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My Remodeling  作者: 奏人
4/4

捻レ渦

「こりゃあ、何とも」

彼女の横に立てば、それは画面越しに見るより大きく感じる。

紫、黒、灰、白、ええと、青?

混ぜるとあまり良い色とは言えない系を混ぜた結果みたいな色をしている。

悍ましく渦を巻いた中心には、穴。


そう、穴。


「...ちょっと、行ってみてよ」

「なんで僕だよ。お前いけよ、頑丈だろ」

「嫌よ。悍ましい」

「僕も一緒さ」

言い合いつつも眼は逸らさない。

声も力が入っておらず、完全に目の前の現象へ心奪われたという感じ。

「ほら、いいことあるかもしれないわよ」

「いいこと起こる色には見えないね」

何が起こるのか知りたい、だが自分はやりたくない。

ほらなんかちょっと大きくなった気がする。

僕が一歩下がると彼女の脚も音を立てた。歩幅は彼女のほうが大きい。

「何僕より下がってんのさ」

「後ずさった行為に違いはないわ」

五十歩百歩。この前本で読んだ。

50歩逃げようが100歩逃げようが逃げたことには変わりない。


「どうするのこれ」

「話逸らしたのに戻すなよ」

すごく関わりたくないんだよ、これは。

さっきまではとても興奮していたがなんか正直嫌だ。逃げたい。また大きくなった。

僕の第六感はだいたい当たる。それにナノマシンでさらに強化された。


「これからされること、当ててやるよ。...捕まえに来るんだろ」

彼女に向けてではない。その、禍々しい渦に向かって。


僕と彼女が振り向き走り出すのと、渦がこちらへ移動するのはほぼ同時だった。

「私聞いてないわ! あれ動くの!?」

「僕も知らないさ!」

慌ただしい靴と金属音が駆ける廊下の後方を、音もなく滑るように真っ直ぐ渦が向かう。

「次の角を2手に別れよう!」

「嫌よ、私も行くわ!」

「安いメロドラマは御免だ!」


体内のナノマシンにより、スピードが増加している。

このまま曲がるのは危険だと判断した僕は、腕を鋭いピッケル型に変化させた。

コーナーに差し掛かり、壁が直角に曲がる所の床に突き刺す。ひびの入る音がして、小さな破片が飛び散った。この際施設の破損は気にする事なんて出来ない。

ピッケルの先を支点に、速度を落とさず曲がる。

彼女は...あー、壁走ってる。

曲がり切ると同時にピッケルを抜き、通常の腕に戻した。


さらに数十メートル直進したところで、後ろを見る。

そこには渦の影も何も無かった。

「消えた...? いや、知覚範囲から逃れたのか? どちらにしろ、とりあえずは逃れたな」

「ええ...私も故障を覚悟したのは久々よ...」

「故障で済むのかよ」

僕の場合は脳や記憶領域をサーバーにバックアップ、なんてことしてないから捕まったら只じゃすまない。そんな気がする。

まずは制御室に向かわねばなるまい。ログが残っているはずだ、二度とあんなのに出くわさないよう調べる必要がある。


「一番強固なシェルター...制御室だったかしら」

「ああ、そこに向かお...う...」


壁から、なんか出てる。

二度と見たくないものが出てる。

灰色の壁をすり抜けるように、真っ直ぐ滲み出てる。

標的は角度的に僕だ。

そりゃあ、先程のコーナー手前から直線距離は僕の方が近い。


だからって、すり抜けなくても。


「ちょっと...物理法則...」

「それ...言いたかった」

驚き困惑焦り絶望。激動する感情の最中で、何もできなかった。


近づく渦、腕に絡みつく。

ひんやりしている。まるで僕を侵食するように、次々と穴に吸い込まれる。


彼女に台詞を取られ、身動き一つも取れず、僕は無様に飲み込まれる。


床を金物が叩く音がした。いや、蹴る方が正しい。

もうすでに7割ほど飲み込まれた僕に向かって、彼女が突っ込んでくる。

まさか、こいつ!


