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第十二話「精霊と冒険者」

「ミノタウロスを町に入れたい、という事ですね?」

「はい。今のままでは野生の魔物に見えてしまうので、何か良いアイディアは無いでしょうか?」

「ミノタウロス用に作られた物ではありませんが、体の大きな従魔のための装備なら、ギルドに在庫があった様な気がします。前任のギルドマスターが様々な魔物を育成していたので」

「本当ですか!?」

「ええ。少々お待ち下さい」


 職員の男性はギルドの倉庫に向かうと、防具が入った箱を持ってきてくれた。ハーフェンの冒険者ギルドの紋章が胸元に入っている全身装備だ。


「鋼鉄の全身装備です。冒険者ギルドの紋章も入っているので、衛兵に止められる事も無くハーフェンの町に入る事が出来るでしょう」

「しかし、俺みたいな駆け出しの冒険者が、ギルドの紋章入りの装備を頂いても良いんですか?」

「勿論ですよ。ファッシュ様はドラゴンの魔の手から町を守って下さいました。この防具を使用するに相応しい冒険者です。自信を持って従魔と共にこれからもハーフェンをお守り下さい。ギルドはファッシュ様のパーティーを全力でサポート致します」

「色々ありがとうございます! それでは装備を頂戴しますね」


 俺は職員の方から装備を受け取ると、すぐにアレックスの元に戻った。アレックスは新装備を喜んで受け取ると、すぐに着替えを始めた。鋼鉄製のメイル、フォールド、ガントレット、グリーヴの四点セットだった。全身に防具を装備すると、屈強な戦士の様に見える。


「似合ってるよ! アレックス!」

「ありがとう、ユリウス。これで俺も人間の町に入る事が出来るんだな」

「ああ。そうだ、スノウウルフ討伐の報酬を渡すよ」


 報酬をアレックスに差し出すと、彼は報酬を俺に返した。


「お金は別に必要ない。ユリウスが持っていてくれ」

「そうか……それなら、お金が必要な時はいつでも言ってくれよ。アレックスは俺の従魔だからな」

「うむ。それよりも俺は早く魔物と戦いたい」

「そうだね。それじゃ仲間達と合流したらクエストを受けようか。ハーフェンに入ろう」


 俺はアレックスとユニコーンを連れて町に入った。ユニコーンも何か新しい装備が欲しいのだろうか、つぶらな瞳で俺を見つめている。俺は市場でユニコーンの新たな鞍を購入した。ユニコーンは新しい鞍が気に入ったのか、上機嫌で町を歩いている。


 宿の前でユニコーンとアレックスを待たせると、ギルベルトさんが出てきた、やっとお酒を飲み終えたのだろうか。


「ユリウス。連れの魔物はミノタウロスか? 狩りに行くんじゃなかったのか?」

「狩りの最中にミノタウロスと知り合ったんです。俺のパーティーに入ってもらいました」

「まさか……ミノタウロスが人間のパーティーに入るなんて! ユリウスはこれまでのどの冒険者とも違う、何とも自由な冒険者だな」

「精霊もミノタウロスも、心が通じ合っているのなら種族は関係ないと思っていますよ」

「うむ。そうかもしれないな。どうも俺は飲みすぎた様だ。暫く休んでからギルドでクエストを受けるとしよう。それではまたな、ユリウス」

「はい! お気をつけて、ギルベルトさん」


 ギルベルトさんを見送ると俺は宿の部屋に戻った。フィリアとエルフリーデはまだ心地良さそうに眠っている。彼女達が起きる前にイリスを迎えに行こうか。魔石屋襲撃の疑いが晴れた頃だろう。


 守衛から居場所を聞いてイリスを迎えに行くと、イリスは嬉しそうに俺に抱きついた。


「迎えに来てくれたんだ! ユリウス!」

「ああ。おはよう、イリス。無事に開放されたんだね」

「ええ。これも全てユリウスのお陰よ。本当にありがとう」

「どういたしまして。さぁ、エルフリーデが待つ宿に戻ろうか」

「それは良いけど……ミノタウロス? もしかしてユリウスの仲間なの?」

「そうだよ。ミノタウロスのアレックス。俺の従魔になってもらったんだ」


 アレックスはイリスと握手を交わすと、二人は簡単に自己紹介をし、朝のハーフェンの町を見物しながら宿に戻った。


 部屋に戻ると、イリスは眠っているエルフリーデを起こした。エルフリーデは涙を流しながらイリスを抱きしめた。俺は気持ち良さそうに眠るフィリアを起こすと、彼女はいつも通り「パンとミルクを持ってきて頂戴」と俺に言った。


 三人のための朝食を用意し、部屋にアレックスを招いた。体が大きいアレックスは窮屈そうに床に座っている。まずは自己紹介をしなければならない。


「自己紹介をしようか。俺は冒険者のユリウス・ファッシュだ」

「私は破壊の精霊・フィリア。ユリウスと共に精霊を開放するために活動をしている」

「私は創造の精霊・イリス。地属性の魔法を操り、ゴーレムを作り出す事が出来る」

「どうも……私は守護の精霊・エルフリーデです。イリスの姉で、防御関係の魔法陣に特化した精霊です」

「俺はミノタウロス族のアレックスだ。ユリウスとは今朝知り合った。これからユリウスと共に冒険者として訓練を積む。俺の目標はミノタウロス族の戦士になる事だ」


 午前中は親睦を深めるために、一階の酒場に降りてお互いが使用出来る魔法や、得意な戦い方等を語り合った。イリスはパーティーに入る事も、共に暮らす事も快く受け入れた。アレックスはレベル35になるまでは俺達と共に暮らすと言ってくれた。


