第53話 テイクオフ
何事もなく目を覚ましメリベルとリサさんが来るのを待つ。
「待ってて言われたけどどれくらい待てばいいのかしら」
「そう言えばイリア家族には」
「別にいいわよ、うちは放任だし」
「そうなんですか」
「ええ、と言うかリズのところだってそうじゃない」
「私の場合売られたから違うような」
「そうかもしれないわね」
「あとエレナの家族は」
エレナに関してはよくわからない、喋れず、奴隷商人に連れられていたのを助けただけなので、いつか余裕があるときに探してみようと思うのだがいかせん手がかりはないので放置している。更に言えばエレナも気にしている様子はないのでどうしようもない。
「まぁそこらは置いといてまずはメリベルだな」
「………ごめんお待たせ」
そう言ってメリベルがはい。
「デカっ」
「………だよね」
「なによそれ」
入ってきたメリベルは、そのメリベルより大きな鉄、と言うか銀色の塊を背負っている。
「これは私の新作よ」
「………試作型の複合兵器らしい」
「コンセプトは対吸血鬼、吸血鬼に効果的だと思われてる純銀を使用して、心臓に打ち込む杭、首を刈る刃物を組み合わせ、強度をあげ重量を下げるために魔術陣をそこら中に書き込んだ武器よ」
要は吸血鬼に効果的な、パイルバンカーだ。男のロマンとしては最高なのだが正直使いにくそうだ。
「正規重量は100kgオーバー、魔術の使用により使い手、と言うかメリベルが持てば鳥の羽より軽く、それ以外が持てば持ったものを爆殺するって言うチート兵器よ」
「むちゃくちゃだな」
「メリベルを危険なところにいかせるんだから、最高の装備を作ったわよ、それにいつも使ってる鎧だってカスタムして防御力を最大限まで高めたから、柔肌ひとつ傷付けることはないわ」
何やらとんでもないことになっていそうだった。
「本当ならこれ以外にも吸血鬼に効果がありそうな兵器を作りたかったんだけど、ちょっと他のも作っててね、と言うわけでタナカくんこっち」
「えっと」
「大丈夫、たぶん死なないから」
「えっ」
何て言ったんだろう、死なないからっていっているような気がする、と言うか死なないからの前にたぶんってことは。
「これね」
気付いたら屋上にいた、目の前には天高く、と言うほど高くはないが人1人が余裕で挟まれるくらいの鉄の棒2本とその棒に挟まった鉄の板、そしてそれを支える台。台は360゜自由に動けき、鉄の棒は角度を変えられるようで。
「物資運送用のレールガン擬きよ」
「………………」
「これであなたを目的地まで飛ばすわ、他の4人は普通に転送用の魔術陣を使うけど」
「危険性は」
「まず発射時に鉄の棒に大量の魔力を流し込むから、魔力の暴走に、発射時の衝撃、最後に着地だけどそれはパラシュートがあるわ」
「いや」
「安心していつも送ってるものは壊れたりしていないから」
「人は」
「送る機会何てあると思う」
「いや」
「そろそろ悲しいけどメリベルたちが転送される頃かしら、これじゃないと追い付けないわよ」
これは殺しに来てるのではないだろうか。
「他に手段は」
「ないわね」
「……………………………のり……………ます」
「そうならこれ背負って」
そう言って手渡されたのはリュックに入ったパラシュートだ、そのリュックは特殊で体を固定するところが何ヵ所もあった。それをつけて鉄の板に乗る。
「のった」
「はい」
それだけ言うと棒が傾き始める、発射準備中のようだ、すぐに止まる。
「向きよし角度よしシールドよし、チャージ開始」
その言葉と共に、鉄の棒がバチバチいい始める。そもそもこんなレールガン擬きで空を飛べるのだろうか、そう悩むがどうせ魔術なんてあるんだ何でもありだろう。そう思い直し、空を見据え。
「テイクオフ」




