四章
夏休みというものは退屈で、宿題と家事とバイトに追われる日々。
クーラーのきいた図書館にはほとんど人がいない。
古い本が多い歴史ある図書館なのだが最近の本はあまり置いてない。
もっと新しい本でも入れればいいのにと思うが俺はこの静けさが気に入っている。
「あ、いっちゃん。勉強してるんだ、すごいね」
「お前こそこんなところで何してんの」
こんな古い図書館に似合わない清楚で高そうな長袖のワンピースを着ていた。
「隣、座ってもいいかな」
「どうぞ」
サチは汗をぬぐいながら俺の隣の席に座った。
「自転車でここまで来るのって結構大変だよね」
「俺はそうでもないけど」
「やっぱり男の子は違うな」
くすくす笑うサチの額から汗が伝う。
それを拭きとろうとしたとき額に生々しい傷跡が見えた。
「サチ、それまだなくならないんだな」
「えっ、ああ、そうなの」
サチが小学生の時、サチの家の前の道路で大きな事故に遭った。
そのせいでしばらく学校に来れていない時期があって、
相当な大変な事故だったのかとみんなで話していた。
それでもサチは何食わぬ顔で学校に来た。
みんなが驚いて心配したと話したらぎこちない笑顔でごめんね、と
今までと少し変わってしまったサチを目の当たりにした。
俺はそれを未だに鮮明に覚えている。
「あっ、勉強の邪魔してごめんね。私もここで勉強しようかと思ってきたの」
「そうなんだ」
「でも先に本を借りてくるね」
そういってサチは荷物を置いて本棚の方に向かった。
俺は見てしまった。
サチが立ちあがった瞬間、スカートが少し引っかかってひらりと捲れ上がった。
白くて細い太ももと、そこに浮かび上がる、痣。
新しいものもあれば古いものもあった。
一瞬しか見えなかったがどこかにぶつけたとかそういう量ではなかった。
見えない位置に痣があるということは怪我をさせた本人は相当やり慣れている。
今日長袖を着ている理由もそうなのではないか、
もっとたくさんの痣があるのではないか、と様々な憶測が頭の中を縦横無尽に駆ける。
「ただいま」
「うわっ」
サチがいつの間にか隣の席に着いていて、本をかばんにしまっている。
なにやら難しそうな本だった。
「全然進んでないじゃん」
「か、考え事してて」
「へえ、そっか」
サチは勉強道具を広げて数学の宿題に取りかかった。
俺も数学をやっていたが、さっきまで楽々と解いていた問題が永遠に解けないような問題に見えてきた。その代わりに新しい問題が脳裏に浮かぶ。
「うう」
「いっちゃん、どうしたの」
サチがぐっと顔を近づける。
「何にもない。俺、もうすぐバイトの時間だから帰る」
「あ、そうなんだ。じゃあね」
少し悲しそうなサチを後に冷たくて涼しい図書館を出た。




