奴もいるかもれしないけど、奴隷は本気の奴隷だ。薬漬けやら肉盾もしょっちゅう。性処理があっても恐らくロクな話にならない。



そして男は俺が女に言い寄られると思って殴ってくる。


みんなそうだ。この世界で優しい奴なんか見たことがない。

金を奪ったり魔物の囮にしたり、この前なんか気分で背中から蹴られた。


気を張り続けて周りを警戒して、サポーターをして生きていく。それしか無い。


昔、仲良くなった男の冒険者は例外で優しかったけど、すぐに違う街に移っていった。何も無いもんな、この街。



「囮も奴隷も結構です。」


「ちっ、使えねぇガキが」


デカ男は冗談半分に言ってきたのに、俺への反応はガチだった。怖っ。


「残念。じゃね、ユキちゃん。」


女冒険者もさっさと帰った。こちらも冗談?だと思いたい。


さて、今日の仕事はいつも通りサポーターだ。ダンジョンに潜って魔物の素材を集める。俺はそれ以外の荷物を運ぶ。貴重品は俺には渡せないしね。


「ユキ!遅いわよ!さっさときなさい。」


「ほんと、何でこんなのがギルドにいるんだ?」


「いざとなれば囮にはなる」


俺は日替わりのパーティーと組んでいる。だから初対面のはずなんだけど、パーティーメンバーは容赦なく俺を蔑む。


「今行きます。」


早く家に帰りたい。



✴︎


あぁー疲れた。こんなに疲れても大銅貨五枚とか、笑える。まともな飯が食えない。


パーティーの稼ぎは俺を含め四人で銀貨二十枚。

銅貨十枚で大銅貨一枚

大銅貨十枚で銀貨一枚、

銀貨百枚で金貨一枚

日本だと銅貨一枚で100円くらいだ。

金貨一枚100万円。


つまり俺の報酬は五千円。必死に働いて時には囮にされても変わらずこの価格。エグい。



ギルドは何も言わないけど、ポーターの重要性は分かっているのか。

自惚れだが、ポーターは戦闘には立たないけど、他ではかなり役立っているはず。

それを蔑ろにするといつかしっぺ返しを食らう、はず。


食らっちまえ!!




そんなこんなで報酬片手に街をふらふら歩いていると、怪しげな店を見つけた。


「奴隷の店?」


白い看板に大きくそれだけ書かれていた。

割と商店が多い周りと比べても、かなり綺麗なつくりをしているのが外から見てもわかる。

儲かっているようだ。




奴隷、か。知り合いの何人かは連れていた気がする。扱いとしては金が払われないサポーターと同じ。

つまり俺と同じ。境遇は借金やら魔物やら様々だと聞くが、ロクな人生を歩めないようだ。



地球の、平和な日本の世界にいた俺だが、人身売買に心を痛める、訳でもない。

こっちにもルールはあるし、とやかく言うことではない。経済や政治も、奴隷を含めて回っているのだから。



奴隷欲しいなぁ。エロいことまでは行かずとも、癒しが欲しい。膝枕とかでもいいから。

言い方はあれだが半年間冒険者以外の女性と話した覚えがない。夜の街に行く度胸も金もない。

つまり無理ゲー。

生きるのに精一杯なんだよ。


そう思っていた矢先に、


「そこいくお兄さん、お一つ奴隷はいかがでしょう?」


客引きに捕まるとは。


俺は薄い外套の中で身じろぎをしつつ、すぐに歩き出した。



「いや、結構」


「まぁまぁそう言わず。今なら安くしときますよ旦那。丁度いい奴隷が入ったばかりでして」


客引きの男はズル賢い面をして俺の後をついてきた。

変なのに絡まれたな。


「手持ちも心許ない」


「なんと!でも問題ないでさぁ!!何回か分けて支払うこともできやす!」


「借金は背負えない」


「借金って、手強いねぇ。奴隷ってのも綺麗な双子の奴隷ですよ。坊ちゃんの煮るも焼くもご自由に。まぁ、ちょこっと年齢は低いけどそれもまた乙ってもんでしょう」



声音で性別と年齢がバレた。向こうは俺を貴族とでも思っているのか?