「さて、俺達の初めてのクエストを受けに行こうか。俺はいつかこの町に精霊と共に暮らせる家を建てるよ。そのためには資金が必要だ。それに冒険者として地域を守りながら暮らしたい。基本的にこれからは毎日クエストを受ける事になる」

「私とエルフリーデもユリウスの夢を応援するわ。精霊がこの町で自由に暮らせる未来が実現するように、皆で努力しましょう」


 イリスは俺の手を握って微笑んだ。素晴らしい仲間が増えて幸せを感じる。それから俺達は冒険者ギルドに戻る事にした。


 ギルドに戻ると、受付のグライナーさんが駆けつけて来た。嬉しそうにアレックスを見つめると、グライナーさんはアレックスと握手を交わした。


「私、ずっとミノタウロスにお会いしたかったんです!」

「そうなのか? 俺はユリウスの従魔、アレックスだ」

「私は冒険者ギルドのキャサリン・グライナーです!」

「ああ、よろしくな。キャサリン」

「はい! 宜しくお願いします。アレックス様」


 アレックスがグライナーさんに微笑むと、彼女は頬を赤らめて微笑んだ。ミノタウロスの事が好きなのだろうか? それとも、アレックスがタイプなのだろうか。


「ファッシュ様。今日はどの様な要件でお越しになったのですか?」

「実はクエストを受けようと思いまして。手頃な討伐クエストってありませんか?」

「そうですね。それでしたらダンジョンの攻略に挑戦するのはいかがですか? パーティーのメンバーも増えてきた事ですし、ダンジョン攻略にも挑戦出来ると思いますよ」

「ダンジョンですか……」

「ええ。ハーフェンからほど近い場所に、新米冒険者向けのダンジョンがあります。まぁ、ドラゴンとゴブリンロードの討伐者にはかなり易しいダンジョンかもしれませんが、魔物の数も多く、戦闘の訓練にもなりますし、ドロップアイテムにも十分期待出来るかと思います」


 仲間も増えた事だし、ダンジョンの攻略に挑戦するのも良いかもしれない。仲間達を養うためにもお金が必要だからな。


「ダンジョンの位置はハーフェンの南口から徒歩で約二時間。ダンジョンまでの地図をお渡ししますね」

「どうもありがとうございます。ところで、ダンジョンにはどの様な魔物が生息しているのですか?」

「詳細をお伝えしますね。一階層、二階層にはスライムやゴブリンが生息しており、三階層はリビングデッドやスケルトン等、アンデッド系の魔物の棲家になっております。四階層が最深層で、レベル15から20のドラゴニュートの巣になっています」

「ドラゴニュートですか?」

「ええ。人間と同じように武器を使用し、ダンジョンに侵入する冒険者を殺害する悪質な魔物です。殺害した人間の武器や防具を使用して戦闘を行いますが、レベル20程度のパーティーなら突破出来るでしょう」


 ところで、俺はまだメンバーのレベルを知らない。俺がレベル18、アレックスがレベル15。一番レベルが高いのはフィリアに違いないだろう。廃村を一撃で燃やし尽くす魔法の使い手だからな。


「宜しければ皆さんのレベルを一度計測しましょうか?」

「そうですね。お願いします」


 グライナーさんがカウンターに石版を置くと、イリスが両手を石版に向けて魔力を込めた。地属性の魔力が石版に流れると、石版には薄い文字が浮かんだ。


「創造の精霊・イリス様。レベルは25です」

「レベル25かぁ。もう少し高いと思ったんだけど」


 続いてエルフリーデが石版に魔力を込める。氷の魔力を放出させると、ギルド内の空気が一瞬で冷えた。空間全体に効果が及ぶ強力な魔法の使い手の様だ。


「守護の精霊・エルフリーデ様。レベル30です」


 イリスよりもエルフリーデの方が魔力は高いのか。ゴーレムを自在に操るイリスの方が魔力は高いと思っていたが。それからフィリアが杖を抜いて石版に魔力を込めた。爆発的な炎が石版に流れた瞬間、グライナーさんは愕然とした表情を浮かべた。


「破壊の精霊・フィリア様。レベル50。大精霊ですね……」

「大精霊……?」

「はい。レベル50以上の精霊には大精霊の称号が与えられます」


 グライナーさんがフィリアのレベルを口にした瞬間、冒険者達が賞賛の眼差しをフィリアに向けた。


「ドラゴンとゴブリンロードの討伐者のパーティーに大精霊が居るぞ!」

「ハーフェンの冒険者ギルドから大精霊が生まれたぞ!」

「確かギルドマスターってレベル48じゃなかったか? 新入りのメンバーがギルドマスターのレベルを上回るなんて……」


 ファイアストームは驚異的な威力の魔法だと思っていたが、まさかフィリアがレベル50を超える精霊だったとは。大精霊・フィリアか。道理で廃村を一撃で燃やし尽くせる訳だ。


 人間として何の能力も持たずに生まれた俺とは質が違う。だが、いつか俺はフィリアを超える高レベルの冒険者になってみせる。努力すれば必ず追いつけるはずだ。ダンジョン攻略のクエストを受けると、俺達は早速ダンジョンに向かって移動を始めた。

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