第25話 潰す
「無傷だって」
「ああそうだ、だが俺が勝った場合は全員投降してもらおうか」
「こちらが勝った時の保証は」
「俺の命に誓ってやろう」
「タナカ乗るの」
「そうだな」
考える、正直に言うとこのまま戦っても赤字は確定だ。なぜなら依頼主から離れた上に銃弾、その他装備の消耗。それらの補充を考えるだけで金がかかる。ここまでぶっ放しているのでもうどうとでもなれという気もするが、だからと言って余計に金をかけるわけにはいかない。
「のる」
「本当に」
「本当に、乗るぞ」
「よしじゃあ男出てこい」
「ああ」
盗賊の親分が出てくるので、自分も前に出る。
「………タナカ剣は」
「こんな狭いところだと振れないよ」
洞窟は狭いのだ、剣なんか振れるわけがない。技術があれば別かもしれないが、そんなものはない。なのでナイフを右手に逆手持ちで構える。ボクサーのように左腕を前に顔の前で構え、戦闘用意は完了だ。
「ナイフで勝とうってか」
「剣は得意じゃなくて」
「はっぁ」
親方の武器は大型の両手剣、腰に短剣2本。両手剣は振れないと思うので、多分突き立ててくるだろう。それのすきを突く。というか勝つにはそれしか手段がない。
「決闘開始はこのコインが落ちたらだ」
「ああ」
「ほらよ」
親方がコインを放つ、勝負は一瞬。こんなところで死ぬ気はない。コインが宙を舞う。やったことはないが、頭の中では自分がどうすればいいかの動きが思い浮かばれる。コインが地面に落ちる。
「死ね」
親方が両手剣を突き立てようと突っ込んでくる。だからそれを。
「これで」
左手で手元をはじき、その反動で回転。半回転したのちに首元にナイフを。
「どうだ」
突き立てず、投降を求める。
「投降しろ」
「投降を求めるなら」
そういって親方は両手剣から手を放し。
「やらせるかよ」
人の弱点でもあるらしい、足の甲を強く踏みつける。
「まだ」
ひるんだすきに体制を建て直し、男の急所を。膝で。
潰す。
「………………」
「………………」
親方は声にならない悲鳴を上げ、やった自分も想像して、無言になる。だがこれで一撃だろう。あれに耐えられる男はそうそういない。というか男同士のけんかや戦いですら狙わない危険な個所だ。正直狙う気はなかったのだが、一撃で倒すためにはしかたない。
「タナカさん無事ですか」
「ああ」
「これで出てもいいわよね」
「………それともまだやる」
「一応勝ったんで出て行きますね、じゃあ、お大事に」
というわけで、睨まれながら洞窟を後にすることができた。いやな感触が残ったが。




