第3話 魔王の討伐か
「はぁ」
ため息をつく。
「はぁ」
今日もギルドは静かだ。
「………はぁ」
魔王が復活したところでそんなに簡単に仕事が増えるわけでもなく、人も来るわけではない。
「アルフさんどこに行ったんでしょうかね」
「そうだよ急に消えるなんて」
「………ついでにお金もない」
そうなのだ、アルフが消えた。ついでにお金も消えた。全部ではないが大半が消えた。正確に言うと金貨の方ではなく証明書付きの宝石の方が。あれなら少ない量で高価になるためで、たぶんアルフが持って行ったのだろう。
「盗んだんですかね」
「さすがにそれはないといいな、一応手紙も残ってるんだし」
細かく言うなら手紙1つ残して消えた。
「その手紙にも借りた金は返すとしか書いてないんでしょ」
イリアの言うようにその一文が書かれてあるだけの手紙だが、一応証拠は証拠だ。
「後タナカさん武器のいくらかも消えてました」
「そっか」
この世界には剣も魔法も銃も普及している。そのなかで自分が愛用しているのが銃で、何丁かは自宅であるスラム街にある小さな家に置いてあったのを盗まれていた。これもたぶんアルフだろう。
「はぁ」
アルフはこの世界に来たばかりの自分をパーティーに誘い、共に戦ってきた仲間だ。だから武器を持ってかれても何も思わないのだがひとことぐらい何か言ってもいいのではないだろうかと言う思いがある。
「あのー皆さんどうかしたんですか」
「どうかってはぁ」
「ギルドの入り口付近でため息つかれますとそのぅ」
「はぁ」
「………タナカ家に戻ろう」
「そうね、エレナも待ってるんだし」
「後はアルフさんが見つかれば」
「アルフさんですか」
アルフと言う単語に反応したのか、ミーヤさんがそう答える。
「何か知ってるんですか」
「えぇ、アルフさんなら確か魔王討伐任務はないかって聞いてきたんですが、さすがにそこまではというとそのままどこかへと」
「魔王」
「討伐」
「………タナカ追うの」
「タナカさんどうしますか」
「魔王の討伐か」
そんなものは勇者とかに任せておきたい、どうせこの世界には勇者と呼ばれるようなチート持ちが何人かいるし、そもそも遠い。だけど仲間がなぜか行ったのだ。
「追いかけないとだめだよな」
「追いかけるたってどこに行くんですか」
「それだよな」
どこに追いかければいいのか情報がない。
「あのさ吸血鬼ってどこにいるの」
ひとまずはそこからだ。
「タナカいい、吸血鬼っていうのは見た目でほとんど判断できずに、味方の中に潜むから怖いの。それにそういうものが集団行動してるなら騎士団がすぐに処理されてるわ」
「そうなのか」
「………それに吸血鬼は不死らしいし」
「血を吸って眷属にするらしいですよタナカさん」
元の世界の吸血鬼と同じようだ。だがそれだと場所が分からない。
「つまり追いかけるためには情報か」
「………なら学園目指してみる」
「あそこには本が大量にあるけど、メリベルタナカを連れてどうやっていくのよ」
「………歩いて、それに路銀もないし」
「えっとどういうことだ」
「えっと簡単に言うと転送陣を使わずに、私たちの母校に行きます。けどお金がないんで護衛の仕事を引き受けながらね」
要するに護衛の仕事をしながら学園を目指す。と言う事だろう。
「………歩いては遠いから時間かかりる」
「まぁでもそこには情報があるんだろ」
「ある、と言うかあそこになかったらもうどこにも残ってないと思う」
「つまりは行くしかないのか」
アルフを見捨てれば別だが、さすがにそれはしたくない。と言うわけでアルフを追うために、魔王を探しに行くことになった。