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俺と屍と鉄パイプ。  作者: 橘月 蛍
第1部 悪夢の始まり、日常の終わり。
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俺と屍と鉄パイプ。あと、緑のヤツ。


俺があらかた壊ったためか、ラルズまでの道のりに奴らは出なかった。


「………。」


皆、黙々と食糧を集めにかかる。先ずは、日持ちしない生鮮食品を回収する。


「夜は豪華にやるぞ。」

食品を回収し終わり、集まった班員にそう言う。

何人かは喜んでいたが、残りは回収した物を考えて、嫌な顔をしている。


「行くぞ。」

特に返事を期待せず、歩き出す。まばらに返事が返って来た。


街は静まり返っていた。

その中を黙々と歩く。歩みは遅い。何かがあった跡があり、色々な物が散乱しているからだ。


役場に戻り、食糧を冷蔵庫と冷凍庫に詰め込んだ。

皆で水を一本ずつ飲み、また町へでる。


静まり返った国道をひたすら歩く。静か過ぎた。嫌な感じがする。


「再来?」

つい口に出してしまい、伊藤に「何の?」と聞かれ、必死にごまかした。ガキには言えんかった。生存者を殺めたなんて。


まぁ、俺もガキだが。


「あったぞ。」

やっと、お目当ての物を発見。

見つけたのは、ランドクルーザー。若干、フロントが弱すぎる気もするが、問題ない程度だ。色は黒かった。分からなくなりそうだ。


鍵は付いていた。

予想通りで面白く無いなんて思ってないぞ?


プルルルル…。


電話だ。


「すまんな(笑)」

軽く謝り電話に出た。


「よう。どうした?」

電話の相手は社長だった。後ろで銃声や怒号が聞こえる。また何かやってるのか。


「ふんふん。なるほど。」

武器を西条に届けたらしい。戻ったら早速見てみよう。


「ん。分かった。じゃあな。」

本社の制圧には時間がかかるらしい。迎えは遅くなりそうだ。

電話を切り、班員たちを見る。それぞれ、周囲の警戒や車両の調査を自然とやっていた。


意外とやるじゃないか。見捨てないで良かったな(笑)


ニヤリとしかけた顔を普通に戻す。


「後は探しておいてくれ。ちょっと他の班見てくるから。」

何人かが返事をしたので、まず2班を探しに向かった。



何故、嫌な予感ばかり当たるのだろう?


何故、何時も理不尽な事をやることになるのだろう?


何故、一度は死のうと思った自分はこうして生きているのだろう?


何故、何故、何故、何故、何故?


答えが見つからなくても、前に進まなければならない。


後悔なんてし尽くした。





怖がる必要は無い。



町を歩くこと、十五分。

美深高校に向かう道に一体。奴らがいた。それなりに俺は音を立てていたはずだが、ソイツは俺を無視して、高校の方へゆっくりと歩いて行った。


やっぱ、なんかあんな。


静かに近寄り、後ろから頭を潰した。返り血を拭い、高校を目指した。




校門前。

ひしめくように奴らの群れがいる。100か200か…それ以上か。

チラリと自分の得物を見て嗤い、走り出した。


「砕けろぉっ!」

叫びながら鉄パイプを振り下ろす。充分に体重の乗った一撃に、最初の一体は脳髄を撒き散らした。


「壊れろぉっ!」

振り下ろした鉄パイプを左脇に引き込み、横薙に振るう。それは、軌道上の奴らを全て薙払った。飛び散る血を浴びながら、嗤う嗤う嗤う。


「あははははっ!」

以前のような笑いではない。

心の底から楽しそうな嗤い。


壊れた心を隠さず、自分の真実を吐露する。破壊というカタチで。体力の温存など考えず、本能のまま得物を振るう。有り余る狂気を乗せて振りかぶる。それは、人のようなカタチのもはや人ではない者達を屠っていく。


「あははははっ!」

飛び散る、血が、肉が、脳が、骨が、可笑しくて仕方がない。

抑えられない嗤い。抑えるつもりもなかった。


気が付くと、そこは血の海だった。

まだ動いている奴らを叩き壊し、生徒玄関に立つ。


誰も………居ない?


