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第三話「破壊の精霊」

 〈フィリア視点〉


 人間の両親から生まれた私が、自分自身が精霊だと気がついたのは十歳の時だった。両親と暮らしていた私の村に、魔物の群れが襲ってきたのだ。闇属性の下級悪魔、レッサーデーモンの群れが村を襲い、村人達の大半は命を落とした。


 魔法の心得があった私の両親は、村人達を守りながら懸命にも戦い続けたが、村を覆い尽くす程の魔物の群れには対抗出来なかった。私は家の中で死にゆく村人達を見ていた。


 幼い頃から何の訓練もせずに魔法が使えた私は、自分自身の強さを知っていた。しかし、自分の魔法を制御出来なかった。一度魔法を使えば全てを燃やし尽くしてしまう。それが私の魔法……。幼い頃に一度森の中で魔法を使った事があり、村の近くの森を全て燃やし尽くしてしまった。それから私は二度と魔法は使うまいと誓った。


 家から飛び出ると、両親がレッサーデーモンに殺されていた。私は怒り狂って自分の力を開放した。ファイアストーム。全てを燃やし尽くす制御不可能の力。


 村は瞬く間に燃え上がり、魔物の群れは消滅した。命からがら村から逃げ出した村人が数人。それ以外の生命は全て私の魔法によって燃え尽きた。私の力を目の当たりにした村人達は、私の事を悪魔と呼んだ。


「レッサーデーモンはお前が召喚したのではないか」

「見た事も無い炎の魔法で村を燃やし、人間を殺した」

「こんな力は精霊にしか使えない。お前は破壊の精霊に違いないと……」


 村を燃やし尽くす程の力を持つ精霊。私の加護を求めて、数多くの人間が私に近づいてきた。住む場所と食事を提供する代わりに加護を授けるという条件で、私は人間に加護を与えた。しかし、どの人間も私から加護を授かるや否や、私を魔石の中に封印した。


 封印から開放されたと思えば、また加護を与え、直ぐに封印される。外の世界で生きられる時間は短かった。その内私は時間の感覚も分からなくなり。人間を生きるための道具として扱う様になった。


 だけど……ユリウスは加護の存在すら知らず、私の事を命懸けで守ろうとしてくれた。私は久しぶりに人間を信じてみようと思った……。私はユリウスに口づけをして精霊の加護を与えた。精霊は人間の体の一部に口づけをすれば加護を与えられる。私は初めて唇と唇を重ね、加護を与えた。


 眠っている間に封印されるかもしれないという恐怖を感じ、私はすぐに目を覚ました。ソファで眠るユリウス顔を眺めながら、ゆっくりとこれからの人生について考え始めた……。



 〈ユリウス視点〉


「ユリウス……おはよう」

「おはよう、フィリア」


 目を覚ますと、俺の顔を覗き込むフィリアが居た。早くに目が覚めたのだろうか、退屈そうに俺を眺めている。近くで見れば見るほど美しいな……。雪のように白い肌に、朝日を浴びて輝く黒髪。やはりこの子は人間ではないのだろう……精霊とはこんなに美しい生き物なのか。


「どうしたの? そんなに見つめて」

「ああ、ごめんごめん……朝ごはんにしようか。パンとミルクで良いかな?」

「何でもいいわ。あなたが好きな物を持ってきて頂戴」

「わかったよ。直ぐに戻ってくるからね」


 お金を持って一階に降りると、酒場からは香ばしいパンの香りがした。


「やぁ、よく眠れたかね?」

「はい。お陰様で」

「パンはいかがかな? 一つ1ゴールドだよ」

「それでは、パンとミルクを頂けますか? 出来れば何か栄養がある肉も下さい」

「わかった」


 パンと魔物の肉、それからミルクを受け取り、部屋に戻る。朝から豪華な食事だな。綺麗な宿で快適な生活を送れるのも、フィリアがゴブリンロードを倒してくれたからだ。朝食を食べたら新しいドレスを買いに行こう。


「お待たせ」


 テーブルに朝食を置くと、フィリアは嬉しそうに食べ始めた。小さな手で大きなパンを持ち、齧り付く姿が可愛らしい。俺はフィリアが食べやすいように、魔物の肉を小さく切って差し出した。


「ありがとう」

「どういたしまして」


 それから俺と彼女はゆっくりと朝の一時を過ごした。フィリアはあまり寝付けなかったのか、目の下にはクマが出来ている。ベッドが寝づらかったのだろうか?


