私と屍とショートスピア。始まりの死別。
私達は、買い物に来ていた。
今日はただ龍人の仕事に使う物を買いに来ていただけのはずだった。
でも…。
「っ!?!」
叫ぶ余裕なんて無い。目の前の光景が理解出来ない。ただ、それが怖くて恐ろしくて憎くて。
だから…。
本能の赴くまま。そいつを〔壊〕した。
原型の判らない程壊して、呆然と母の屍を見つめた。
そしてそれは…。
ぴくりっとただほんの少しだけ動いた。私は甘かった。生きていると思いたかった。
首がギリギリと締まって引っ張られるまま私は後ろに倒れた。
「ふざけんな!」
龍人がそう叫びながら…。
虚ろな瞳の母に、片手鍋を降り下ろした。
「はぁ…これからどうする?」
私は、階段に座りながら溜め息をついた。龍人がいろはすをかぶのみしながら、
「とりあえず西条の安全確保が先決かな。寝るときも見張りが必要だし。作ったバリケードも急場凌ぎにしかならん。生きてる人間を集めて出来るだけ西条を制圧したい。」
と無駄に現実的な意見を出す。否定はしないが、何故私達だけこんなに冷静なんだか。
「それで構わない。制圧は私がやろう。戦えそうなの3人くらい連れてくぞ。お前はバリケードを。紗那は生存者を一箇所に集めてもらおうか。」
紗那が明らかにイライラした状態で応える。
「なんで、ウチらが主導決定な訳?」
全く。分かり切ったことを。
「あれが役に立つと?冗談キツいな。」
龍人が冷めた目で、途中で拾った生存者達を見る。彼らは、怯えきった様子で震えている。
「私も同感だ。使えそうな奴は居るが、自分からは動かないだろう。」
龍人がすっと立ち上がる。
「決まりだな。」
私も立ち上がり生存者達の方を見る。
「あんたら、生き残りたい?」
そして私達はこの地獄に生きる道を探し始めた。
結局独りで一通り殲滅し、集合場所のペリカンに来ると、美味しそうな匂いがした。
「うわっ汚!」
ペリカンに入るとそこら中に食べ物や食器の破片が散乱していた。
「おー。飯にするから掃除頼む!生存者達は奥の方にいるから。」
厨房から龍人が叫ぶ。勝手に使ってるし。
「分かったよ!不味いもの作ったら殺すぞ!」
「あーはいはい。」
随分と適当な返事が返って来たが、気にしない事にして、掃除を始めた。
出来た料理は、かなり野菜や穀物ばかりだった。アレルギーのある者が居るらしく、別に小分けされた物もあった。
「こんなに作って大丈夫なのか?」
思わずよくわからないまま口走っていた。
「何を心配してるか知らんが食わなければ生きていけん。アレの相手の後だ。肉類はキツいだろ。」
最もな意見だ。とりあえず腹拵えといきますか。
「戴きます。」
そしてみんな食べ始める。
なかなか旨い。なんで私よりレパートリー多いんだ?ムカつくな。それより…、
「これからどうする?西条内の生存者はこれで全部?制圧7割位だと思うけど。」
紗那がもそもそとカツカレーを食べながら応える。
「生存者は多分これで全部。まだいたとしてももう間に合わないよ。」
確かに始めの遭遇から5時間くらい経っているからな。
「龍人は?」
「バリケードは問題ない。ただ、上の駐車場のスロープの封鎖が微妙だ。」
「車で閉鎖すれば?」
龍人が微妙な顔をしながら、
「そのつもりだが。時間と人手がいる。それにスロープ付近はあいつらが多い。」
「そうか、わかった。」
私が食事に戻ると、龍人は何か考えているのか食べるのが止まっている。
「武器が必要だよな。あと、ここ以外の生存者も探さなきゃいけないし。バリケードも、強度もそうだけど生存者のためには、開けられるようにしなきゃ。拠点化するにしても、食糧や水や燃料が必要だよな。電気も何時まで持つか。いや、先ずは安全確保が先決だよな。とにかく奴らが入ってきたらパニックをまた起こしかねない。だが…」
ブツブツと喋り続ける龍人を引っ叩く。
「先ず。喰え。」
ギロリと睨みつけると、スゴスゴと食事に戻った。
私達だけが冷静でも、生き残れるわけではない。だが冷静でなければ、皆な死んでいくだけだ。少なくとも私はまだアレに成りたく無い。
「ビビんな。行くぞ、志狼。大人だろ仕事しな。」
志狼と呼ばれた男は、未だ怯えの混ざった表情で私の方を向いた。
「父親を呼び捨てとかひでぇなぁ。なんでお前らそんな冷静何だよ?」
この男は、私の父だ。無月家はみんな冷静かと言えばそうじゃない。こいつは母が殺された時、ビビって何もしなかった。
「知らねえよ。働かざる者食うべからず。だぞ?それとも、ここに置いて行くか?」
志狼はその事を想像したらしくぶるりと身震いしていた。
「それは遠慮する。働いた方がマシだ。」
私達が今いるのはスロープ外付近。封鎖作業に邪魔な奴らを壊しているところだ。
「居たぞ。さぁ、仕事しろ。」
