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My Remodeling  作者: 奏人
3/4

好奇心


使ってみればとてつもなく便利だった。


工具が必要なら手を変形させればいい。

手が届かなければ腕を長くすればいい。

危険なら腕を硬化して盾を作ればいい。


便利だ。便利すぎる。彼女の言ってたことを今初めて理解した。

「満足そうね」

「ああ、とてつもなく満足だよ」

彼女が半ば呆れたように吐息をつく。

「私の体の意味も分かってくれたかしら?」

「いいや全然」

特に足。その大きくもスマートな金属脚は全く理解できなかった。

「そう、残念」

そう呟いて彼女はずいと顔を僕に近づける。

可愛さなんて微塵も感じない、むしろ何かを掴んでいるような上目遣いで彼女は言う。

「貴方のデータはぐちゃぐちゃよ。止まらないのが不思議だわ」

「もうクレイドルには座ってないぞ」

「ナノマシンって便利よね」

まだ使っていたのか。それも、僕のデータを勝手に監視して。

「呼吸は飾り、心臓は不規則な鼓動、血流は自由自在に方向を変え、そして睡眠時には全ての活動が止まる。果たして貴方は生きているのかしら?」

「ここで君と話をしている。それが事実だ」

彼女が僕の胸に手を当てる。

視線を僕の胸、心臓の辺りに向けたまま、彼女は薄く笑った。


「ええ、そうね。貴方はここにいるわ。...気を付けなさいよ」



****



危うく睡眠カプセルの中で"死亡"と判断され冷凍保存プロセスが始まろうとしたので、左手でカプセルを突き破り、自室へ逃げ込む。冷凍溶液のチューブが接続された時は流石に生きた心地がしなかった。

今は割れたカプセルから液体が漏れ出している頃だろうか。片付けが面倒だな。


「お邪魔してるわ」

「どうして隠れてたんだよ。驚いたじゃないか」

大きめのロッカーの裏から彼女が姿を現す。椅子に深く座って一息ついたらこれだ。


「何やら慌てて入ってきたから。何かあるのかと思って」

「本当にそうだったら絶対覗き見してたろ」

「私達の間に隠すことなど何もないでしょう? 堂々と見るわよ」

彼女の左腕がかすかに動く。すぐ代わりに右腕が上がる。彼女は右腕の人差し指を唇に軽く当てた。

「何があったのかしら?」

「施設に殺されそうになった。対応が少しでも遅れていたら僕は今コンテナの中だったろうね」

「だから気を付けなさいと言ったじゃない」

「わかるかよ!」

せめて主語というかそこまで言って欲しかった。

まぁ、僕が冷凍保存されたら彼女も自らカプセルに身を委ね2人仲良くコンテナだろうな。


「じゃあ、さっき警報が出ていたのもそれかしら」

「警報?」

カプセル割って逃げることに夢中だったから周りのことはよく覚えていない。

カプセルはそこまで厳重なセキュリティではないし、死亡確認に対する警報はセットされていないはず。

「ええ、良く分からない内容だったからここに来たのよ」

「ますます分からないな」

意味不明な警報の上内容までも分からないときた。

「施設の管理は君だろう? 君が分からないで僕にどうやって分かるっていうんだ」

「分からないわ」

そろそろ分からないがゲシュタルト崩壊を起こしそうである。


そういえばゲシュタルト崩壊とは、残された本を読んで推測するに全体としての集合意識が失われ、個々のまとまりを無くしたバラバラの存在がそれぞれで認識されてしまったことをいう、らしい。あくまでらしい。それが合っているとして、この場合ゲシュタルト崩壊という言葉が当てはまるか? 多分、微妙。


ただ単にゲシュタルト崩壊とかいう最近覚えた言葉を使いたかっただけだ。


「とにかく、私はその警報の鳴った箇所に行ってみるわ。貴方は制御室でコンソールを見ていて」

「分かった。ついでに君とナノマシンとのリンクを切っておくよ」

「つれないわねぇ」


彼女が部屋から出て、扉の向こうに姿を消す。その場所が何処かは知らないが、とにかく制御室に行ってみればいいだろう。

僕用のカップを机の上からひったくり、施設の中心地にある制御室に向かう。確か飲料水のタンクはそこにもあったはずだ。



****



「ハーイ、見てる?」

「君より君の後ろにあるものが気になる」


何かが渦巻いている。彼女の持つカメラが渋々といったふうにその禍々しいものに向かった。

黒色の霧が渦巻く。大きさは彼女より大きい。僕なら3人縦になったら同じくらいだろうか。

昨日までこんなの無かったし、警報なんてものも以前彼女が警備カメラに逆ギレして引っこ抜いてしまって以来だ。

僕と彼女に驚きや焦りの感情はない。ただ、純粋な好奇心だった。

「早く来なさいよ、多分これ逃したら生で見れないわよ」

ちょっとだけ弾んだ彼女の声がスピーカーから踊り出る。

そこにあるのは興奮、期待、そして巨大な恐れ。だからこそ気分は高揚するのだろう。

「ああ、わかったよ」

横に置いていたカップに入っていた、文献から見よう見まねで作ったコーヒーを一気に飲み干す。

彼女は苦いから嫌だと嫌っているが、僕はこの飲み物が好きだった。

じんわりとした苦味、後から来る渋さ。気分を落ち着けるときは必ずこれを飲んでいる。


「はやくー」

「はいはい」


空のカップを机に置き、椅子から立ち上がった。



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