というかこの男どこまで着いてくる。



「いらない」


「見てみるだけ、買わないで結構です!!ね、一度だけ見て見ません?」


俺の話に耳を貸さない。


男はとうとう俺の前に立ち塞がってセールストークをかましてきた。


面倒い。前の世界よりずっと酷いな。

ここで折れても相手の思うツボだけど、これ以上迫られるのは最悪だ。腹も減った。


俺は一度ため息を吐いてさっきの店に向かった。


「仕方ない、見るだけだ。」


「へへっそう来なくちゃ!」


さっさと入って帰ろう。

そうと思いながら店内に入ると、応接間みたいな場所に通された。


客引きは違う男に案内を任せたようで、外に出ていった。


「ようこそ、奴隷商会へ。当店ではありとあらゆるニーズに応え、お客様のご要望を叶えさせて頂きます。」


今度はかなり丁寧な男が来た。なんで小汚い俺がこんな対応を受けるのか謎だが、流石に往来に面するこの店が違法行為はしづらいだろう。誘拐はされないと思う。



「双子の奴隷、というのを聞いた」


恐らく、これが目玉商品で、実際に買わせるのは他の安い奴隷。そうしてどんどん売り捌いていくんだろう。


「流石、お目が高い。つい先日入荷したばかりでして。どちらも健康状態は良く、成長も年齢相応ですね。あと処女です。」



要らんわそんな説明。どっちかというと頼れるお姉さんが欲しい。無理だけど。


男は早速ご案内します、と言って席を立った。

俺は警戒半分でついて行く。




小さな部屋に、双子の姉妹奴隷がいた

警戒心MAXでギロリと睨んでくる。

が、魔物と比べると可愛いもんだ。

むしろ天使のジト目と変わらない。

いや、クソ天使はかんけーない。


「お客様の前ですよ。」



男が一喝すると双子がビクッと震えて、おどおどと立ち上がった。


かなり可愛い。恐らく俺と同じくらいの年だろう。顔立ちも整っていて、胸もあるみたいだ。それでいて華奢な体つきは魅力的に映る。


前世ならこんな美少女が自分のものになるなんておおよそ不可能な話。


だが、今の俺にも不可能だ。

再三言うが金がない。

こんなに可愛いということは値が張る。

まじで、絶対。

ってことは諦めないとだな。


しゃーない、さっさと帰るか。

この娘達がどういう経緯でここにいるのかは知らんが、俺には何もできないし、これから訪れる未来が想像できても助けることはしない。

悪いが俺の生死に関わる。

これ以上飯が食えないと飢え死にまっしぐらよ。

貧相な体が忌々しい。



ただ、一つ気になることがあった。

さっきから俺の視界で揺れまくっているそれ。

左右に、上下にわずかに震えている。

めっちゃ触りたい。

いやいや言われながら触りまくりたい。


気になる、幾ら何でも聞いておこうか。





「その、耳は?尻尾もあるようだが。」



そう、双子の耳は狐のようになっていて、尻尾のある。視界の端で微かに動くのが見て取れる。




「えぇ、見ての通りこの双子は獣人でして。

路上で死にかけているのを保護しました。」


ジュウジン?獣の人、か。言われてみればその通りだ。前に見た龍人と同じ種族かも。

だが、こんなに獣よりなのは初めて見た。

ふさふさの尻尾だ。前に飼っていた犬を思い出す。


「獣人とはいえこの容姿。性奴隷にはもってこいでしょう?好きに使って結構です。」


えげつない。えげつないの意味は露骨な様を表すから本当にえげつない。


双子が震えまくってる。でも、睨むというか反抗の意思を見せるところが少し可愛い。

俺の思考も下衆だな。



「それで、幾ら?」


「おぉ、聞いてくれますか。本来ならずっと高いのですが、薄汚い獣人なので一人金貨一枚、二人セットなら金貨三枚でございます。」




き、金貨三枚っ!?!?


