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彼女  作者: さな
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八章

次の日、目が覚めるとサチが苦しそうに胸を押さえていた。

大丈夫だからと、俺を突き飛ばして誰かに電話をかけに行った。

俺はその間に風呂に入り、再び床で眠った。

帰ったらすごく怒られるんだろうな、とか、

宿題終わるかな、なんてとんでもなくのんきなことを考えていたもので、

逃げ出してきたことを忘れていた。


サチの家庭は虐待をするような家だっただろうか?

虐待というか、痣に見えたけどもしかしたら痣じゃないかもしれない。

じゃあなぜサチは何も言わない?

サチはなぜ逃げ出してきた?

脳内で同じようなことが堂々巡りしている。


「コウイチ、今からお母さんたち来るって。

場所、ばれちゃった。私、発信器ついてたんだって。

プライバシーも人権もあったもんじゃないね」

「そうだな」


笑っては見せたがサチの本心が全く見えてこない。


「サチ、隠し事とか話しておきたいこととかない?大丈夫?」

「え、あ、うん」


急に口ごもった。


「まあいいや、このまま待つ?」

「うん」


何時間経っただろうか。

サチは自身の寝室から出てくる気配がない。

お母さんたちが来たら呼んで、それまで開けないで。

そうだけ言って閉じこもってしまった。

不安になった。寝室で何が起こっているのかは分からない。

インターフォンが鳴る。

鍵が開けられ、人が入ってくる。


「幸一くん」

「おばさん、おじさん」

「幸は?」

「寝室です」


俺を叱る様子も娘を叱る様子もない。

ただ単に心配していた。

あの体は、虐待じゃなかったのだ。


「幸一くん、警察を呼んでくれないか」

「え、あの、」

「いいから早く」


わけが分からないまま警察を呼んだ。

すぐに行くと言ったが、実際の距離からすると相当かかると小声で言われた。


「幸」


おじさんはサチを呼んで抱きしめた。


「触らないで」


サチは泣きそうな声で言った。


「私、もう生きたくない。」


サチはそうつぶやいた。


「私、知ってるんだから。

小学校の時の事故で私は死んでること。

死んでるのにお母さんもお父さんも私を生かそうとするから!

私は成長しないまま大人になった!」


サチは泣きながら叫んでいた。


「今じゃ自分の心臓の音で夜、目が覚める!

ガシャンガシャン。

人間じゃない私は何で生きなきゃいけないの!

お父さんたちの自己満足なのは知ってる!

でももういいでしょ!

腕や足、胸、背中、顔も瞳も、全身の壊死が始まってる。

なのに苦しんで、苦しめてまで生きたくない!

死のうとしても私には血液が流れてないから傷つけても血と同じ成分の油しか流れない!」


サチが何を言っているか早口で何も分からなかった。


よく分からない話で俺はなんとなく外に出た。


警察のサイレンが聞こえる。



ここで一人の幼い少女の人生の延長戦が終わった。

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