天才の兄の愛するものは
あるところに、名家の息子の兄弟がいた。
兄は天才。3歳で作った物が特許を取って儲けてたぐらいで、順風満帆な人生を歩んでいた。
そんな兄が5歳の頃、弟が生まれた。
弟は産声を上げずに生まれた。呼吸器でなんとか一命は取り留めたものの、不運は続く。
障害や持病が次々と発覚し、外にも出れない、言葉もあまり理解できない、ほとんど動く事すら出来ず、一生を終えると医師には言われた。
家族はその子供を忌子として、居ないことにした。兄が天才だったから、出来損ないはいない方がいい、それでいいと考えたのだろう。
しかし当の兄は全くそうは思っていなかった。弟を溺愛し、毎日会いに行き、投与する薬品も全て兄が指示、それだけでは飽き足らず自分で作ったりしていた。
弟が風邪でも引こうものなら心配で眠れず、持病が悪化でもしようものなら全てを放り出し、看病に全力を注いでいた。
勿論、家族は面白くない。兄の才能が弟以外に向かなくなってしまう。なぜか?兄は弟が好きだ。弟が居るからじゃないのか?ではいなくなってしばらくすれば元に戻るのではないか?
弟の12歳の誕生日、兄の必死の看病の甲斐もあったのか持病はかなり良くなっていた。
兄は学校(講師の仕事)からの帰り、健康に気を使ったケーキを自作(家庭科室で)し、上機嫌で弟の部屋に入る。が、だれもいない。
家族に聞くが、だれも弟の『存在』を知らなかった。
激怒した
自分の愛を、
否定するのか?
家族全員その後存在を消した。
だがそこで収まる兄ではなかった。
全て処分された筈だった弟の物(使用済みストロー)をなんとか探り当て、DNAを採取。
クローンの制作に着手した。
当然クローンの製作自体は全く難航しなかった。が、一番の問題点は弟の元気な姿を見たい。という事であった。
弟は結局、一度も笑った事はなかった。ずっと、何かに対して謝っていた。
兄は、弟の体を科学の力で再構築した。
オリジナルの体では歩く事すらままならなかった体は科学物質の塊でなんとか動かされている。
オリジナルの体では作れるエネルギーが少なかったから、体内でエネルギーを作り出す機構を組み込んだ。
作ったエネルギーを余す事なく使う運動神経。
そして自分への愛を重点的に作った。自分の愛に応えて貰うため。
完成した弟と同じ名前の人造人間は、兄の思った通りには、行かなかった。笑顔を見せてくれないのだ。
ある日、兄は弟と同じ名前の人造人間に新たな感情を抱いて貰えるように小動物を買い与えた。
次の日、弟と同じ名前の人造人間は買い与えた全ての命を笑顔で奪った。
弟と同じ名前の人造人間は、笑顔。
「それが見たかった。」
兄は、弟と同じ名前の人造人間が命を奪う事、奪われそうになることに快感を抱いているのを感じ取った。
だからこそ、兄は弟と同じ名前の人造人間にナイフを与え、人の殺し方を教えた。
それが、笑顔になってくれる方法なら、地獄にでもなんでも堕ちてやる。
弟はもういないんだ。
今、僕が好きなのは
弟と同じ名前の人造人間なんだ。
弟と同じ名前の人造人間が好きなのは
弟が好きだった僕じゃなくて、自分のことがが好きな僕なんだ
けど、しばらくこのままでいいか。
さみしいな。
いや
なんでだろう
虚しいな。