第74話 ならそれを証明して見せろ
気がつくとそこは病院だった。
「えっ」
横には点滴台に輸血セット、周りはカーテンで区切られ、枕元にはボタンが。そのボタンに手を伸ばし押し込むと、どこかに繋がる。
『はいどうしましたか』
それは日本語だ、ここは日本なのか。もとの世界に戻ってきたのか。
『えっと目が覚めたんですけど』
『そうですか、ただいま担当のものがうかがいます』
『はい』
担当医が来るのを待つ、と言うかここはどこなのだ、そう思い当たりをうかがうと気づかなかったが枕元にはボタンの他にナイフも。ナイフもっ。
「ってここは」
「タナカさん起きたんですか」
「タナカやっと起きたの」
「………よかった」
リズ、イリア、メリベルが入ってくる。ここは異世界のようだ、いやそれは構わないのだがここはどこなのだろう。
「ここは野戦病院だ」
そして最後に入ってきたのはマイヤーだ。
「まあ内政系チートの産物だがそんなことはおいといて、タナカお前の冒険はここまでだ」
「えっ」
前半はどうでもいい、チート持ち何て言うのはどんな無茶なことでも出来る、と思っている。だが後半は何をいってるんだ。そう思いリズ達の方を見ると、なにか納得しているかのような顔つきをしている。
「といっても理解できないだろうが理由をいってやろう、入ってきてくれ」
そう言って更に白衣を着た女性が入ってくる。
「私は軍医のエレインです」
そう前置きすると話始める。
「まずタナカさんの容態ですが肋骨の複雑骨折に身体中至るところからの内出血、そしてもっともひどいのが腹部臓器に亀裂が発生してます」
「…………………………はぁ」
と言われるが理解しがたい。
「分かりやすく言いますと、死にかけ、いえむしろ死んでます」
「はぁっ」
理解は出来るようになったが理解できない。自分は死んでいるらしい。
「正確に言いますと、あなたが普通の人なら損傷後すぐにハイポーションを飲むなどで治癒できますが、あなたはポーションが効果を発揮しないのでもうタイムリミットが過ぎているので死んでいるはずなのですが」
そう言って体を見つめてくる、なにかを観察するような目付きだ。
「なんで生きてるんですか」
かなりひどい聞かれ方だ。だが理由ならひとつだけあるような気がする、それは常に装備しているスライムだ。あれが生命維持に一役買っているのだろう、むしろ生命維持を優先しているため戦闘行動を行えないのだろう。
「まあそれはいいです、あなたは治癒するまで絶対安静です」
「いや」
『タナカ聞け』
マイヤーが日本語で話しかけてくる。
『ここから先はチート持ちだけだ』
『なんでだよ』
『さっきの戦闘でユーリが死んだ』
『はぁっ』
チート持ちって死ぬのか、驚いたのはその事だ。
『といっても肉体的には無事だが精神的にだな』
『ああそういうこと』
『だからここからはチート対チートになるから、チートの持たないお前なんて』
「うっせぇっ」
体が痛むが起き上がる。
「タナカさん無理しないでください」
「アルフはどこだ」
「それは」
「どうせ先に行ったんだろ、だったら」
ベッドから。
「………行かせない」
起き上がれない、メリベルに押さえつけられる。
「………これ以上したらタナカが死んじゃう」
メリベルは力を入れている様子はないのに、体が動かない。
「どけよっ」
「………退けない」
「退けっていってんだろ」
声を荒らげる。
「………絶対に退けない」
「タナカ気持ちはわか」
「分かるわけない、あいつは自分にとってはじめての仲間なんだ、この世界で知り合ったはじめてのやつなだ、そんなやつを」
力をこめる。
「本当にいく気か」
「行くに決まってんだろ」
「ならそれを証明して見せろ」
そう言うとマイヤーは剣を抜き、って。ナイフを取り、降り下ろされる剣を受け止める。
「俺を倒して見せろ、タナカっ」




