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彼女  作者: さな
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一章

梅雨が明けようとしている。

まだ外はジメジメとして、蒸し暑い。

教室の窓から見える空には暗雲が立ち込めていて今にも降り出しそうな空模様になっていた。

俺は夏は変化の季節だと思っている。

あるクラスメートは部活のおかげで真っ黒になって登校して来たり、

彼女ができたと自慢されたり、みんながみんな夏休みを充実して少し大人になって登校してくる。

「雨、降って来たね」

「えっ」

いきなり話しかけてきたのは同じ団地に住んでいる女の子、サチだ。

「いっちゃん、傘持ってきた?」

「傘持ってきた」

「そっか」

付き合っているわけではない。俺たちに地域からこの高校に入学したのがたまたま俺とサチだけだったのだ。

サチが立ち去ると友人が近づいてきた。


「コウイチはまたC組のマドンナとお話ですかぁ」

「ハヤト」


こいつはこのクラスのマドンナ的存在でもあるサチに好意を寄せているらしい。


「いっちゃんはぁ傘持ってきたのぉ?」

「そんな話し方じゃなかっただろ」


ハヤトは二年生になってから仲良くなった友人だ。

同じ漫画を読んでいたり、同じゲームをやっていたりとすぐに意気投合したのだ。

本人から聞いた話だが最初はサチに近づくために友達になるつもりだったが、

案外話があってしまい、正直困惑した、と。


「ほら、もう帰るぞ」

「いっちゃんは傘持って来たもんなぁ」

「その呼び方やめろ」


雨が降り出したようで廊下の窓に雨がざあざあ打ちつけていた。


「コウイチもうすぐ夏休みだけどどっか遊びに行ったりしないの、サチちゃんとぉ」

「行く訳ないだろ、ただ同じ団地ってだけだし」


呆れた顔をした俺の背中をハヤトはバシッと叩いた。


「高校ニ年の夏だし、何が起こるか分からないぞぉ」


ニヤニヤ笑う隼人の背中を俺はバシッと叩き返した。ハヤトは笑顔を浮かべた。


「なんだよ、気持ち悪いな」

「そこ。そこ見てみろよ」


ハヤトが指をさした先には、玄関前で困ったように立ち尽くすサチの姿だった。


「サチちゃん、どうしたのぉ」


ハヤトが我先にとサチに話しかけた。


「いや、あの」


明らかに困っている。

サチは少し人見知りなところがあり、

俺も小学校の時は挨拶くらいにしかしてくれなかったのを覚えている。


「サチ、もしかして傘がないのか」

「うん、分かりやすいようにいっちゃんの傘の隣に入れておいたはずなんだけど」


俺の傘の隣には若干の隙間があり、

いっぱいになった傘立てから引き抜いたせいで俺やその周りの傘が少し持ち上がっていた。


「俺の傘大きいからさぁ、もしよかったら送って行こうか?」


ハヤトが大胆な行動に出た。


「いや、でも、ハヤトくん、家、逆だし」


サチのこういうところはいつも可愛らしく見えて、思わずクスッと笑ってしまった。


「今いっちゃん笑ったね」


サチも思わず笑顔になった。

するとハヤトは大きなため息をついて傘を開いた。


「俺、用事思い出した。じゃあね」


雨が降りしきる中、ハヤトは走っていってしまった。


「私ハヤトくんの話し方にどうも慣れなくて」

「語尾を伸ばして話す話し方か」

「そう」


雨は止む気配がなく、ただ時間だけが流れていく。


「サチ、俺が送ろうか」

「いいの?」


サチは待ってました、と言わんばかりの顔で俺を見た。


「ああ、いいよ」


俺は傘を広げて手招きした。

するとサチが何か言った。

聞き返そうか迷ったが、やめた。

サチが濡れないように気をつけながら傘を持って歩き始めた。

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