フェルディナントについて 1
まずはフェルディナントからいきましょう。
俺の名前はフェルディナント・カムリ。
バルト国随一の貴族、「カムリ家」の長子にして長男だ。
父はエンリケ・カムリ。
とても聡明で、それでいて頭が切れるともっぱらの噂だ。
国の外交を任される程だから、その手腕は巧みと言えるのだろう。
また、父は剣術や槍術などの武の才能も秀でている。
かつては、あの栄光の剣士団団長に一番近いとされながらも、その身を引き、今の立場にあるというから驚きだ。
その理由は母だろう。
本来ならば、バルト国の貴族家と婚姻を結ぶのが習わしだ。
だが、母は隣国であるクロノシア国から嫁いできている。
国の習わしを曲げてまでの結婚となれば、その裏には何かきな臭いものを感じるのは無理もない。
その実、父はかなり周囲から叩かれたようだ。
詳しい話は知らないが、他の貴族からの妬みや嫌味がしつこかったと聞いている。
それでも実務を支障なくこなしたというから、父の精神力はとても強いのだろう。
俺ならとても耐え切れそうにない。
さすが父だ。
母のことはおぼろげながらだが覚えている。
綺麗な方だった。
いつも俺を抱きしめてくれた。
父に剣術の稽古をつけられれば、決まっていつも泣き出したものだ。
何しろ、父は厳しい。
特に基本の形や構えなどは、自然と取れるようになるまで叩き込まれた。
上手くできなければ手を上げられることもあり、俺は父が恐ろしくて泣いた。
そんな稽古終わりの時には、いつも母が寄り添い、抱き締めてくれたものだった。
その度にいい匂いがして、不思議と心が落ち着いた。
気が付けば泣き止んでいた。
そんな俺に、母はよく言い聞かせられたことがある。
「お父様はあなたが憎くて厳しくするのじゃない。将来、この家を継ぐ為に、あなたの心を鍛えてらっしゃるのよ」
笑顔で、母は笑顔で俺にそう言い聞かせていた。
その笑顔がとても美しくて……
でも、それが壊された。
妹が生まれたことで。
母は元々体が弱かった。
だのに、父は母に子供を生ませた。
妹を生ませた。
「フェルディナント。お前の妹だ。喜べ! かわいい妹だ!」
父は俺にそう言った。
喜べと言ったが、何も嬉しくない。
代わりに母が死んだ。
たった一つ、俺の心の繋がりであった母が死んだ。
母亡き後、父は再婚をしなかった。
それは、父が母を愛していたということの証明を、俺たち兄妹にしたかったのだろう。
妹は基本的には乳母が育てた。
まだ小さく、幼い命。
偽物の母親から母乳を貰い、スクスクと育っている妹。
そんな妹が憎かった。
何も知らずに成長していく妹が憎かった!
妹は成長するにつれて、俺の後を追って来たり、一緒に遊ぼうと言ってくるが、俺は邪険にした。
時には罵り、時には叩き、体を抑え、妹を徹底的に拒絶した。
後年、妹は俺が優しかったと言っていたようだが、それは違う。
成長すればやり方を変える。
それだけだ。
ただ単に嫌がらせをしなくなっただけ。
たったそれだけで俺が優しくなったと言って微笑む妹は、見ていて哀れだったな。
それに、優しくしておいて後で裏切れば、心に出来る傷も深いだろう。
クックック。
最後に笑うのは、この俺なのだ。
やがて成長を重ね、十五を迎える歳になった頃。
俺は実家を離れ、剣士団に入団した。
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