18 発電所がない
この国には発電所がなく、送電線もなく、電柱もない。火力発電所も原子力発電所もすべて廃止された。誘発地震が懸念されていた巨大な水力発電用ダムや多目的ダムは、開発遺産として残されることになった場合を除いてすべて撤去された。巨大なアーチダムは外国人にも人気がある負の遺産観光である。ただし観光放流しかしておらず、発電はしていない。治水ダムにかわってかつての洪水原に広大な遊水池がビオトープとして復元されている。遊水池は豊富な地下水源をもたらし、飲料水や農業用水となっている。
エネルギーはこの国においても電気である。この国の電気はすべて地場発電によって供給されるので、送電線がなく、変電所もないのである。
地場発電装置として初期に普及したのは燃料電池だった。しかし水素の供給に限界があった。現在は核ダイヤモンド電池が主流である。これは放射性炭素14をダイヤモンドに加工して安定させ、そこから放出される放射線を電気エネルギーに変換する電子力電池である。ダイヤモンドのかわりにカーボンナノチューブを使った積層式超高密度超高出力電池もある。放射性炭素14は閉鎖された原子力発電所の核廃棄物を再処理して抽出されるエネルギー源で、半減期は5730年であり、今後1万年以上エネルギーを供給できるとされている。原発の廃止と核廃棄物の完全循環処分はSLPMカサロスが提唱した政策だった。LPMカルディアックがこれを白紙撤回したことも道路革命の一つの契機となった。
人型ロボットのエネルギー源は超安全小型核ダイヤモンド電池(SSSRIDB)である。SSSRIDBは半永久的に再使用される。
もっと大電力が必要な場合は核ケミカル電池を使っている。これは化学的に常温核融合を起こして放出されるエネルギーを電気エネルギーに転換する原子力電池である。低温核融合電池ともいう。
再生可能エネルギーとして、太陽光発電、風力発電、バイオマス発電、地熱発電、小水力発電などが、この国でも一時的に流行した。現在はタリフバランス(コストパフォーマンス)基準の引き上げによって大半が廃止されている。設置補助金やFIT(固定価格買取制度)なしには採算が合わない偽エネ(偽装エネルギー)が多かったからだ。また環境や景観とも調和的でなかった。プラスチック系及び動植物系廃棄物のエタノール化だけは今も続けている。石油を輸入していないからである。
この国の都市はエネルギーを自給していてもエコタウン(環境都市)とはよばれない。エネルギーを自給することは環境とは関係がないからである。この国でエコタウンとよばれているのは防災上の観点から放棄されて住民がいなくなった廃都である。廃都は生態系解放区としてリノベーションされ、人気の観光スポットになっている。




