フェルディナントについて3
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やっとこさ更新であります!
気が付けば、俺はいつもバルとつるむようになっていた。
食事の時や訓練後の晩酌など。
はたまた、三日に一回の沐浴の時も一緒にいる。
男は裸の付き合いとはよく言ったものだ。
バルは、聞けば辺境に故郷があると言うではないか。
バルは八人兄妹の真ん中で、下にはまだ弟と妹がいるいるらしい。
上の兄、姉は既に都に働きに出たり、嫁いでいるそうだ。
あぁ、長兄は先の戦争で戦死したとか。
一家の長兄が死ぬというのは、どんな家にとっても辛いことだろうな。
兄妹の中で一番体格が良かったバルは、幼い弟たちを思い、飯の口減らしにでもなればと剣士団に入った。
剣士団に入れば、食いっぱぐれることはない。
服も金も、寝るところも、生活の全てが保証される。
あとは自分の腕次第。
バルにとっては都合が良いというわけだな。
俺がそう言うと、バルは口元を緩めた。
「貴族らしい言い回しだな、フェルディナント」
「ん? そうか?」
「あぁ、いかにも貴族目線って感じだ。ま、間違ってる訳じゃぁないからな」
「気を悪くしたか? すまんな、あまり、その、何というか……」
「身分の低い者との会話や言い回しには慣れていない。だろ?」
「あ、あぁ。すまん」
迂闊だった。
自分の口癖や言い回しには気を付けているつもりだったのだが……
俺はさも済まなさそうな顔で謝罪すると、バルは白い歯を見せて笑った。
「気にすんな! そんなかたっ苦しい仲じゃないだろ!」
と、バルは俺の背中をバンバン豪快に叩いてきた!
その力の強いこと強いこと!
俺は思わず顔をしかめてしまった。
「あっ、つつ? い、痛いぞ! バル!」
「はっはっはー!!」
そして豪快に声を上げて笑った。
それを見て、釣られたように俺も微笑んだ。
「お前はいいやつだな! フェルディナント!」
「は? な、何を急に……」
「なぁ、頼みがある!」
「た、頼み?」
「そうだ! いつかお前が家を継ぐ時には、俺をぜひ雇ってくれ! 俺は、お前のためならどんな仕事でもする!」
と拳を握り、ドン! と自分の胸板を叩いた!
その表情は真剣そのもの。
そんなバルを見て、俺は思わず被りを振ってしまった!
「ま、待てよ! まだ俺が継ぐかなんて……、何よりいつになるから分からんぞ?」
「だから、いつかと言ったろう?」
「それに、戦でどちらかが死ぬかも……」
「大丈夫だ! 俺が必ずお前を守る!」
何故だろう、何故、バルはあんなに自信に満ちた顔で言えるのだろうか。
俺にはそんな自信はない。
何より、父上の跡を継ぐなど……
父上の名声はこの国では知らぬ者はいないほど。
俺が家督を継いだとして、果たして釣り合うのだろうか?
だが、バルは俺が「いつか家を継いだ時に」と言った。
であれば、その時までに腕を上げておけばいいということにもなる。
さて、そんなにうまくいくものだろうかと考えてしまうが……
「頼む! フェルディナント!」
バルは本気だ。
本気だから、俺なんかに頭を下げて頼み込んでいる。
こんな俺に。
俺を守ると言った。
これは本心なのだろう。ならば、それを信じるほかにないのじゃないか?
それに俺たちはまだ見習いだ。
右も左も分からないヒヨッコだ。ヒヨッコは成長し、やがて鳥になる。
鳥になれば羽ばたく。自分の指し示した道に沿って。
カムリ家を継ぐとなれば、それが俺の指し示された道とすれば。
「……分かった」
俺は口を開いた。
「バル、分かったよ。分かったから顔を上げてくれ」
俺はバルにそう話しかけた。
バルはゆっくり、ゆっくりと頭を持ち上げた。
「いつになるか分からないが……、俺が家を継いだ時には、お前に働いてもらう」
俺がそう言うと、バルはその強面をクシャッとして笑ってみせた。
いい顔だ。
本当にバルの笑顔には救われる。
ーーだが、その約束が果たされることはなかった。
約束を交わした日から半年後。
俺たちは戦場に立っていた。