「私も行くわ!」

「それ2度目!」




****



彼女は僕の、いや2人の生還率を下げた。

僕と彼女以外いないであろう世界にて、外部からアクセスする存在がいなくなったのだ。

言うなれば、誰もいない、帰ってこない家の一部屋に2人閉じ込められたようなもの。

もちろんその部屋から脱出出来るか否かについては話が別だが。


しかもここは部屋などではない。むしろ部屋ならどんなに良かったことか。

最初は環境がどうなっているのか、僕の周りがどうなっているのか分からなかった。


目の前は赤黒くて、丁度、俺を捕まえた渦のような色。顔や手足に当たる感覚は冷たく、あまり気持ちのいいものではなかった。

力を入れなくとも体が保持されている。拘束具などではなく、負荷は一切かかっていない。

試しに指を動かしてみる。伝わった感触で大体が把握できた。


これ、あれだ。ジェルだ。

以前彼女の"人間の皮膚はどれだけ水分を吸収するのか"という、ただの好奇心、そして僕でやらなくていい事ベスト5に入る実験で嫌というほど味わった。

彼女はドでかい水槽に入った水気を多く含むジェルの中に、あろうことか全裸の僕を投下した。

そして数日間放置した。

彼女のよくわからない技術で生きることは出来たが外見的に消えたくなった。体中ブクブクである。


取り敢えず考えているうちに分かったことが一つ。僕はどうやらうつ伏せに倒れているらしい。

本物かどうか知らない三半規管が告げていた。

いつまでも倒れているのも何だから起き上がることにした。

「う、お゛お゛お゛お゛」

このジェルは粘度が高いのかどれだけ力を入れても体がゆっくりとしか動かない。

それと床があることも分かった。

ジェルに打ち勝ち立ち上がるべく力を込めて床を押すと、小さな砂のような破片が手のひらにくい込む。

逆らえばずっしりと背中にのしかかる。ずずず、とジェルがずり落ちる音が響く。

着ている服には何故か濡れた箇所は見当たらない。乾いたジェル、これは不思議なものだ。


なんとか膝をつける高さにはなったが、何分ここまで結構な労力を要した。

自分の肉体を使わずしてどうする、馬鹿正直にやるより何倍も楽なことに気がついた。

「ああ、邪魔! 重い!」

まとわりつくジェルのウザったらしさと恐らく知らないであろう場所に連れてこられた不満が口をつく。

同時に片手を薄く、固くブレード状に変化させて周りのジェルを切り払う。

ビチャッと水音がして、幾分か体は軽くなった。音の響き具合を聞く限り、此処は小さめの個室。辺りに明かりはなく、何が有るのかは見えない。

立ち上がると残っていたジェルが手足を伝い落ちて行く。撫ぜるような冷たい感触が気分を悪くさせた。


「・・・! ・・・・・・・・! ・・・・・・・・・!」


え、え?

いきなり音がした。いや、音よりこれは声だ。人の、声。

なんて言っているかは分からない。えっと、これを、確か…そうだ、言語の壁って言うんだ。


ボッ、と空気に穴が空く様な音がして光源が現れた。小さいけどもこの部屋を明るくするのには十分なのか全貌が明らかになる。


僕の腰くらいの布の塊が5、6個転がっている。そして1番僕に近い物体は、布の色が違った。それだけじゃない、布の間から黒い糸束が伸びていて、おまけに白い細めのパイプも出てて、その先にさっきの光源がある。


…人だ。人だ人だ人だ人だ人だ人だ。

人がいる、僕が本やデータの中でしか知りえなかった人が、メイド・イン彼女でもない天然の人がいる。

そういえば彼女どこいった、もしや別々の場所に?


光源を持っている人の頭、と思われる場所が動き、顔が僕に向けられた。

目とか鼻とか口とかあるみたいだから顔でいいと思う。

「・・・・、・・・、・・・・・・・・・・」

また何かを喋った。

「な、何なのさ。わ、わかんないよ」

僕も一応と返してみるが口が引きつってうまく喋れない。

「?」

その人には通じなかったようで、首を傾げる。

いきなり、手、手でいいんだよな? が伸びてきた。

手のひらを差し出すように、にゅっと。

「な、なんだよ。こっち、来るな」

僕が後退りするとまた首を傾げ、さらに手を伸ばす。

「やめろ、来るな、来るな!」

足元のジェルに躓いて後ろに倒れる。

怖い、怖い、怖い。

僕を見つめるその瞳が、ざわつきだす奥の方とか、僕に向けられたその小さな手が、僕の知らないその存在が。

もう外に行きたいとか、人に会いたいとか言わないから、思わないから許して。


僕を早く帰してくれ!!







間が空きましたごめんなさい

やっと主人公をぶち込むことができました。

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