プロローグ
私の目の前に、私の婚約者と平民出身の少女が並んでいる。
周りにはたくさんの人が何事かと集まってきた。
ああ、やっぱりこうなってしまったか。
私は目をつむり、婚約者から言われる台詞を待った。
ここまで来たら諦めるしかない。
ただ、家族にだけは迷惑がかからないように配慮して貰わねば。
私は覚悟を決めた。
「エドウィーナ。君はアシュレイ嬢に対し数々の嫌がらせをしていたそうだな? その証拠がこれだ」
そう言って彼は一枚の紙を私に見せつけた。
そこに書かれていたのは、身に覚えがあるような、ないような、そんな内容だった。
うーん…絶対やってないとは言い切れない。
さて、どうしたものか。
「…なにも反論がない、と言うことは己れの罪を認めた、ということだな?」
「……………」
私は黙りこむ。
それを肯定と受け取った彼は、残念そうに私を見つめて呟く。
「君には、失望したぞ。君は私の婚約者として相応しくない。婚約を破棄させてもらう」
あぁ、ついにこの時がやってきてしまった。
彼の隣に佇む彼女を見ると、悲しげな表情を浮かべていた。
しかし、その表情はなにかを期待しているようにも見えた。
私は彼らから視線をそらし、一呼吸をおいて、答えた。
「……わかりましたわ。ですが、罪を受けるのはどうかわたくし一人だけに―――」
「どういうことですか、殿下! これでは話と違います!!」
ん? なんで、彼女が彼に向かって怒っているんだ?
私はそらした視線を彼らに戻すと、怒りで顔を真っ赤にしている彼女と、難しげに顔をしかめている彼の姿が私の目に写る。
「……おかしいな。ここではエドナから『わたくしを裏切るなんて良い度胸ね!』と言われて罵られるはずだったのに……計画が狂ったな」
「計画が狂ったな、じゃないですよ! 折角、私が協力して大掛かりな幻まで作ったのに!! これじゃあ私の働き損です! エドナ様から罵られるためにこんなに頑張ったのに」
「何を言うんだ。私だって頑張ったんだぞ? 人避けをしたり、現実感を出すために状況証拠を作ったり」
……ごめんなさい。
私、二人の会話についていけません。
「あの……殿下? これはいったいどういう……」
「エドナ、なんで罵ってくれないんだ!?」
「エドナ様、なんで罵ってくれないんですか!?」
婚約者とその想い人に詰め寄られる私。
どうしてこうなった。誰か、説明を。
説明をお願いします!!