第73話 ここで
嘘だろうとユーリが呟いたが、仕方ないのだ戦闘能力がほぼないに等しい自分にはこれしかって。
「ブーストっ」
横からの衝撃と金属音、そしてちらりと見える敵とマイヤーが斬り合っている様子。あそこまでやってなお生きていたのだ。とそんなことを思いながらどこかの茂みに頭から突っ込む。
「 」
なにかが口から漏れる。声にもならず音にもならないなにかだ。身体中が痛い。痛い、いたい、イタイ。どこか折れているかもしれない。こんなときどこどこが折れてやがるとか言えればかっこいいのかもしれないがそんな余裕はなく、そんなしょうもないことを考えることで痛みをまぎらわす事しかできない。目の前が赤い。もしかしたら頭から血が流れているのかもしれない。だがそんなことすらわからない。
「はははははははっひとり脱落ですか」
そんな痛みをこらえるなか、そんな声が聞こえてくる。あの吸血鬼の声だ。吸血鬼の声がすると言うことは近くにイリア達がいる。いるのだ。いるんだ。その思いを頭に思い浮かべる、痛みをその思いでまぎらわす、体を動かす活力にその思いを使う。重くなった右手を動かし、空になったマガジンを排出。左手で新しいマガジンを取り出す。体が痛む、視界は赤い。そこら中から様々な音が聞こえる。心臓の音がひどい。
「ですが後2人の内1人は仲間の行動に絶望してるみたいですね」
敵は誰かに伝えるように大きな声で話しかけてくる、多分もしかすると自分が生きていると知っているのかもしれない。それならまだチャンスはある。左手を動かし新しいマガジンを装填。そして無理矢理に新しい弾をチャンバーにこめ、発射できるようにする。
「残りの1人はそれを守りながら斬り合っているので、ご自慢の鎧がボロボロですよ」
体力的にも意識的にも最後のチャンスだ、これで仕留めきるしか活路はない。だから体を動かし、まだ生きてることを証明する。
「はははははははっやはりまだ生きてましたか」
やはりばれていた。ばれていたなら隙はある、隙しかない。そう思い込まなければならない。ならないのだ、生き残るためにも仲間のためにも。だから最後の力を振り絞り。
「ここでヴッ」
もうためらいはない、目の前に現れた敵の口に銃口を突っ込む、同じ手だ、これしか格上に勝つ手段はない。だからまたためらいなくぶっ放つために引き金を引いた。そしてそこで意識を失った。




