the battlefield ~戦場~3
午後三時過ぎ、朝の日本の奇襲から間もなく六時間が過ぎようとしていた。
ロサンゼルスにいた日本人部隊はアメリカンな、ウソから出た真なサムライ軍団によって、散り散りとなり、散り散りとなりつつも、一太刀でまとめて散っていった。
この世界で敗北感は圧倒的に不利になる。自分の能力が相手に劣ると感じた瞬間、たとえどんなに強い能力を持っていたとしても、相手の能力を強い、と感じる"想い”をひとたび持ってしまえば、その能力が反映される。つまり相手の能力が発揮されることになる。逆に、相手をとるに足らないと思い続ける限り、理論上はすべての能力を防ぐことが可能になる。
廃墟と化したロサンゼルスで、とりあえず休憩するサムライ。休憩、という言い方が正しいかどうかは分からない。なぜなら、彼らは来るべき日本軍、第二団を待ち構えているからだ。
そのまま日本に突撃してもよかったが、そこに移動するにはけっこうな脳の力を遣うので、あちらから来てくれるなら、待機しているに越したことはない。
ゲームの中だとは言え、正午を過ぎ、日差しが強いので廃墟の影に入って、ひとまず休む。
「北側でニンジャ部隊がやられたらしいぜ」
がれきに腰掛けて眼を閉じ精神を統一するケンに、エリックは喋りかけた。
「......」
ケンは黙っていた。エリックはバックから葉巻を取り出して吸い始める。
「おいおい無視かよ。お前と同じような境遇で、そうとうに強い軍団で有名だったんだぜ。...なあ、おいなんとか言えよ、起きてんだろ」
エリックがふいにケンの顔に煙を吹きかける。ピクリ、とケンの眉が動く。
「ほらな、ったく、コミュニケーションとるときは相手の顔見て喋ろうね、ってままに習わなかったのかよ。」
あーうるさいうるさい。
「人と喋るときは、そうしろとは習ったな」
仕方なしにケンが応じる。
「俺以上に人と呼べる人がいて?世界中の人を代表するなら、もちろんおれだぜ?」
そう自信満々に言える時点で人並み以上の自信を持ってしまっている気がするが...
「そうだな。貴君みたいにすばらしいものはぜひ宇宙人にでもさらわれて、人間として標本にされるのがふさわしい」
「は?何言ってんの宇宙人とかいるわけないじゃん」
「......」
「サムライって不思議ちゃんなんだね。そんなこと言ってると...」
「ニンジャがどうしたって!」
話題がそれにそれたことにいらだち、サムライが訊ねる
「いやニンジャが、最初は圧勝だったらしいんだけどよ、なーーんか最後の一体にぜんめつさせられたらしいってゆうか、最後の一体も倒したんだけど、道連れにされたらしいっていうか」
エリックは謝罪なく、そのまま喋る。
「どういうことだ?」
「嫌よくわかんねーんだけど、ブラックホールがでたらしい」
「なるほど、ブラックホールじゃ解明できないないな」
「いや、そういうことじゃねーけど、それでいいんじゃね」
その辺は二人して自分の能力に自信があるので、たとえ相手がどんなであろうと、負ける気がしない。負ける気がしないので、そこまで相手に能力を完璧に把握しようとまではしていない。
なんだかんだと二人で会話していると一人の男が物陰から姿を現したのをケンは目にした。大剣を背負っている...少し小柄で...あんなやつ部隊にいたか?
そこまで考えた時だった。次の瞬間には男の大剣は風を切り、ケンに襲いかかっていた。間一髪のところでケンは攻撃を持ち前の小刀で防いだ。だが...
「エリック...」
衝撃だった。エリックはとっくに背後の男の存在に気付いていたと思っていた。けれど、もうすでに大剣はエリックの右肩から腹辺りまで切り裂かれていた。男は二人を同時に始末しようとしたのだろう、そこから突きに変わる。だが、ケンは間一髪で懐の小刀で大剣の攻撃を抑え、軌道をずらす。
腹に刀が突き刺さったままのエリックは血を吐きだした。このゲームでは一定の身体の痛みをプレイヤーに記録されると、そのまま死亡判定となり、消滅する。エリックが消えるのも時間の問題と思われた。
「っつったく、不意打ちに気付かないなんておれも終わってんなあ。でもよお、おい、ママに卑怯なことをするなって教わんなかったのかよ、おい」
息も絶え絶えにエリックがそう発する。
「親が言っていることは全部正しいのかよ、馬鹿らしい」
男はそう言い捨て、気に触ったのか、大剣を左右に揺らす。エリックが短い悲鳴を上げる。
「...名乗れ」
ケンが聞くと、男は軽く笑った。
「いいね侍さん、西向くサムライってか。まあ、別に意味はないけど...僕の名前は」
エリックの身体が死に際の光に包まれる。
「爪。中二騎士団隊長」
次の瞬間エリックは消滅し、ケンの小刀は砕け散った...