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魔術師組合の雑用係  作者: 天川降雪
第四章
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魔術師組合本部の外で

 魔術師組合本部の外で荷馬車の音が聞こえた。床に雑巾がけをしていたペルは、入口の扉へと顔を向けた。まもなくノッカーが鳴らされ、ペルが応対に出ると、配達人が玄関外の軒下に立っていた。その脇には、なにやらどっさりと荷物が積んである。

 ペルは伝票にサインをして荷物を受け取った。送り状の依頼主はラクスフェルドの魔法用具専門店で、宛名はステラだ。添付された納品書の品目にずらりと並ぶのは、すべて魔術用具である。貴重な古書の写本、高レベルな魔術スクロールの束、魔術が付与されている貴金属製のアクセサリー等々。いずれも、ずいぶんと高価なものばかりだった。

 いまステラは裏庭のテラスで昼寝中である。裏口から外に出たペルは、お気に入りの寝椅子で浜辺に打ちあげられたタコみたいにだらしなく横たわっているステラを、そっと揺すって起こした。

「ステラさん、なんか荷物がきてるんですけど」

 薄く目を開けたステラに、ペルが納品書を差し出す。しばらくぼうっとしていたステラだが、顔の前にある紙切れを反射的に受け取ると、彼女は寝ぼけ眼でそれを眺めた。

「ああ……これね。やっと届いたんだ」

「すごい量ですよ。どうしたんですか、あんなに」

「どうしたんですかって、買ったに決まってるでしょ」

 ステラは寝椅子からのそりと起きあがり、しなやかに伸びをした。

「この前のあまったおカネでね。ぜーんぶ遣っちゃった」

「ええっ、あれみんな遣ったんですか!?」

「そ」

 目を丸くしているペルをよそに、ステラはあくびをひとつ。

 魔術師組合の組合費横領事件が解決してから、もう十数日が経っていた。あの件でステラは無事に組合のおカネを取り返した。しかし、ペテンじみた方法でジマジからせしめた金額は、たしか一四〇〇万オリオンだったはずだ。そこから一〇〇〇万を組合に返しても、四〇〇万はステラの手元に残る計算である。それを一度の買い物で、きれいさっぱり遣いきってしまうとは。

「あたし、わかっちゃったのよねえ。おカネなんて、その気になればどうにでもなんのよ。なんでみんな、あんなの手に入れるために齷齪してるんだか」

 言うと、ステラは組合本部の母屋に入った。ペルもそれにつづく。

「おカネは生きてゆくために必要なものですよ。そのために働くのは当然じゃないですか」

「ペル──」

 ため息まじりのステラがペルに向けたのは、無知蒙昧な者への哀れみを込めた眼差しである。

「あんたもそのうち、世の中の仕組みってのがわかるわよ。もうちょっと大きくなったらね」

「なんです、それ」

 達観めいたことを口にするステラに、ペルは不審顔だ。

 ふたりは組合本部の入口の扉を開け、外に出た。入口の横に積んである魔術用具の山は、あらためて見ると大荷物だった。その前に立ったステラは、荷物のひとつであるあやしい開運の壺の上に、封書が載っているのに気づく。

「あら、マンジェロからの手紙よこれ」

 封書を取りあげ、差出人の名を見たステラがそう言った。封を解き、なかの便箋に目を通す。

「……ふうん。あのふたり、どうやら達者でやってるみたいね」

 ステラから手紙を渡され、ペルもそれを読んでみた。綴られた内容はステラへの感謝と、ふたりのその後である。あのあと、ジマジへの借金がチャラになったことを知り、マンジェロとアケミはラクスフェルドを去ったようだ。いまふたりはマンジェロの故郷に居を構え、そこでおでん屋をはじめたのだという。いろいろと障害のありそうなカップルだったが、まじめに生きてゆく道を選んだようでペルはほっとした。人生の再起を図ったふたりに幸あれ。

「そいじゃ、あたしはちょっと出かけてこようかなっと」

 ステラの言葉にペルが手紙から顔をあげる。

「どこにいくんですか」

「大事な用があんのよ。あたしだって、暇じゃないんだからね」

 組合本部のなかへもどると、ステラは魔術杖ととんがり帽子を手に取り、出かける準備をはじめた。そして彼女がいつも使っている雑嚢を肩にかけたとき、ぽろりとなにかがこぼれ落ちた。床に落ちたそれはころころ転がって、ペルの足下へとたどりつく。

「あっ、これ賭博場の代貨だ!」

 薄っぺらいメダルを拾ったペルが、半ば叫ぶように言った。瞬間、気まずい表情を見せるステラ。

「ステラさんっ!!」

 ペルが怒鳴ったときにはもう遅い。ステラが魔術杖をさっと振り、空間転移の呪文が発動した。脆いガラス細工が砕けたような、かすかな音を残し、彼女は消えた。そうして、ペルの耳に念話の声が聞こえてくる。

『ペルー、荷物は地下の倉庫に運んでおいてねー。今日のあんたの仕事はそれ。じゃーねー』

 どうやらステラは悪い遊びをおぼえてしまったようだ。

 脱力したペルは、大荷物の横でため息をついて座り込む。ふと上を仰ぐと、夏の気配をしのばせる空が青い。二羽の小鳥がぴよぴよと囀りながら、のどかにペルの頭上を渡っていった。


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