ばっかじゃねえの!?馬鹿だよこの馬鹿!!

んなもん奴隷にかける金じゃねぇよ!


大銅貨三千枚だぞおらぁ!こんな貧乏サポーターに払えるか!!!



荒れる内心の中、平静をなんとか装って受け答えた俺は誇っていい。


「何故セットが高い。それなら一人ずつ別に買えばいい。」


「いやはやそれは出来ません。買うなら片方だけ買うか両方買うかのみです。双子揃って性処理を望む方は多いので、その分値段も上がります。」



舐めてる。つまり俺に買わせる気がない。

本当に目玉商品として利用しきってから売り捌くつもりか。

片方だけ買われることを恐れたのか双子は手を合わせて涙を堪えていた。


なんでかなぁ、何でか、イライラする。


別にこの世界の倫理に口出しはできなくとも、こんな子供を人でなしみたいに扱うのは耐え難い。薄汚い獣人ってなんだよ。

人間の皮膚の汚さ知ってるか?

スマホに付着してる菌なんてトイレの18倍汚いらしい。


まぁ、置いとこう。それでも俺は何もできない。できない自分が嫌にもなってきた。

今更自己嫌悪する程自分を高く見ていないはずなのに。



男はニタニタと俺の方を見続けている。


本当に異世界は糞ばっかだな。


もはや男の顔は気味が悪いくらいだった。

じっと俺を見て何も言わない。



俺に何か求めてる?

そもそも俺がここに呼ばれるのも変だった。

外套で、見た目は分からずとも手当たり次第声を掛ける事はないはずだ。

だったら俺に何らかの利益を見込んだ?

あーうぜぇ。

悶々とする内に随分と時間が経っていく。



そんな長い沈黙を破ったのは男だった。



「では、お茶はいかがです?私は席を外しますので奴隷との歓談をお楽しみください。」


すっとお茶を差し出すと、さっきと違う扉から消えていった。


居なくなるのは良いんだけどねぇ。

途端に奴隷がすごい目で俺を睨むんだ。

怖くいないけど物悲しい。


俺は出されたお茶を飲もうとして、戸惑った。

このカップ。


高いやつやん。



上質な手触り。丁寧にあしらった模様は前世の世界と遜色ない。いや、むしろ独特の世界観が見えて新鮮だ。



どれくらい価値があるのか分からないが、俺は単なる好奇心でスキルを使った。

使ってしまった。



鑑定。


途端に、スキル一覧と同じ液晶画面が視界に出てきて情報を伝えてきた。


ーーーーー

ロディーのコップ


今は亡き王朝で使われていた飲み物用の容器。

長い歴史の中で紡がれた文化を凝縮し、体現した一品。価格は金貨十五枚。

ーーーーー


金貨十五枚っ!?

