the battlefield ~戦場~,
~アメリカ本部~
「ロサンゼルスプレイヤーおよそ一千万人全員消滅!!アリゾナ、ネバダ州、およびその他西海岸の地域も警戒されたし!!」
けたたましく鳴る警報機とともに、あわただしく放送が入る。
ばたばたと動きまわる職員、中継にくぎ付けになる人たち、そんな中、壁に寄り掛かっている二人の男がいた。一人は西部劇風な身なりで煙草をふかし、もう一人は日本と戦争中だというのに、着物を着て星座をしていた。
「あ~あぁ、アメリカさまがガラにもなくうろたえちまってよぉ。たっく、しけるぜ」
エリックはそいって、煙を吐き出す。
「...いかにも」
「おれのこのマザファッカなSAAさえあればジャップどもの脳みそなんてないのも同然なのに、なあケン?」
「...いかにも」
ケン、と呼ばれた男は一言だけ発すると、ひたすら目の前の宙を見つめている。
「そんな風にかっこつけなくてもさあ、いいじゃん別に。サムライがみんな寡黙なサムライだったわけじゃないだろ。もっと気楽に行こうぜぇ?」
ケンはエリックのほうを険しい顔で振り向いた。そして口を動かして何か言おうとしたが、そこで、一人の職員が急いだ様子で声をかけてきたので、遮られる。
「至急な伝達です!」
「なんだぁ?戦闘命令か、この公僕が!」
エリックはそういって職員につかみかかったが、それどころではないらしく
「至急、ロサンゼルス郊外に行ってください、ケンさん」
「おれじゃないのかよ!」
「...うむ」
舌打ちをするエリックの横でスックと立ち上がるケン。身長は190はあるだろうか、でかい。
職員の隣をてくてくと二、三歩歩いたと思うと、すでにその場にケンの姿はなかった。
~ロサンゼルス~
「敵の姿なし!これより領土拡大に向かう!」
ゼロ戦の爆撃、大太朗法師の踏みつけ、落下傘部隊の残党狩りによって、すでにロサンゼルスは廃都市と化していた。
日本プレイヤーはこのとき三千の軍隊だった。一人一人がミリタリーオタク、ネトゲーの銃撃戦の猛者など、この戦争に先駆けるに値する先鋒集団である。もっとも一番の先頭は阿部晴明扮する大太郎法師だったが...
大太郎法師が道を切り開き、後ろを日本軍が追う。空中にはゼロ戦が待機。この戦法は圧倒的だ。ロサンゼルスを抜けるまで、そう時間がかからなかった。もちろん、小さな小競り合いはあったが、簡単に蹴散らし、ひたすら前に進む
ビルの廃材が地面になくなり、草原が見えたところでだ。多くの兵士は久しぶりの戦闘や、いつ襲われるかわからないことで、そうとうに精神を削っていたが、なんとかロサンゼルスは突破した。みな、よくやった、そろそろ休憩でもしようか、隊長がそう思った時だった。
突然、前方の大太郎法師が崩れ落ちた。足が消えていた。間髪いれず、首が落ちる。大きな頭が巨大な岩として日本軍を襲う。
...なんだ?!
隊長は一瞬震えが起きた。草原の向こう、すこし隆起したところにおよそ百人くらいだろうか、人が座っていた。先頭の男が、刀を抜いていた。刀は太陽の光に当たり、きらりと光る。そしてゆっくりと男の鞘に収まる。
アメ公の日本刀さばき如きで晴明さまが敗れるだと...!?
「ぜんたーーーーーーーい、打ち方ーーーーーーー」
隊長は即座に軍全体に号令をかける。一斉に弾を装填する音が響く。大太郎法師が一瞬で敗れたということは軍全体にとって大きい精神的支柱を失ったことになる。総崩れになる前になんとかしなければ...
日本軍は即座に銃を構える。エリートが集うだけあって、その動きは並みのものではない。
隊長が大きく息を吸う。そして
「はじめーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!
