動揺ノンストップ(5/19編集)
好きだって云う場所は、俺だって弁えていますから! けど、こんなに近くに居るのはすっごく辛いンです!
ゆーらゆーら揺られているのは、今ここが電車の中だからで。すっごく気だるいのは、これから大会に出なきゃ行けないからで。ひどく落ち着かないのは、隣に心理こと両想い続行中の恋人ちゃんが居るからだ。
午前七時を過ぎた電車は、通学と通勤のラッシュ真っ只中。俺ら、軽音楽部は重要な大会だから公欠扱いされて、今日は最寄りの駅は通過していっている。全員纏めて電車に乗ったにも関わらず、人の波に押されてバラバラになってしまった。ブルーハワイ女と昭和アイドル男が、左奥の方に押しやられたのは見えたものの、部長とかヴィクトリア女王(もちろんあだ名)とか、他の奴らはどこか知らない。
少なくとも、俺が頬を押し付けているのは、心理の肩口だ。しかも真正面から痛いくらいにくっ付いたそこからは、生憎痛みよりも熱さが出てきている。近くて、近くて。おっぱいとかおっぱいとか。すごくすごく……ヤバイ。人に押されて小さく呻く心理の吐息がヤバイ。向かい合ってくっついたシャツ越しの体温がヤバイ。何より俺自身が一番ヤバイ。
いっそ、このまま電車が停車すればいいのに。いや、あっという間に駅に付いてくれればいいのに。もうどっちが本音かわからないくらいに、俺の頭の中はパニックを起こしていた。何となく心理の手をぎゅっと握った。
「……大丈夫かい?」
心理のその気遣いは嬉しいけど。聞かないで。転ばないし、グラつかない。ただお前の声に、ただお前の体温に、理性が揺ら揺ら。こっちもくっついているけど、心理は全然意識していない模様。安心していいのか悲しむべきなのか迷う。全然大丈夫じゃない。声を出さないで。
そんな声が耳元を掠めるだけで俺の心臓とか、そういうのが限界を達しそうになる。息が触れれば弾け飛びそうになる。むしろ、弾けさせてあげたくなる。ああもう、これじゃあただの変態じゃねーか、彼女の膝裏を舐めたい系男子との同列は嫌すぎる。俺はもう耐えるしかない。
この手を、お前が痛がるくらい握り締めて、それだけで堪える。意識して耐えてないと、今すぐにでもあいつの唇を貪っちゃいそうで怖い。それであいつの怒るのも恐い。唇が切れて血を流しそうなくらい、俺は力をこめた。もし本当に唇から血が出てきたら、心理のぷにぷにの舌で舐めとってもらいたい。ふと、そんなことを考えていたら。 電車の揺れが大きくなったように感じて、自分は馬鹿だと思う。こんなに密着できてるのに、これじゃあ生き地獄だ!
とりあえず心理の、ふっくらとしてて、でもキュッと引き締まった、かわいいケツを狙ってきた馬鹿の腕は捻っておいた。