奴らかが、三体ほどひたひたと歩いて来た。気付いていないようだ。
「静かに近付いて、頭を潰せ。一撃でやれよ?」
志狼は軽く頷いて歩き出した。
カラン…
馬鹿。素早く近い奴を壊す。
「志狼。足元気を付けろ。囲まれるなよ?死ぬぞ。」
志狼は焦って2体の間から抜け出し、片方に包丁を振るう。肩口に当たったが刺さったままになったようだ。
「手ぇ放せ。死ぬぞ。頭を狙え。他は意味がない。」
包丁の刺さったままの奴を蹴り倒し、頭を砕く。
「ほら、もう片方。」
包丁を抜き、渡す。
「二度も失敗しねえよ。」
志狼は最後の奴の頭をかち割った。
「はい、お疲れ。でもって、追加。」
紗那が集まってくる奴らを見つけた。志狼が蹴った缶の音はかなり響いたようだ。
「馬鹿が。いらねぇ仕事増やしやがって。志狼。しっかり後始末しろよ?手伝ってやるから。」
私はそう言って、手頃な奴らを壊す。
「分かってるよ!やりゃあ良いんだろ!」
「その通りだ。邪魔な者は排除すればいいさ。」
いつの間にか龍人が来たようだ。
「さぁ、狩りの始まりだ。」
私達はニヤリと笑った。
「ふぅ。終わり。」
私は最後の奴を叩き壊した。龍人が走りよってくる。
「また集まって来る前に封鎖作業始めるぞ。車を5台使う。」
紗那が男共を集めに行く。私は詳細を聞きながら、スロープを上がる。
「まず、スロープ入り口内側に車を2台横に並べる。多分乗用車ならギリギリ入ると思う。それを重機で横倒しにする。最後に、車三台で固定。裏からセメントでガチガチに固める。」
「徹底的だな。悪くない。任せていいか?」
龍人は少し考え込み、首を横に振った。
「いや、俺は武器を集めに行く。お前が仕切れ。今の武器は使い辛いだろ?」
「あぁ。分かった。」
今の武器は、龍人が鉄パイプ(水道壊した。)、私と紗那がハンガー掛ける金属の棒(名前知らねえ)、志狼が包丁である。強度や殺傷能力がマチマチで、しんどい。
「じゃあ、行ってくるわ。」
そう言うと龍人は、歩いて行った。
何でも使えそうな物は使う。生き残るため、手段なんて選べない。
私達は生き残る。
希望も絶望も打ち捨て。
だだ今を。
生き残ってみせる。
スロープの封鎖は順調に終わった。セメントなんて西条で扱って無いけどな。まぁガムテープで代用だ。代用になっているかは謎だが。
混乱から立ち直った何人かを連れて、西条内を制圧してまわった。これでほぼ制圧は完了だ。
ペリカンに戻って来ると、紗那が片付けをしていた。ペリカン周辺を広くするためらしい。確かに商品があると戦いづらい。
「姉?お疲れー。戻ってきたんだ?」
片付けを中断し、駆け寄ってくる。
「あぁ、ほぼ制圧したからな。今度は材料探して、バリケードの補修だ。予想通り生存者もいないようだし。」
紗那が何か思い出したようだ。
「そういえば、咬まれた人3人拾った。咬まれた時間聞いて暫くしたら、あいつらになったから、殺した。」
「時間は?」
重要だ。
「2時間。重傷なら20分。2時間持った人は、少ししか出血してなかった。100パーセント感染するみたいだね。」
感染か。病気なのか?
「現状、映画やゲームと同じみたいだが、人以外の生き物が感染している所をまだ見てない。調べたほうがいいか。」
どっかの研究者に任せたいね。
「そうだね。情報は多いにこしたことはないよね。」
だが…
「先ずは休憩だ。いざという時に動けなければ意味がない。龍人がいないから良いものは食えないが。」
紗那は頷くと、みんなを集めに行った。
「なんか、大仕事になりそうだな。」
目の前では、バリケードを壊そうと奴らが迫っていた。
視界一杯に…。
「結構使えそうな奴増えたし平気じゃない?場所も整理したし。」
紗那がダルそうにいう。バリケード付近は片付けられ、奴らが変な方に流れないよう、左右に壁作ってある。空間の幅は10Mと少し。奥行きは、バリケードから30M程。
「何でここだけ集まって来たんだと思う?」
「さぁ?運命の悪戯?」
アホか。だいたい、紗那はそんなの信じないだろ。
「それより、虐めじゃね?」
「確かに。」
バリケード、ミシミシいってるし。
「全員。準備。」
私がそう言うと、男共が放水ホースを持ってくる。電気は通っている。動く筈だ。
「構え。」
バリケードを固定しているテープが千切れ始める。
「………撃て。」
バリケード中央が割れるのと同時に、放水が開始される。
「上々だな。」
指導の成果だな。最初は若干ブレたが、安定して奴らを押し退けている。予想以上の成果だ。
それでも何体かが抜けて来る。
「遊撃開始。ぶっ壊せ!」
叫び、得物を振り上げる。
「「「おぉぉぉ!」」」
複数の雄叫びが上がり、抜けて来た奴らをぶっ壊していった。
まだ死にたく無いんだよ。