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第十六話「早朝の鍛錬」

 早朝に起きると、俺は装備を整えて朝の狩りに出る事にした。フィリアを起こさないように部屋の扉を閉めると、アレックスが部屋の前で待っていた。


「おはよう、アレックス」

「いい朝だな、ユリウス。早速狩りに行こうか」

「今日もスノウウルフで良いかな?」

「そうだな。実はスノウウルフが巣食う墓地の近くにオークの砦があるんだが、落としに行ってみないか?」

「え? 砦を落とすって?」


 敵の砦を落とすのか。スノウウルフよりも強い敵と戦いたいと思っていたところだ。それにオークは人間を殺める悪質な魔物。オークに滅ぼされた村や町も多い。平均レベルは15程度だが、力が強く、武器を自在に扱う。


「敵の数は分かる?」

「多分、三十か三十五程度だろう」

「挑戦してみようか。オークの砦を落とそう」

「うむ。それでは出発しようか」


 宿の前で待機していたウィンドゴーレムにフィリアの警護を任せると、ユニコーンに飛び乗って町を出た。アレックスと共に朝の森を進む。砦は西口を出て墓地の方角に進んだ位置にあるらしい。


 アレックスはかなり足腰が強いのか、足場が悪い森の中でもユニコーンの移動速度に付いてきている。これがミノタウロスの身体能力か。


 暫く森を進むと俺達はオークの砦を発見した。木造の建物を木の柵で囲っており、見張り台が柵の近くに建っている。まるでゴブリンを巨大化させた様な悍ましい魔物が、弓を持って辺りを見渡している。身長は百八十センチ程だろうか、アレックス程ではないが筋肉が非常に発達しており、金属製の鎧を身に着けている。


「ユリウス。突入しよう」

「少し待ってくれ。まずは見張り台にいるオークを仕留める。それに、仲間を少し増やそうか」

「仲間を増やすって?」

「ああ、ゴーレムを作るよ」


 俺はスノウウィンドの魔法石からゴーレムを作る事にした。魔法石に地属性の魔力を込めると、体に雪を纏うスノウゴーレムが誕生した。手には石で作られたジャベリンとタワーシールドを持っている。


「これからオークの砦を落とす。スノウゴーレムはアレックスと共に付近の茂みで待機してくれ。俺がウィンドクロスの魔法で見張り台のオークを仕留めたら突入だ」


 スノウゴーレムに指示を出すと、彼は静かに頷いてアレックスと共に茂みの中で待機した。魔剣を抜いて風の魔力を込め、頭上高く持ち上げる。魔力を高めた状態で、見張り台に向けて振り下ろした。


「ウィンドクロス!」


 剣からは十字の風の刃が飛び出した。風の刃は見張り台を木っ端微塵に砕くと、襲撃に気が付いたオークの群れが砦から飛び出してきた。槍を構えた巨体のオークが三十体程、俺を警戒する様に取り囲んでいる。敵の数が多いな……もう一度ウィンドクロスを使用しよう。瞬時に魔剣を振り上げ、風の魔力を溜めてから振り下ろす。


 剣の先から発生した風の刃は、オークの群れをいとも簡単に吹き飛ばし、一度の攻撃で三体ものオークの命を奪った。やはりこの魔法は使い勝手が良い。せっかくだから風属性以外の魔法も使用してみよう。破壊の加護の効果で、攻撃魔法の習得速度と威力が上昇しているからな。


 複数の敵と交戦する状況ではイリスのソーンバインドが役に立つ。地面に手を付けて地属性の魔力を放出した。


「ソーンバインド!」


 魔法を唱えた瞬間、地面からは無数の茨が伸び、オークの足に絡みついた。オークの動きを完全に封じる力は無いが、今の攻撃でオーク達に大きな隙きが出来た。


 瞬間、アレックスとスノウゴーレムが飛び出した。アレックスは両刃の斧でオークを軽々と切り裂き、スノウゴーレムはジャベリンを投げ、オークの心臓を貫いた。アレックスとスノウゴーレムの戦いは圧巻だった。あまりにも獰猛な戦い方をするので、数体のオークが背中を向けて逃げ出した。