たった百人の相手に対し、千人ほどで一斉砲火をする。静けさがけし飛び、いちめんに銃声がこだまする。
五分は経っただろうか。唇の端をあげ、隊長はほくそ笑んだ。たしかに大太郎法師は、晴明さまは、打ち取られた。だが、あれは突然の出来事であったからだ。十分な準備さえ整っておれば、この軍隊が負けるわけが...!?
もうもうとあがる土煙の向こう側に、隊長は人影を見た。
隊長が目を凝らすと、はたして、そこには五人の男が立っていた。どれもが道着のようなものを着て、眼が鷹のように鋭い。彼らの周りには弾が散らばっていた。五人のうしろの男たちは、さきほどと変わらず、各々に坐している。
ば、ばかな......
「どうせ、ば、ばかな...とか思ってんだろ、日本のボスざるさんよお。馬鹿の一つ覚えとは、まさしくこのことだって」
すたすたと土煙のなか、こちらに向かって歩いて来るものがいた。
「た、隊長!?」
うろたえる部下に、隊長は無言で何もするな、と手で制す。
「エリック...」
ケンは勝手に動き出したエリックの肩をつかむ。
「いいんじゃんか、ケン。どうせ、あっちにいても暇だしよお。お前が出てきたら、この戦争、終わりじゃねえか」
「だが、しかし...」
「だが、しかしじゃねえんだよ。言い訳はするなって小学生の時に教わんなかったか?いいからおれにも出番をくれよ」
肩に乗っていたケンの腕をどけると、エリックは隊長のほうをむいた。
「マザファッカモンキー、ちょっといいか」
エリックは腰に差していた、二つのSAAをくるくると両手の人差し指にかけて回し、次第に曲芸技のようにSAAを手の上で回し始める。
「現実世界で、強いやつは力がある。この世界で強いやつは何を持っていると思う?脳の世界だからなあ、想う力だ。この隣のケンってやつはな、そりゃ強いぞお?」
そこで、SAAを回しながらケンのほうに手を伸ばす。
「なんせ、こいつはサムライにあこがれるがあまり、剣の道を極めたからな、リアルな世界で。だが、それだけじゃない、ケンの強さってやつは」
片一方のSAAを軽く上に投げ、その間にもうひとつのほうにマガジンを装填する。
「ケンはいぜん、日本に行ったことがあるんだけどよお。本物のサムライに会いに。だけどそこにサムライはいなかった。ケンは絶望したらしいぜ。その絶望は、サムライどころか、もうこの世界の剣豪という剣豪をねじ伏せるくらいのケンの想いに昇華されちまった。真のサムライ誕生ってやつだな。だがしかし」
そこでエリックは装填済みのほうを空高く投げる。
みな、その軌道を見ていた。
「ここをアメリカの西部だってことを忘れんなよ、おっさん。ここはおれら」
そこでSAAがエリックの手元に戻ってくる。と同時に一発。
「カウボーイのテリトリーだってことをな」
銃声があたりに響くと同時に、隊長の眉間から血があふれ出た。
隊長が消滅した後、日本軍は前方の弾切れを起こした兵士約千は白兵戦に、のこり二千はありったけの弾を打ち込むため、装填する
エリックは残った弾を日本刀に手をかけた日本兵に速攻で打ち込むと、さっそうともとの丘の位置まで戻った。
「あとはケンがやるでしょ」
そういってエリックはそのばに座りこむ。
鼻唄までも歌いかねないエリックをしり目で見つつ、ケンは柄に手をかける。
「...サムライ秘伝、唯愛切り...」
ケンが刀を横に振るだけだった。その単純な動作から生まれた衝撃で、三千の日本軍は皆、上半身と下半身を真っ二つに切断された。
ケンはだまって、今度は上空に向かって、軽く刀を振るう。隊長の無念をみたゼロ戦が一斉にケンに向かって突撃するのを、ケンは、一太刀ですべてを薙ぎ払った。
日本軍、全滅。この時点では、誰の目にも明らかだった...