「フィリア。昨日は眠れなかったのかい?」

「うん……ちょっとね。久しぶりに外に出たからかな」

「そうか。今日はこれからドレスを買いにいこう。他にも必要な物はあるかな?」

「そうね……これから冒険者として生きるなら、私も動きやすい服が欲しいな。ドレスは……私が他の人間に買わせた物だからね」

「わかった。それじゃフィリアの新しい服と魔法の杖を買いに行こうか」

「杖?」

「ああ。杖があれば魔法を制御しやすいんじゃないかな」

「私の魔法は絶対に制御出来ないわ。使える場所も限られている。ファイアストームは全てを燃やし尽くす魔法」

「ファイアストームじゃなくても、何か威力の弱い魔法を練習してみたら良いんじゃないかな? 時間は沢山あるんだ。これから新しい魔法を覚えてみようよ」

「そんな事を言ったのはユリウスが初めてだわ……」


 フィリアは驚いた様な表情で俺を見つめた。ファイアストームは驚異的な破壊力の魔法だが、魔法を使う度に周囲を燃やし尽くす訳にはいかない。初歩的な魔法から習得すれば、彼女は自身の魔力を制御出来る様になるだろう。俺もせっかくゴブリンロードの魔法、ウィンドクロスを覚えたんだ。徹底的に魔法を学んで強くなろう。


 レベルとは魔力。魔力の強さは冒険者としての身分を現すものでもある。剣士は己の剣に魔力を込め、鍛錬を続ければ魔力が上昇する。魔術師は繰り返し魔法を使用して、己の魔力を強化する事が出来る。


 冒険者として名を上げるには、地域を守るために魔物を狩り続け、魔力を鍛えてレベルを上げる。レベルは身分だ。徹底的に鍛えて成り上がり、この美しい魔法都市に立派な家を建てる。それが俺の目標だ。


 俺はゴブリンロードが身に付けていた魔装を着る事にした。銀色の鎧に金の装飾が施されている。ひと目で高価な物だと分かる。支配者の魔装を身に纏うと、俺の体には心地の良い風の魔力が流れてきた。


 それからゴブリンロードの剣を持つ。確か武器の名称は支配者の魔剣だ。両手で構えて魔力を込めると、強烈な風の魔力が剣を包み込んだ。


「エンチャントか……」

「支配者の装備はユリウスと相性が良いみたいね。元々風属性に適性があったのかも」

「そうかもしれないね。俺も新しく風属性の魔法の練習を始めるよ」

「それはいいわ。私達、一から二人で練習しましょう」


 不思議な事に、魔装も魔剣も身に付けてみると非常に軽く、体に良く馴染む。魔装は俺の体に合わせてサイズが変化するのだろうか、大きさも完璧だ。魔剣はエンチャント状態の時は羽根のように軽い。形状は両手剣だが、片手で振る事も出来る。これは素晴らしい武器だな……。


「それじゃ出発しようか。まずは服を買おう」

「ええ。そうしましょう」


 俺はフィリアの小さな手を握ると、彼女は嬉しそうに俺を見上げた。初めて会った時は随分そっけない感じだったが、少しずつ俺に心を開いてくれているみたいだ。彼女は俺に破壊の加護を授けてくれたのだから、これから俺は彼女の人生を豊かにするために努力しよう。


 宿の主人に挨拶をしてから、朝のハーフェンの町に出る。魔物討伐に向かうのだろうか、冒険者達は朝から忙しそうに支度をしている。露店も数多く出ており、冒険者向けの保存食を扱う店も多い。


 ダンジョンに潜ったり、魔物討伐の旅を行う冒険者は、日持ちする食料を好む。俺も田舎の村を出た時は、堅焼きパンや乾燥肉等を大量に持ち、旅をしたものだ。時間が出来たらフィリアと共に旅をするのも良いかもしれないな。


「どの店が良いかな?」

「そうね……あそこに入ってみましょう」


 フィリアは嬉しそうに一軒の店を指差した。どうやら女性向けの服を取り扱う店の様だ。こういう店に入るのは初めてだな。店内に入ると、フィリアは直ぐに服を選び始めた。彼女はこれから魔術師を目指すのだろうか、魔術師向けのローブが展示されている場所で、鏡を見ながら楽しそうに服を選んでいる。


「このローブなんてどうかな?」


 フィリアが選んだのは深紅色のローブだ。フィリアの黒髪と良く似合い、ローブが彼女の美しさを引き立てていた。やはり俺は彼女に一目惚れしているのだろうか……。


「よく似合っているよ。そのローブにしよう。それから新しい靴も買った方が良いね」

「だけどこのローブ、ちょっと値が張るかも」


 俺達の会話を聞いていた女主人が近づいてきた。


「そのローブは魔力を上昇させる効果がある魔法道具だよ。お客さんは魔術師かい?」

「彼女はこれから魔法を学ぶんです。このローブはいくらですか?」

「200ゴールドだよ。高価なローブだからなかなか売れないんだ。今買ってくれたら靴もサービスするよ」

「本当ですか!? それではこのローブを買う事にします。フィリア、新しい靴を選ぼうか。森の中やダンジョンに入る事になるから、軽くて丈夫な物が良いね」

「うん!」


 フィリアは新しいローブが気に入ったのか、上機嫌で靴を選び始めた。軽くて動きやすい革のブーツを選ぶと、フィリアが元々履いていた靴とドレスを引き取って貰った。美しいドレスだったから、勿体無いと思ったのだが、フィリアは前の人間が買ってくれた物だから処分したいと言った。新たに人生を歩むという覚悟なのだろうか。


 代金を支払って店を出ると、次は杖を買いに行く事にした……。

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