 俺は逃げるオークに対し、ソーンバインドで移動を阻害した。この際だからエルフリーデの魔法も使ってみようか。左手から氷の魔力を放出させて無数の針を作る。


「アイスニードル!」


 魔法を唱えた瞬間、無数の氷の針がオークの体を捉えた。威力は低いが、背後から魔法を撃たれた事が気に触ったのか、オークが振り返って武器を構えた。


 その時、スノウゴーレムがジャベリンを投げて敵を貫いた。ソーンバインドで移動を阻害しつつ、遠距離からウィンドクロスとアイスニードルを撃ちまくる。次々と魔法攻撃を放つ俺の間合いに近づく事も出来ず、オーク達は全滅した。


 戦いは俺達の圧倒的勝利だった。戦いを終えたアレックスは、オークの防具を剥ぎ取り、武器を集めると、紐で縛ってまとめた。ハーフェンに持ち込んで売るつもりなのだろう。それから俺達は砦に入り、武器やお金を回収してから砦を破壊した。悪質な魔物が住み着くのを防ぐためだ。


 出番が終わったスノウゴーレムを小さく作り変えてポケットに入れた。サイズを自在に変えられるのは都合が良い。


「ハーフェンに戻ろうか」

「うむ。良い戦いが出来たな」

「ああ。冒険者として、人間を襲う魔物は放置して置けないからね。俺達の力で地域を守ろう」

「そうだな。俺もこれからハーフェンで暮らすんだ。町の人達を守る努力をしよう」


 朝の狩りを終えた俺達は、直ぐにハーフェンに戻り、冒険者ギルドでオークの砦を落とした事を報告する事にした。


「おはようございます。冒険者のユリウス・ファッシュです。魔物討伐の報告に参りました」

「おはようございます、ファッシュ様。どの様な魔物を討伐されましたか?」

「ハーフェンの西の墓地付近に生息していたオークを三十体討伐しました」

「ハーフェンの西……? するとオークの砦でしょうか?」

「はい。オークの砦を落としてきました」

「本当ですか! お二人でオークの砦を落としてしまうとは……流石ゴブリンロードとドラゴンの討伐者ですね」


 受付の男性は嬉しそうに喜ぶと、ギルドカードを確認した。


「オークが三十体。討伐報酬は一体につき4ゴールドなので、120ゴールドのお渡しです。しかし、たった二人でオークの砦を攻略してしまうとは……実は明日、オークの砦を攻略するために、冒険者達を集めようと思っていたんです。七人の冒険者を送って砦を落とす予定でしたが、手間が省けました。これは冒険者ギルドからの感謝の気持ちです」


 と言うと、職員の男性は大きな木箱をカウンターの上に置いた。木箱にはマナポーションが入っていた。魔力を回復させる飲料で、シュルスクという果実が原料になっている。マナポーションがあれば更に魔法の練習が出来るな。


 消費した魔力は時間の経過と共に自然回復するが、魔術師等は魔力の自然回復を待たずに、マナポーションを飲んで魔力を回復させる。その方が一日により多くの魔法の練習が出来るからだ。


 魔力は使えば使うほど強さを増す。体内の魔力を枯渇状態まで使用し、回復を繰り返す事により、魔力が強くなり、体内に溜められる魔力の総量も増す。仕組みは筋肉と同じだ。運動と回復を繰り返すごとに強さを増す。


「ありがとうございます!」

「いいえ。これからもハーフェンの町をお守り下さいね」

「分かりました。それでは失礼します」


 大量のマナポーションを頂いてから、俺達は戦利品を持って町の武具屋を回った。三十体分のオークの武具を売り捌くと、80ゴールドも稼ぐ事が出来た。朝の時間だけで200ゴールドも稼げるとは。今日は運が良い一日だ。


