第五話「魔物討伐」
俺とフィリアは協力して墓地の周辺に巣食うスライムを狩り続けた。俺がウィンドの魔法でスライムの注意を引き、フィリアが後方からファイアの魔法を放つ。やはりドラゴンの杖は炎を制御する力があるのだろうか、フィリアは瞬く間に自分の意思で炎を操れるようになった。
元々、破壊の精霊は攻撃魔法に特化した精霊。通常の人間よりも遥かに速い速度で攻撃魔法を習得する事が出来る。それにしても彼女の魔法に対する才能は驚異的だ。素早く動き回るスライムに対しても的確に炎を放つ事が出来る。俺とフィリアはスライムを全て討伐すると、ついに墓地の中に入る事にした。
朽ち果てた墓石が並ぶ静かな墓地には、体に雪を纏う美しい狼が居た。あれがスノウウルフか……。属性的には火属性のフィリアが居るのだからこちらの方が有利だが、フィリアはまだ魔法を習得したばかりだ。ここは俺が率先してスノウウルフを狩る必要がある。
支配者の魔剣を使おう……俺は背中に掛けていた魔剣を抜いた。魔剣に魔力を注ぐと、剣を包み込む様に風のエンチャントが掛かった。エンチャントが発生した瞬間、重い剣はまるで羽根の様に軽くなった。
「フィリア。俺がスノウウルフの注意を引くから、後方からファイアの魔法で援護してくれるかい?」
「上手く出来るか分からないよ……」
「大丈夫。フィリアはもう既にファイアの魔法をマスターしているよ。だから俺は君に背中を任せる」
「頑張ってみるね」
フィリアは不安そうな表情で俺を見つめた。この子は自分の魔法能力の高さに気がついていないだろう。驚異的な速度で新たな魔法を身に着けたのだからな。頼もしい仲間が出来て心から幸せを感じる。もう一人で戦う必要は無いんだ……。
魔剣を両手で構えて墓地に特攻した。スノウウルフの群れが、一瞬で俺を取り囲んだ。敵の数は十体以上だろうか。スノウウルフは警戒する様に距離を取っている。こう数が多いと全ての敵の動きを把握する事は不可能だ。
しかし、俺にはフィリアが居る。剣にありったけの魔力を込めて、スノウウルフに切りかかった。エンチャントによって大幅に攻撃速度が強化されている魔剣は、スノウウルフの体を一撃で切り裂いた。速度だけではなく、風の魔力によって威力まで強化されているのだろう。これは戦いやすいな……。
次々と襲い掛かってくるスノウウルフを魔剣で薙ぎ払う。いくら倒してもどこからともなく援軍が現れる。これではキリがないな。
フィリアの炎が一体のスノウウルフを燃やした。炎はスノウウルフの体に纏わりつくように燃え上がると、スノウウルフは慌てて逃げ出した。俺はその一瞬を見逃さなかった。瞬時に距離を詰め、魔力を込めた突きを放つ。
スノウウルフの体を貫くと、俺の魔剣にはフィリアの炎が混じり、辺りに強い炎の風が吹いた。まるでファイアストームが劣化した様な魔法だ。俺自身の風にフィリアの炎が混じっている。
剣に纏わりつくように燃える炎を、スノウウルフの群れ放つと、炎は複数のスノウウルフを巻き込んで燃え上がった。驚異的な威力だ……。
それから俺とフィリアは次々とスノウウルフを狩り続けた。フィリアが遠距離から炎を飛ばし、俺がスノウウルフを切り裂く。俺とフィリアの相性は抜群だった。フィリアの強力な炎はスノウウルフをいとも簡単に退けられるのだからな。
しばらく戦いを続けると、俺達はついに全てのスノウウルフを狩り尽くした。ギルドカードで討伐数を確認して見ると、そこには驚異的な数字が表示されていた。
「討伐数五十八体……俺達、いつの間にこんなに倒していたんだろう?」
「分からないわ。戦いに夢中だったから」
「フィリア。俺を助けてくれてありがとう。戦いやすかったよ」
「どういたしまして」
「戦利品を回収したらギルドに戻ろうか。今日はたっぷり稼げたね」
「うん。戻ったら宿で食事をしましょうか」
俺とフィリアはスノウウルフの牙を集めた。スノウウルフの牙は冒険者ギルドで買い取って貰えるみたいだからな。それから俺達はスノウウルフが落とした魔石を二つ見つけた。どうやら氷属性の魔法石の様だ。小さな魔石の中では、まるで雪が降っているかのようだ。この魔石を使用すれば、スノウウルフの魔法が使用出来る様になるのだろう。
「スノウウィンドの魔法石ね。上位魔法にブリザードがあるわ」
「スノウウィンドか……今度練習してみようかな。そろそろハーフェンに戻ろうか」
「そうね」
無事に初めてのクエストを終えた俺達は、ハーフェンに向かって歩き始めた。支配者の装備の力もあり、簡単に敵を狩る事が出来た。次回からは更に難易度が高いクエストに挑戦しても良いかもしれないな。
「ユリウス。スノウウルフって随分弱いのね」