静かだった。

確かに何か在るはずなんだ。微かな気配があるような気がする。仕方無いと思い、気配の方へフラフラと歩き出した。



学校の中をダラダラと歩いていると、奇妙な音が聞こえてきた。それは…


カッカッカッカッ…


まるで爪の伸びた犬が、フローリングの上を歩いているような音だ。それは、少しずつこちらへ近づいてくる。ゆっくりとだが、明らかにこちらを意識しているようだ。

俺は警戒を強めつつ、気配の方へ向かった。





3階、学校の真ん中の階段から上がって行くと、廊下の真ん中あたりで気配が止まった。


気持ち悪いな…。


濃厚な死の気配が漂って来るのを感じる。

それは麻薬のように俺の心を蝕んで…。そして、本能を呼び覚ます。


一歩踏み出す。

廊下の見える所に立つ。

そこに居たのは、


緑色のウロコを纏った人。

ゲームなどと違い、かなり人に近い。その眼に知性の光を感じた。しかし、それが本能と揺れ動く。


楽しそうだ。


そんな事を思った。

場違いな感想だと分かりつつも、吊り上がる口角を抑えきれないでいた。


「お前は俺の敵だろう?」


質問ではなく、死の宣告。

俺は答えを待たず、得物を構えた。



俺が構えたのと同時に相手が距離を詰めてきた。油断無く構え、相手の出方を待つ。


緑のヤツは距離が詰まると共に、右腕の鋭い鉤爪を振り上げてきた。それを軽く体をそらして避け、構えを崩さず蹴りを入れた。緑のヤツは怯んで少し下がったが、思ったより早く態勢を立て直したため、追撃は入れられなかった。

緑のヤツはゆっくりと左右へ揺れ動きこちらを誘ってくるが、こちらは構えをわざと解く。

じれて、詰めてきた緑のヤツの顎を鉄パイプで打ち上げる。キレイに入りガラ空きの首へ、振り上げの勢いを使い逆時計回りに回転して、肘を打ち込む。

1対1用の技、鉄杭だ。龍人は自分で技を作るのが趣味だった。

そこから、逆回転して脚を払う。態勢を崩すことは出来たが、細長い見た目と違い頑強で、転倒にはいたらなかった。

相手の特徴を調べつつ、更に攻撃を加える。腕を狙った一撃は、緑のヤツの10CMはある爪で弾かれた。

ガリガリと火花を散らしたが、鉄パイプの表面は薄く傷ついただけだった。

態勢を立て直し、鋭い爪で連携攻撃をしてくる緑のヤツを、ニヤニヤと嗤いながら捌く。時に受け止め、時に受け流しながら、時折こちらから攻撃する。

そのたびに火花を散らす、爪と鉄パイプ。


ビシッ!


打ち合ううち、そんな音が聞こえた。俺は勝利を確信した。あの頭の可笑しい社長が作ったもんが簡単に壊れると思えなかった。

上へ流された鉄パイプを、全力で振り下ろす。


パキーンッ


金属の破断音に似た音とともに、緑のヤツの爪が折れる。


「死ね。」

言葉と同時。

振り下ろした鉄パイプを跳ね上げ、顎を穿つ。跳ね上げた鉄パイプを脳天へぶち込んだ。


「アァァァァァ!」

強烈な攻撃に叫びながら悶え苦しむ。


それをニヤニヤと見ながら、何度も鉄パイプを打ちつける。そのたびに、


「ギェッ…ガッ…ゴッ…ギィッ…!」

と言うのが楽しくなり、打ちつける場所を変えながら遊んだ。


しばらく殴り続け、声を上げなくなった緑のヤツを爪先で転がしながら、次の獲物を探し始めた。





堅いものにヒビが入る。




抑えられない傷が広がる。




崩壊が始まる。




でも、いいよ。




だって、それすら。









愉しいから?















