俺と屍と鉄パイプ。なぁ、俺は人か?
俺はあの時、人でなくなった。
俺は武器収集のためベストホームに来ていた。
「くそ。」
奴らの数が多い。叩き伏せる先から、次の奴が来る。若干の焦りを覚えるも、それを奴らと共に叩き伏せる。叩き伏せる。何度も。
みんな考えることは同じで、武器と食料のあるベストホームは来た奴らが次々犠牲になったらしく、奴らの数は半端でなかった。簡易的なバリケードの痕跡や喰い散らかせれた肉がそこら中に散らかっており、かなりの人数がここへ来たことが伺える。
拙いな。
なんとか目的の方へ前進して行くも、時折押し返され十数分の間に、200Mほどしか進んでいない。のこりの数十Mが埋まらない。時間をかけすぎ、奴らも集まってきている。
いっそ、皆殺しにするか?
そんな考えが頭を過ぎるが、実行に移す余裕など微塵もない。だらだらやっていてもらちが明かない。
一歩前へ出る。それだけで奴らの密度が倍になって見える。我武者羅に鉄パイプを振り回し、奴らを屠って行く。横薙ぎに何度も振り回し、奴らを左右へ殴り飛ばす。両手で握った鉄パイプがあっと言う間に変形していく。
着くのが先か、壊れるのが先か?笑えない賭けだな。
残り4M。
後ろから奴らが来る。それを見ないで大雑把に打ち倒し、時間を稼ぐ間にまた一歩前へ。
残り3M。
たまにいる走ってくる奴を、手を掴み一緒に廻って全力で前へ投げる。そして出来た空間を突き進む。
残り1M。
先ほど投げた奴に止めを刺し、邪魔な奴らを纏めてなぎ払う。
これだ!
掴んだのは鉈。片刃で枝打ちも出来るやや値段高めのヤツで、刃渡り(要は刃のついてる部分に長さな)の一番長い物だ。それを、留め具を引きちぎるように外し、両手に一本ずつ構える。
狭まった包囲網の中、両手の刃を閃らせる。十分以上にエネルギーを持った刃が肉を裂き、骨を
断つ。正確に首を落し、全身に返り血を浴びながら突き進む。出入り口を塞がなければ、さらに敵の数が増えるだけだ。
一度、駐車場まで出る。そこへ中にいた奴らをおびき寄せ、素早く中へ戻る。簡易的なバリケードを奴らを搔い潜って作る。それから、中に残った奴らを排除し、簡易バリケードの内側に新たにとても頑丈なバリケードを奴らを排除しながら作る。簡易バリケードの上げる悲鳴と共に、俺の心も恐怖に悲鳴を上げていた。俺にも人間らしいとこあるじゃん、と妙な感傷に浸りかけたのを意識的に消し去り、作業に集中した。
まだ、あのときの俺はまともだったんだろう。
自分で思うほどは壊れてなくて。
本当の意味で絶望してなどいなかった。
自分には、必死にやれば未来があると思っていた。
すぐそばに死が存在することを頭では分っていたつもりでも。
心はそれを解ってなかった。
口先だけの大馬鹿だったから。
だからまだ、甘い幻想を抱いていられてんだ。
みんなに酷い事言いながら、ホンとは全員助けようとしていた。
自分一人守れないくせに。
バリケードが完成して暫らく、簡易バリケードが崩壊した。壊れること前提で上に置かれていた重りが奴らに降り注ぎ、奴らの数を予想より減らしてくれた。内側のバリケードは鈍い軋みこそ上げるものの、きっちり固定されているため揺れや歪みが少ない。これならば、1、2日持つだろう。
武器を大きな鞄に詰め込み、使えそうな物を片っ端から漁る。
1600MMの木の柄、剣先の山菜鉈、電動ドリル・・・。あ、いいこと思いついた。
幾つかの商品を手に、俺はレジへ行きコンセントをぶち抜く。あいつらに土産を作ってやろう。若干ニヤニヤしながら、作業に取り掛かった。
作ったのは槍。長さこそ短いが、突きも薙ぎも出来るように作ってある。何本か作り纏める。その他にも、幾つかキメラ武器を作る。
夢中になっていたのか、何時の間にか奴らの声が聞こえなくなっていることに気付かなかった。バリケードも風に煽られ軋みを上げるだけで、奴らの気配は失われていた。
それから暫らく、周囲の様子を気にしつつも店の中を探索し続け、小さめのリヤカーを見つけてそれに荷物を放り込んだ。
ベストホームから出るために、リヤカーを引きつつバリケードへ近づく。近づいて行くと、遠くからエンジン音が聞こえてきた。それは、徐々にこちらへ近づいてきた。
拙いか?
かなり速度の出ている音でこちらへ迫ってくる。…嫌な予感はすぐに当たる。
凄まじい破壊音と共に、俺の左側のバリケードが吹き飛んだ。あれはハマーだ。勿体無いことに車体はグシャグシャになりガラスは木っ端微塵だった。乗ってた人間は即死だろう。奴らの気配が付近に無かったことを思い出し、さっさと外に出ようとリヤカーをバリケードに開いた穴のほうへ引いて行く。
ジャリッ・・・・・。
今の音は・・・俺じゃない!!
素早く鉈を二本抜き、周囲を見渡す。音は複数、方向はハマーの方とバリケードの外。足音はあっと言う間に増え、敵の数が全く判らなくなる。また囲まれたか。正直、相手にする余裕は無い。何十も骨を断った鉈は切れ味を鈍らせ、鉄パイプやその他の武器も使い潰せるほど数が無い。出来れば持ち帰れなければ。
「全く。馬鹿馬鹿しい。死ねばいいさ。」
考えることは無いだろう。もとより、ここで死ねば意味が無くなるのだから。全部殺せばいい。邪魔なもの全て壊せばいい。
一歩踏み出す。
「ぅおおぉぉあああぁぁぁ!!!!」
咆哮を。響き渡れと。さぁ此処だ。お前らの獲物は此処にいるぞ!
車のほうに見えた、運転手だったと思われる奴に鉄パイプを振り下ろす。車から這い出た奴らの頭を鉈で割る。壊れたバリケードを越えてきた奴らに漬物石を投げつける。リヤカーから、新しい鉈と短い槍を取り出す。足元に鉄パイプを数本転がす。
「さて、やるか。」
妙に醒めた頭で、奴らを蹂躙し始めた。