 それから宿に戻ると、一階の酒場ではイリスとエルフリーデが朝食を摂っていた。エルフリーデは俺の姿を見るや否や、すぐに駆け寄ってきて俺の手を握った。


「何か強い氷の魔力を感じる……もしかして新しい魔法を習得したの?」

「ああ。アイスニードルを覚えたよ。それからこの子も作ったんだ」


 ポケットから手乗りサイズのスノウゴーレムを出すと、エルフリーデは目を輝かせた。


「可愛い! これ、私が貰っても良い?」

「ああ、良いよ。スノウゴーレム、これからはエルフリーデを守ってくれるかい?」


 スノウゴーレムの頭を撫でながら尋ねると、彼は嬉しそうに微笑んでエルフリーデに頭を下げた。エルフリーデはスノウゴーレムを胸のポケットに仕舞うと、スノウゴーレムはポケットの中からエルフリーデを見上げた。


「もう、お姉ちゃんばっかり……」

「イリス、実はソーンバインドも覚えたんだよ。試しに魔法を唱えてみたら一発で使えたんだ」

「嘘……ソーンバインドが使えるの?」

「ああ。多分フィリアの破壊の加護のお陰で、習得速度が上昇しているからだと思う」

「そうだよね。一日でソーンバインドとアイスニードルを覚えるなんて、加護の力が無いと不可能だし。だけど嬉しいわ。地属性の魔法の使い手が増えたのだから!」


 イリスは嬉しそうに微笑むと、机の上にストーンゴーレムを置いた。エルフリーデもスノウゴーレムを置くと、ゴーレム同士仲良く朝食を食べ始めた。ゴーレムも食事をするんだな……。大きなパンを小さな手で持って齧り付いている。


「俺はフィリアを起こしてくるよ」

「うむ。俺も先に朝食を食べているからな」


 アレックスは朝から大量の料理を注文し、大皿には山盛りのステーキとパンが置かれている。筋肉を維持するためだろうか、大量の食事を美味しそうに頬張っている。


 部屋の前ではウィンドゴーレムが退屈そうに待っていた。俺はウィンドゴーレムに酒場で他のゴーレムと合流するように言うと、彼は静かに頷いてから持ち場を離れた。


 部屋に入ると下着姿のフィリアが居た。丁度着替えをしていたのだろうか、ピンクの下着を身に着けており、豊かな胸に釘付けになった。素晴らしいスタイルだな……。


「ユリウス……何を見ているの?」


 フィリアはゆっくりと俺に近づくと、俺の頬を強く叩いた。


「ユリウスは本当にいやらしいんだから……イリスともエルフリーデともベタベタして」

「ごめん……フィリア」

「まったく……私の契約者なのに。私だけの契約者だったのに……」

「え? 何か言った?」

「なんでもないわ。ユリウスの馬鹿……!」


 フィリアは恥ずかしそうに真紅のローブを着ると、彼女は俺に「髪を梳かして頂戴」と言った。女性の髪を梳かすなんて初めてだな。それに、脳裏にはフィリアの下着姿が浮かぶ。想像以上にスタイルが良いんだな……。


「いい気分だわ。サークレットを被せて頂戴」


 フィリアは銀のサークレットを俺に渡すと、俺はフィリアの小さな頭にサークレットを乗せた。宝石が散りばめられた豪華なサークレットで、フィリアの宝物なのだとか。


「ユリウス。また強くなったわね……新しい魔法の力を感じる」

「実は今の狩りでソーンバインドとアイスニードルを覚えたんだよ」

「火属性は練習したなかったの?」

「そうだね。まだしていないかな」

「私の契約者なのに……まったくユリウスったら。今日中に火属性の魔法を覚える事! わかった?」


 氷と地属性の魔法だけ習得した事が気に入らなかったのか、フィリアは頬をふくらませると、一人で部屋を出た。ファイアストームは魔力の消費量が多すぎるだろうし、使い勝手の良い火属性の魔法を習得できれば良いのだが。


 仲間と合流してから魔法石を扱う店に行ってみよう。そして今日はダンジョンの三階層を攻略する。食料や荷物を入れるための鞄を持つと、俺は直ぐに部屋を出た……。

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