結局、校舎中歩いても大したものは見つからなかった。感じていた気配もいつの間にか消えていた。

目についた奴らを片っ端から殺りつつ、校門まで戻った。

職員室に鍵が無かったところをみると、アイツらはちゃんと武器を回収したようだ。



緑のヤツと戦ったこと以外、大したこと無かったなぁ…。アイツら生存者救出出来たかな?

まぁ、居なかった可能性の方がデカいか。


ぼへーっと考えながら国道40号に出て、てくてく歩く。

目についた奴らに引き寄せられ壊しながら、一班の居そうな方へ歩いた。




一班を見つけた。といっても、一人だけだが(笑)

確か…










誰だっけ?忘れた。


「見つかったか?」

端的な言い方だが、まぁ問題ない。伝われば良いのだ。


「あ!お帰り!見つかったよ♪」

振り返って笑顔で言う班員に苦笑する。


「そうか。所で、名前なんつったっけ?忘れたわ(笑)」

こんな状況下で笑顔を見せるのは、強がりか、狂気か。まぁ、何でも良いが。

いくつか転がる死体を踏み歩き、近づく。俺を見た班員が顔を強ばらせる。

否。俺の後ろを見て?


振り返ろうとした瞬間、背中に鈍い衝撃が走る。それに一瞬遅れて、灼熱の痛みが走る。

倒れ込みながら、視界の端に映った見覚えのある緑。


「っ!お゛ぉぉぉア゛ァァァァァ!」


吼え、態勢を無理やり立て直す。振り返りざまに一撃くれてやろうとするが、防がれた。


学校にいた、緑のヤツ。

そいつが、頭は陥没し、手足は折れ曲がり、爪も中ほどから無い状態でそこにいた。

龍人は生死を確認していない。ただ、動かなくなりつまらないので、捨て置いた。だが、それがマズかった。


殺してやる。


鉄パイプを振り上げる。ヤツが爪を振るってくる。それを無視して、首を狙い、全力で振るう。ヤツの爪は容赦なく、俺の左脇腹を引き裂いた。激痛を感じながら、止まることなく振り抜いた。


ヤツの首がゴギッと鈍い音を立てて折れる。


口角が吊り上がるのも気にせず、再度鉄パイプを振り上げる。二度三度と体を引き裂かれながら、俺はヤツを殴り続ける。


ヤツが何かに気を取られた。


その隙を逃さず、連撃を叩き込む。怯んだヤツに止めを刺そうとした時、ヤツの背後から刃が覗いた。止めを足留めへと切り替える。

二撃喰らわせた所で、ヤツの首が舞った。嗤いを抑えながら、首だけで尚動き続けるヤツを何度となく殴り、グチャグチャになるまで、叩き潰した。

ヤツが完全に絶命したことを確認し、振り返る。


「助かった。出来れば下ろしてくれるか?」

全力で振り下ろされた大鉈を片手で受け止める。


「っ!!!」

無表情の中に、眉間に皺を寄せるという器用なことをする夜無。


「実は、もう感染してたり?(笑)衝動を抑えるの大変だったり?(笑)あんまり興奮させないでくれよ?ははっ(笑)」

体の底、深淵から湧き上がる衝動に抗いながら、作り笑いで説明した。


「化け物。なぜ?」

「さぁ…な?俺の母は、感染して奴らになったが、俺は感染して奴らにならなかった。違いは解らん。だから、知り合いに調べてもらおうかと思っているんだがな。

ちなみに、俺が感染者だと知ったのはお前だけだ。」

夜無の判りづらい質問にすらすらと応える。


「まとも?」

「いいや。作戦会議で言ったが俺は壊れているよ。最初からな。」

「………。」

無言で刃を退いた夜無にニカリッと笑いかける。




ゴッ。ドッ。


「うぐっ」

再度、振り上げられた大鉈を弾き、鳩尾に一撃入れる。

それでも尚、無表情にこちらを見てくる眼は、少し苦しみに歪んでから、ゆっくりと閉じられた。



もう、戻れない。


帰れない


どこに?


どこにも。


歩く。


走る。


進む。


退くことは出来ない。


闇の中を直走ひたはしる。





痛みと苦しみの中を直走れ。






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