五章
その晩、サチの家の目の前にいた。
決して、何かを詮索しに来た訳ではない。
いつ入ったのか知らないが、サチがお気に入りだと言っていた、
可愛いウサギのシャープペンシルがカバンの中にあった。
家ではじめてカバンを開けて見つけたため、届けるタイミングを見失い、今に至る。
ドキドキとしながらインターフォンを鳴らす。
中にベルの音が響いているのがやけに大きな音に聞こえて冷や汗が噴き出した。
「はい」
「夜分遅くにすいません、」
「ああ、コウイチくんね。今開けるわね、ちょっと待ってて」
応答してくれたのはサチのお母さんだった。
「こんばんは。どうしたの、こんな時間に」
玄関から出てきたおばさんは昔から変わらず綺麗な人だ。
「すいません、こんな遅くに。サチのシャーペンを間違えて持って帰ってきてしまっていたみたいで」
「あらそうだったの。わざわざごめんなさいね。暑かったでしょう、お茶でも飲んでって。」
「あ、いえ。おばさんもおじさんもお仕事で疲れてるでしょうし、俺はこれで帰ります」
気を使って言ったつもりがおばさんの表情は一瞬曇った。
「じゃあ、また今度うちに来た時はおいしいスイカでも用意しておくわ。いつでもいらっしゃい。」
「ありがとうございます」
俺は愛想笑いを浮かべて、感謝の気持ちを述べた。
「気をつけてね」
「ありがとうございます。サチによろしく伝えてください」
「分かったわ」
おばさんも笑顔で自転車にまたがった俺を見送ってくれた。
じゃあね、といったおばさんは家の中に帰って行った。
俺はこの時気付かなかった。
女の子が助けを求めて叫んでいたことを。




