紫先生
式部紫先生は三条校長に呼ばれた。
「紫先生、実はな、我が街出身の新井先生が科学技術庁長官になり、今度、うちの学校に視察に来る。それで粗相があるといかんので、定家くんと長明くんを連れて新井先生の目につかないようにしてくれ」
紫先生は大きい胸の前で腕を組んでいた。
「いいんですか?そんなの。人権問題になりません?」
「ギャーハハハ、こんな田舎でそんなこと言うやつおらんよ!」
紫先生も一応受け入れた。
「ところで、金曜日の放課後、お城の近くの隠れ家的バアルでワインを一緒に飲まんかね?」
「それはお断り」
「むむむ」
紫先生は校長室を出て行った。
その頃、定家くんたちは帰り道だった。
「紫先生ってガードが甘いから胸とかさわらせてくれるんだよな~」
鳥羽くんが鼻の下を伸ばしていた。
「アタシは嫌い!」
式子ちゃんがピシャリと言った。定家くんはビクッとした。(-_-;)
「何で?」
鳥羽くんが尋ねる。
「不潔だから!」
男子たちは重苦しく沈黙した。
そして新井科学技術庁長官が来た時、紫先生と定家くんと長明くんは体育館の裏で草むしりをしていた。
と言っても紫先生はタバコをふかしていた。
定家くんは機械的に草をむしり、長明くんは神経質に何かを定家くんに話しかけていた。
長明くんは白河家や高倉家に負けない金持ちだったが、昔はさらに金持ちだったらしく、常に落ちぶれたという不満を抱えていた。
団地に住む定家くんからするとぜいたくな話だった。
紫先生は実は不動産のディーラーをしている道長さんという人の愛人をやっていて、学校の給料の何倍もの金を受け取っていた。
学校の給料は全部定期預金にしていた。
紫先生は定家くんと長明くんに話しかけた。
「二人はさ、夢とかあるの?」
長明くんは「小説家になってスターになるの!それで小説を映画にして武井咲にヒロインやってもらうの!」と言ったが、定家くんは首を横に振った。
紫先生は大きい胸を定家くんの背におしつけた。
定家くんの夢はもちろん式子ちゃんと結ばれることだったが、難しいとも思っていた。
「色変わる美濃の中山秋こえてまた遠ざかる逢坂の関」
「尋ね見るつらき心の奥の海よ潮干の潟のいふかひもなし」
世の中から取り残されたような三人の周りで時は優しく流れていた。