奴隷より高いやん。

さっきの男はこれを知っていて使っているのか。いや、知っていたらこの密室に俺を残さないか。

これは、欲しい。というかさりげなく盗むか貰えないか。誰かに金貨三枚のアテがあれば奴隷を買ってついでにこれを貰ってから売り捌くのに。そうすりゃ金貨十二枚の儲けだ。

三年は遊んで暮らせる。

いや、もっとかも。




俺はコップから視線外して、慌てふためいていると、奴隷が戸惑っていた。可愛い。

俺は少し顔を綻ばせた。


が、次の瞬間に全てが吹き飛んだ。


ーーーーー

麻痺毒


対象を麻痺させ、24時間効力を発揮する。耐性がある場合は効きづらい。

ーーーーー


お茶の説明にしちゃあ物騒だ。

これは間違いなく犯罪臭がする。


もしかしたら扉のすぐそこで俺が麻痺るのを待っているのかも。

俺が動けなくなってから何かするつもりか。

又は俺を奴隷にするのかもしれない。


やっぱ、迂闊だった。


実際見たことはないが、自分の容姿はかなり万人ウケするようで、今まで身の危険を感じた事もある。男からも女からも。

恐ろしい。異世界の男は恐ろしいのだ。



すぐさま警戒しても、どうしようもない。

どうせ俺が死のうが代わりはいくらでもいるし、誰も何とも思わない。


双子には悪いが、やはり俺は力になれない。

このコップを盗んでも、恐らく騙されて終わるか、殺される。それだけ価値がある代物だ。


が、やはり俺を睨む奴隷を見ると、己の無力を感じた。


鑑定スキルは、やはり神の恩恵だったらしい。


俺は人を対象にしたことがなかったので、今まで気づかなかった。

否、気づこうとしなかった。

ひたすら神を呪い、天使を憎み現実に下を向き、鬱屈と日々を過ごしただけだ。スキルに縋るのは弱いことだと決めつけて、思考を諦めていた。


だから、たとえ俺の視界にこんなものが入ってきても、助けようとは思えなかった。


ーーーーー

サーシャとリヒネ

亡国の元第一王女と第二王女。

年齢は共に12歳。他国の侵入で自国は滅亡。父と母の必死の抵抗により命からがら亡命するも、敢え無く盗賊に襲われ護衛が全滅。幸い盗賊も共倒れして路上に行き倒れる。

そこを通りかかった商人と偽る男に騙され奴隷に。以後、奴隷の店の目玉商品として売られる。飯は日に一度。

ーーーーー


まずい、何がまずいって俺の状況だ。

ここでいうのも何だが、俺はこの世界に来てかなりのクズになった。

法に触れることはしていないが、仲間を見殺した事もあるし、後ろ指で刺されようと文句は言えない事もして来た。生きる為とは言え、背負った業は変わらない。

たが、前世で子供を助けたように、割とお人好しな部分がある。あってしまう。

それはそう簡単には治らないけど、時として命取りになる。

単純な思考で可哀想と感じて手を差し伸べ、後のことを考えない。

それは救う側も救われる側も害にしかならない。

だから俺はこの娘達を見捨てなければならない。

互いの為に。生きる為に。己の為に。





己の、為か。



果たして、何が己の為になるのか。

今のような生活をひたすら送る?


馬鹿らしい。そろそろ俺は終わってしまう。確率を考えて欲しい。魔物と相対することは珍しくない。囮にされるのもしょっちゅう。

だったらいつか死ぬだろう。それもかなりの高確率で。たとえ死亡率が1%だろうが100回に一回死ぬ可能性がある。統計を取ればそう単純じゃなくとも、容易に死ぬことは確か。ましてや実際の確率はずっと低い。



だったら、なんのために生きるのか。

よく、分からなくなっていた。獣人は、差別されてるらしいし、俺も奴隷みたいな扱い。

何も楽しくない。

なら、少しは命を賭けてもいいかもしれない。死ぬことを恐れてこのまま生きるくらいなら、危ない橋を渡る。





気がつくと俺は双子の頭を撫でていた。

無言で。

二人とも非常に嫌な顔をしている。だが、俺にはそんなことはかんけーない。

よろしい、ならば戦いだ。

あてがない、訳でもない。





✴︎


「どうなされますか?良かったら他の奴隷もご紹介しますが」


麻痺毒については反応なし。男はいたって普通に帰ってきて話を切り出してきた。


「いや、この奴隷を買おう」


「なんと!それでは「が、今は手持ちが少ないし、借金もしたくない。だから、少し遠くにある家まで取ってくる」


「成る程、でしたらいつ頃ご来店できますか?」


「すまないが三週間かかる。」


「いえいえ大丈夫です、またのお越しをお待ちしております。」


男はニヤリと笑っていた。


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