「多分……フィリアが強いんだと思うよ。次からはもう少し強い魔物を狩ろうか」
「冒険者として生きるって、なんだか楽しいわ。自分の力で魔物を狩ってお金を稼ぐ。どうしてもっと早く冒険者にならなかったのかしら」
「これから冒険者としてこの地域で生きていこう。あと一人か二人仲間が居れば更に効率良く魔物を狩れるんだけど」
「そうね……他にも精霊と契約してみるのはどう? 一人で複数の加護を受ける事も出来るし」
フィリア以外の精霊なんて、ハーフェンに居るのだろうか。町に戻ったら魔石屋で情報を集めてみようか。精霊の仲間を増やして強力な加護を集めれば、短期間で己を鍛える事が出来るだろう。まぁ、俺と契約をしたい精霊が居ればの話だが。
「ところで、フィリアは人間と契約をすると、魔力の成長速度が上がるんだよね?」
「ええ、そうよ」
「だけど今まで契約してきた人間は、フィリアから加護を授けると直ぐに魔石に封印した。契約者って、精霊が魔石に封印されていても加護の効果はあるの?」
「そうみたい。だけど精霊が他の人間と契約をしたら、前の契約者の加護が消える」
「魔石に精霊を封印し、精霊が他人の手に渡らないようにする契約者も居るという事か……」
「そういう事。多分、前の契約者は私の加護の力を制御出来なくて魔石を手放したのだと思う。破壊の加護は攻撃魔法の威力を上げ、習得速度を上昇させる。強すぎる力を制御出来ない人間も多かった」
極稀に自分自身の魔法によって命を落とす魔術師が居る。魔力を上昇させる特殊な魔法道具を全身に身に着け、火属性の魔法を使用した瞬間、魔力の器である体が炎に耐えられず、焼死するという珍事件があった。
「そろそろハーフェンだね」
「ええ、冒険者ギルドに向かいましょう」
しばらく森の中を歩くと、俺達はハーフェンに到着した。そのまま冒険者ギルドに直行し、クエストの報酬を頂く事にした。
冒険者ギルドに入ると、受付のグライナーさんが俺達に微笑んだ。帰還を待っていてくれたのだろう。
「冒険者ユリウス・ファッシュ、精霊フィリア。只今戻りました! スノウウルフの討伐、完了です。討伐数は五十八体。ギルドカードにてご確認をお願い致します」
「お待ちしておりました。それでは確認しますね」
グライナーさんはギルドカードの討伐数を確認すると、クエストの報酬を支払ってくれた。それからスノウウルフの牙の買い取りをお願いした。今日の稼ぎは合計で200ゴールドになった。一日でこれだけ稼げたのは運が良かった。
スノウウルフ狩りは稼げる。しかし、俺達は更に討伐の難易度が高い魔物を狩るつもりだ。今日は複数のスノウウルフを狩れたから大きく稼げたが、報酬の単価が低い魔物は数を多く狩らなければならない。遭遇する魔物の数が減れば報酬も大きく減ってしまう。
クエストボードを確認すると。一体討伐するだけで50ゴールド以上稼げる魔物も存在するようだ、勿論、ゴブリンロード程の高単価の魔物は少ない。一体の討伐で10ゴールド程度の魔物から挑戦してみよう。
「また明日クエストを受けに来ますね」
「はい。いつでもお待ちしております」
俺達はグライナーさんに別れを告げて、精霊の情報を探すために魔石屋に向かう事にした……。精霊の仲間を増やし、狩りを効率化して冒険者として成り上がろう。
「フィリアは将来の夢ってある……?」
「そうね……私は外の世界に居られればそれでいい。魔石の中はまるで夢が永遠と続くような感じ。体は眠っているのだけど、意識は永遠の時の中を彷徨い続ける……」
「……」
フィリアがもう二度と魔石の中に封印されない様に、俺が守らなければならないな。俺にフィリアを守る力はあるか分からないが。
「俺が君を守るよ。もう誰にも封印させたりはしない」
「ありがとう……ユリウス。一つお願いをしても良いかな?」
「ああ、何でも言ってくれよ。俺は君の契約者だ」
「なるべく多くの精霊の封印を解いてくれるかな? 精霊は人間を凌駕する力を持つ。全ての精霊が正しい心を持っている訳ではないけど、不当に封印されている精霊だって多く居るの。同じ精霊として救ってあげたい……」
「わかったよ。精霊の魔石を探そう。俺達で精霊のパーティーを作るんだ。魔石から精霊を召喚して最強のパーティーを作ろう!」
「うん!」
フィリアは満面の笑みを浮かべた。この笑顔を守らなければならない。精霊の魔石を探して封印を解き、俺達の仲間になって貰おう。将来俺がこの町に大きな屋敷を建て、仲間達と共に暮らせる環境を作るんだ。
魔石屋に向かうと、店の周りには人だかりが出来ていた。何かあったのだろうか? 人混みをかき分けて店に進むと、魔石屋の前には店主が血を流して倒れていた……。