七章
名古屋行きの新幹線に乗ってしばらく経った頃、
台風が本格的に上陸したと通路を挟んだ隣のおじさんが大きな声で話していた。
サチは隣でぐっすり眠っている。
あと少しで目的地に着く。
サチと肩が触れない程度に距離を置きつつ、ジッと到着のアナウンスを待った。
「コウイチ、ここどこ」
目が覚めたサチはまだ意識がはっきりしていなく、ぼうっとした顔で尋ねた。
「分かんないけど、あと少しで目的地に着くと思うよ」
「そっか」
「着いたらまず、どこかでご飯でも食べようか」
「うん」
「もう少し寝てていいよ。着いたら起こす」
「ありがと」
そういってまた眠りについた。
サチは自分の腕をぎゅっと握ったまま眠った。
俺は携帯の電源をつけようか迷ったが、まだここで見つかるわけにはいかなかった。
帰ったらまたサチの体に傷が増えるだけだし、俺自身もどうしていいかよく分からなくなっていた。
とにかく、サチを一旦安全な場所に連れて行きたかった。
理由はそれしかない。
そして、その体中の傷の原因を聞けたら本望だ。
『次は名古屋です』
「サチ、着いたぞ」
「うん、分かった」
サチは眠い目をこすってあくびをした。
「よく寝たわ」
「そうだろうな」
「さて、ご飯どこで食べようね」
「サチの好きなところでいいよ」
「やった」
こうして話していると小旅行に来たようで少しはしゃいでいるようにも見える。
新幹線を降りると物凄い音を立てて雨が降っていた。
「凄い雨」
「昔は雨嫌いだったもんな」
「ええ、まあ、そうね」
傘を駅の購買で買い、外に出た。
外は真っ黒の雲が立ち込め、時間の流れを止めているようだった。
唯一、雨と街角のモニターが時間の流れを現しており、何とも不思議な空間だった。
駅から少し歩いたところに飲食店があったのでそこで軽く食事をした。
店員は、サチの顔を見て驚いていたようだが、
サチがあまりにも笑顔で大量の料理を頼んだのでますます顔が引き攣っていた。
特に会話もないまま、食事を済まし、店を出た。相変わらず雨は降り続け、道路が川のようになり始めていた。
「今夜はカプセルホテルでいいよな」
「実はね、近くにアパート借りてて、今は物置みたいになってるんだけど、狭くていいならそこに泊まる?」
「ばれたりしないか?」
「大丈夫よ。携帯も家だし、コウイチだって携帯の電源切ってるんだし」
「そうだな」
電車で三駅行ったところに小さなアパートが見えた。
部屋にはほとんど光がついておらず、人がいないことが窺えた。
「上がって」
並んでいたスリッパを履いて部屋に入ると、工具がたくさん散乱していた。
それを隠すようにどんどん押し入れに押し込んでいく。
仕舞い終わったのか俺を手招きした。
「お邪魔します」
「どうぞ」
すこし埃のかかったソファに腰掛け、少しうとうとしていると、寝間着に着換えたサチが俺を起こした。
「お風呂、入るなら入ってもいいよ。眠いんだったら明日でもいいし。」
「じゃあ明日にする」
「分かった。コウイチはそこで寝て、私は別のところで寝るから。」
「分かった」
「おやすみ、コウイチ」
「おやすみ」




