フェルディナントについて 4
拙い文章ですが、よろしくお願い致します!
見渡す限りの平原。
足元に広がる雑草はどこまでも伸び続ける緑の絨毯のように見える。
春になれば穏やかな風が頬を撫で、夏になれば爽やかな風が吹き抜ける。
秋に入れば、少しずつ冬支度を始める動物たちを眺めつつ、冬を迎え、暖かい春を待つ。
きっと、この平原の季節はそのようにして通り過ぎていったはず。
穏やかな時間を過ごすはずのこの平原では、それこそ今。
この場に似つかわしくない、甲高い金属が重なる音と、群衆の怒号がひしめき合っている。
かたや、両翼を広げた勇ましい鳥の旗を掲げ、かたや盾の後ろを研ぎ澄まされた剣が二刀、クロスするかのように重ねられた旗を掲げている。
鳥の方は、レイルート帝国の旗だ。
そして、盾の方は、俺たちバルト国剣士団の旗。
両者が武具を構え、互いの国の信念のためにぶつかり合う。
誰がこんな穏やかな時間が流れる場所で殺し合いをすると思うのだろう。
俺は出兵し、この平原を訪れた時にそう感じた。
だが、今はそうは思わない。
有利に攻め込むために戦いやすい場所を選び、狙い、奪い、陣地にする。
戦争というのは、どこでもできるものじゃあない。
確実に勝つ為の材料が揃っている場所でなければ、戦いそのものが成り立たない。
見通しが良く、敵の動きを掴みやすくするための、戦いやすい場所。
そのためにこの平原が選ばれた。
それが戦争だからだ。
「フェルディナント! そっちに行ったぞ!」
前方からバルの叫びが聞こえた。
声じゃあない、叫びだ。
平原の中央でぶつかり合った両軍は、一気に混ざり合い、どれが敵でどれが味方なのか、見分けがつかない程ごちゃ混ぜになってしまった。
その中で、俺はひたすら剣を振っていた。
周りを見渡せば、どこもかしこも敵兵の兜が目に入ってくる。
一体、何がどうしてこんなに入り乱れて戦うことになったのか?
それは初撃に理由があった。
中央でぶつかり合うまでは良かった。
互いに重装歩兵がぶつかり合うからだ。
盾を構え、間合いの取れる得物に分厚い装甲に身を固めた重装歩兵は動きこそのろいものの、ぶつかればたちまちこちらが弾き飛ばされてしまう程の勢いを持っている。
その彼らが軍の前方に構え、開戦を知らせる笛の音と共に、地響きを思わせるような低く、太い足音を重ねながら敵陣に向かって突入していった。
その勇ましさを目にすれば、敵の中央突破など容易いと思った。
誰もがそう思ったはずだ。
ーーだが……
「何ぃ!? 前衛が打ち負かされただとぉ!?」
小隊長が馬上でそう叫んだのが聞こえた!
信じられないが、重装歩兵が最初のぶつかり合いで打ち負かされてしまったというのだ。
我々剣士団は軽装ゆえ、中央よりやや後方に配置されている。
前衛を重装歩兵、その後ろを騎馬隊、さらにその後ろが我々軽装歩兵の位置するところということだ。
我々剣士団は、軽装歩兵のさらに後方にいたのだが、その伝令が聞かされる頃には、既に前衛では乱戦に突入していた。
「ちぃ! このままでは一気に攻め込まれる! 剣士団は後方へ下がるぞ!」
小隊長が我々に指示を出した。
「小隊長! しかしながら、この場で持ち堪えることができれば!」
「重装歩兵が突破されたのだ! ただでさえ軽装の我々に何ができる!?」
分隊長が小隊長にそう進言していたとき。
ヒュッという音と共に、馬上の小隊長の首を矢が貫いた。
「あ!?」
俺は思わずそう口を開いたが、その頃には小隊長は馬から落ちたところだった。
視線を小隊長から前方に戻すと、敵はそのラインを騎馬隊まで進めているところだった。
前の方で、あちこちから血しぶきや断末魔、悲鳴、時には腕が飛び交っているのが見えた。
ーーこれが戦場……
腕が震える……
足に力が入らない……立っているのがやっとだ……
剣を抜き、構えるが、腕が震えて力が入らず、碌な構えもできやしない。
俺は、戦場の空気に、雰囲気に圧倒されていた。
「……く、くそ!」
俺はガチガチと鳴る歯を、無理やり押さえ込み声を漏らした。
「く、く、く、くーー」
騎馬隊を潜り抜け、敵が軽装歩兵の陣地に現れた!
なんと、目の前に現れた敵は胸当てを纏い、すね当てや長剣と言った、軽装歩兵だった!
ーーこいつらが騎馬隊を突破してきたのか?
迫り来る敵を前に、俺はおもむろに構えた。
こういう時には、普段の癖が出るものだ。
俺は剣の切っ先を自分の目と鼻の延長線上に掲げた。
ーー中段の構え。
「オラァァァァァァァァ!」
敵は大きく剣を振りかぶり、俺に迫る!
振り下ろされる剣!
だが、俺は足を一歩引いて間合いをずらし、剣の切っ先でその攻撃を横へ弾いた!
キィン!
弾かれた剣は思いっきり横へと広がり、敵の胸元が開いた。
俺はそれを見逃さず、素早く剣を引くと、天めがけて振り上げた!
バシャァァァァァァ!
「ぐぁぁぁぁぁぁ……!」
胸当てごと、敵の腹から首元までを斬り裂き、鮮血が勢いよく溢れ出た!
そして、そのまま後方へ力無く、敵兵は倒れたのだ。
「は、はぁ、はぁ……はぁ」
気が付けば、俺は肩で喘ぐように息をしていた。
人が死んだ。
俺の手で、人が死んだのだ。
殺した……
こ、殺してしまった……
「う、う、うぁ……うぁぁぁぁぁ!」
そして、冒頭のバルの声が聞こえたのだ。
俺は、恐怖なのか罪の意識なのか分からないが、とにかく胸の内より溢れ出てくる色んな感情に押し潰されそうになるのを堪えつつ、剣を振り続けた。
幸いにして、敵は我々の陣地は深くは入り込まず、すぐに撤退していった。
敵の目的は、重装歩兵と騎馬隊の機能を奪うことにあったらしい。
敵が退いていったのを確認して、我々にも撤退の笛が聞かされた。
ーー終わった……
その笛を聞いた時、急に体の力が抜け、地面に膝をついた。
そして、剣を見た。
ベットリとした、赤い血糊が残っている。
俺は今日、初めて人を殺したのだーー
フェルディナント、初めはこんなナヨい感じだったのですね。
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