第45話 それはその
転生者と叫ばれた後の行動は早かった、と言うか決着は一瞬だ。
「で転生者、それはなにかな」
「えっと投降します」
両手をあげる、勝ち目なんて元々ない。後頭部に杖先、銃で言うところの銃口を向けられているのだ、不審な動きをしたら頭が吹き飛ぶ。いや吹き飛ぶどころか消し飛ぶ可能性もあるような気がしなくもない。一応鎧は着ているが、学園を預かれるくらいの魔術師なのだ戦闘に長けているだろうから、吹き飛ばなくても負けている。
「そうか」
「武器捨てますね」
そう言ってあげた手を動かし、ナイフを床に放り投げる。近くにある武器はこれだけだ。
「で転生者君」
「タナカですが」
「いや転生者で十分だ、私から娘を盗っていくような奴なんてな」
ここで思うことは簡単だ、きっとめんどくさいことになりそうだと。
「そもそもなんだね君は、冒険者なんて不安定な職についてもし怪我をして冒険者をやめなければならなくなったら私の娘のヒモにでもなるきかね、それともこのメイドのようになにかできることがあるのかね」
「それはその」
元々いた世界では学生であり、仕事はアルバイトくらいな身としては反論できない。
「どうせ大金が欲しいからと冒険者になってみて、借金に追われやめるにやめられなくなり、それでも一攫千金を狙ってまたギルドに行くのだろう、得られるものなんて雀の涙、トータルにすればマイナスなくせに」
心にグサグサ刺さる。だがこれだけは言いたい、マイナスではないと。
「そもそも転生者になるなら、冒険者なんかではなく、その膨大な魔力やら知識やらを使って新たな発見をした方が稼げるのに、なぜあいつらは冒険者なんてしたがるのか、意味がわからない」
そこは憧れみたいなものだろう、と言うかそういった人の方は知られるが、研究職の転生者だってどこかにいるはずだ。リサさんとかだが。
「まあそんなことはどうでもいい、お前に娘を幸せに………………………………………………んっ」
急に黙る。杖先を恐れず、こっそりと後ろを向くとこちらを見ておらず、リズとエレナを見ている。
「きさま」
死を予期する、走馬灯が見える気がする。汗が流れ落ちるのがわかる。
「娘以外にも女を囲っているのかーーーーーーーー」
「ぐはぁっ」
殴られ、倒れる。天井を見ることはできず、馬乗りにされる。
「きさまなど死んでしまえ」
拳が降り下ろされる。何度も何度も殴られる。流体金属の鎧によって阻まれるが衝撃はきつい。横を見て助けを求めるが。リズとエレナは動けず、レリアさんはいい笑顔だ。助けは来ない。死ぬことはさすがに。
「こんな女を手込めにするようなクズ死んでしまえばいいな、なぁに証拠の隠滅は簡単だよ実験中の死にしてしまえばいい」
杖を押し付けられる。死を悟る。左手に何かが触れる、落としたナイフだ。一瞬ためらう、が自分の死、しかもこんなところで死にたくはない。だからナイフを。
「タナカ居なかったわよ」
手放し、死んだふりを開始した。




