フェレット平原にて
帝国南部 帝国軍陣営
薄暗い幕舎の中、一人の男が地図を眺めている。数では圧倒している軍だが、相手は未知の軍団。皇帝陛下の信頼を得るためにも決して負けられない戦である。地形は平坦ではあるが所々に岩が点在している。騎馬隊の威力も半減する上、罠も張りやすい。相手の布陣も統制されていないのか雲のように形を変えていた。
事の始まりは国境争いが激化したことにあった。帝国軍は北部の侵攻作戦において人員をさいていたため、資源に乏しい南部のリリノイカは手薄になっていた。
「キルティス様。入ります。」
外から目のつり上がった男が入ってきた。
「リーデンバイトか…」
キルティスはこの男があまり信用出来なかった。この作戦で初めてキルティスの軍に配置された参謀だ。北部の警備軍でその手腕を振るっていたらしいがあまりいい噂は聞かない。なぜ父上がこの男を寄越したのか意図がわからなかった。
「なに用か、リーデンバイト」
「はっ。この度の戦、ちと策がございまして」
「リーデンバイト、この軍勢において策など要らん。こちらには訓練を受けた8万の兵士がいる。片や統制も取れぬ平民の集まりではないか」
「キルティス様。なぜ今までバラバラだった狩猟民族が団結して国境を越えようとしているのかお分かりかな?」
「なに?」
キルティスはリーデンバイトを睨み付けた。確かにリリノイカの軍団は動機も明らかでない。
「奴らの目的は明白。しかし厄介なことに奴らはそのことに気付いてはおりません」
「つまりは奴らは何者かに騙され我々と戦うことを選んだと言うのか?」