制圧、つまり殲滅
用語
X7 HFHB ブレード。86センチくらいのと66センチくらいの直刀。
MX10 Anelaceコンパクトカスタム 自動拳銃。.40S&W弾を使用。
X1 Antiqueライトウェイト 突撃銃。SRC.22C1Mを使用。
HG5 13PG 手榴弾。危害半径は2mくらい。投げるやつ。
40mmHE 榴弾。危害半径は15mくらい。大玉は威力を上げたもの。擲弾銃から撃つやつ。
――――――
さて、音と気配からして奥に進めば広い所に出るんだろうが、どうしたものかな。
敵の数はザッと千いくばくか。私の残弾は消費ゼロでもわずか二百たらずといったところだ。接近戦は避け得ないが、戦いやすい場所までは消耗を抑えておきたいね。
となれば、使うのはブレードかね。スイッチを入れずとも十分な切れ味があることだし、溶断を使わなければ稼働限界がくることもない。
「っと、おいでなすった。めんどくせぇ....」
考えをめぐらせるうちに、近づいてきていたStDがエレベーターホールに現れる。これ以上時間を割いていては流石に飲み込まれかねない。
通路は二つ。とりあえずエレベーターの向かいへ進もう。反対の通路には手榴弾を二つばかり放り込んでおく。長い方のブレードを抜いて通路へ突っ込む。とりあえず片端から切り払って囲まれない内に進んでいこう。
手榴弾の爆発音を背に真正面の敵を撫ぜた。
「しかし、多いな」
上には思ったほどの人数はいなかったし、ありゃ捨て駒かね。
通路の幅は三m近くあるものの、こう数ばかり多いとどうにも動きづらいな。かといって後からも来ているから止まるわけにもいかない。
「オリヴィア」
『はい』
「ソードマン、負荷率10%で記録しろ」
『了解です....どうぞ』
考え方を改める。剣による戦闘への最適化。思考から身体の使い方まで何もかも。
状況の打開に打った手札はシンプルだ。俺が習得している己刀流はあらゆる状況に対応するために、膨大な戦闘技術を網羅している。その分、その時々にとれる選択肢は多くなり、それは行動の遅延につながる。俺以外の奴らは得手不得手で選択肢を減らせるが、絶望的に器用貧乏を突っ走ったせいで、俺はこの弱点が顕著だ。
だから、最初から考え方を変える。多数ある選択肢から特定のパターンだけを抽出して運用する。徹底的に選択肢を絞ってしまえば、行動の遅延はほとんど目立たない。まあ、汎用性に欠けることと他の戦闘スタイルに変えようとするとすこし時間がかかるのが欠点だが。
切り替えた頭で考えれば、一切射撃を考慮しないスタイルならブレードのリーチまで突っ込むほか選択肢はない。戦いやすい場所へ出るのを優先する。
目の前の敵を片端から切り払い、薙ぎ払い、StDで溢れる通路を駆け抜ける。切った数はとうに百を超えたが、血濡れて滑りやすくなった以外は刃が鈍った気配はない。
広いフロアまではあと100m程だろうか。やたらと曲がり角が多いのはこういう事態で進行を遅らせるためか。
ひと束いくらで薙ぎ払っても、後から後から腐るほど湧いてくる。損傷の激しいやつだと臓物振りまきながら迫ってくる。ぐちゃぐちゃの足元に気を付けながら、飛び出してきた一体の首を刎ねる。惰性で突っ込んで来るのを避けながら、傍にいた二体を横薙ぎ一振りで分断する。
もう少し、と思ったが違和感を感じた。
StDと変種は気配も何もかもが違う。前の俺なら音で判断が精々だろうが、今は気配のほうが鋭い。にも関わらず、StDと同じ気配がある。だが、場所の取り方が異常だ。幅が腕を組んで三人分くらいある。なんだ?
ある程度対応出来るようにするか?未完だが。
「オリヴィア、とりあえずオールアサルトでいく。負荷は...15%かな」
『はい。大丈夫ですか?』
「たぶんな」
とりあえず、ある程度状況に対応できるように意識を変える。銃にも意識が向く様に、一回ずつ装備を触っておく。
とりあえず牽制に手榴弾を、と思ったところで気配が動く。手早く後方に焼夷弾を二つ放っておき、身構えた。
真っ直ぐ来る。気配に押し飛ばされStDが壁に染みを作る。さほど速くないが油断できない。と、こちらへ向かってくるStDを切り捨てた先に頭が見えた。
「デカイな」
StDを次々薙ぎ払い姿を現す。アルマジロ?体高2.5前後、幅は1.2か?外皮が硬質化しているらしく、いくつかの殻が背面周辺に外殻のように張り付き、内側も小さな甲殻が連なっている。茶色っぽい色が、さらにアルマジロっぽい。ぽいっぽいぽい
「うおぁっ!?」
こっちを見た途端、いきなり加速しやがった。半分転がるような格好でダイビングパンチとか意味わかんねえから。相手のガタイの大きさが災いして、サイドステップしたギリギリを巨体が通過する。
足音からして、体重はかなりあるな。速い上にアクロバットな動きのせいで間合いをはかりにくいが、朱鬼みたいに反応難しい速度で来るわけでもない。どうにかなるだろう。
退路はさっきの焼夷手榴弾で火の海だ。あと二〇秒はこのままか。広場側に出ないと動きづらいな。
人波を切り裂いて通路を進む。一度茶色いのが通った後だから大した障害ではないが、それでも元の数が多かった分進路を遮るStDの数は多い。
広場へ出た直後に、茶色いのが追いついてくる。
大まかに動きを予測して飛び退いたそこへ、またもダイビングパンチをした茶色いのが転がる。周囲の奴らを轢き潰しながら起き上がりこちらへ向く。床をあまり血塗れにされると動くに困るな。
三度目のダイビングパンチをギリギリで躱して切り込む。ブレードのスイッチは既に入っている。予熱は十分。腕を一本落としてやろうと、肩口の甲殻へ振るう。
速度も角度も力の入れ方もほぼ完璧。
だが甲殻へ触れた途端、痺れるような痛みとともに刃が滑った。
崩れた体勢を慌てて整え、飛び退く。
「オリヴィア。今の、記録した?」
『はい』
「どう思う?」
『予測される甲殻の強度からはマトモな方法で防ぐことは出来ないと思われます』
「だよな。やっぱり振動か」
今の感触から言って、ほとんど間違いないとは思うが。
切断の為に色々な効果を重ねているX7_HFHBを防ぐ手立てはそう多くはない。その中で最も手っ取り早いのは、被接触時間の低減。つまり、熱溶断と高周波電流の効果を防ぐ事だ。超音波は溶断の補助機能でしか無い。甲殻を微振動させて熱溶断を防いでいるのと高周波電流には耐性があるのか、含水率が著しく低い為に効果がないという可能もある。
「いきなり対策を?バカな」
『いえ、偶然かと。先程の記録を調べましたが、攻撃の瞬間が最も出力が高いようです。攻撃手段なのでしょう』
「いや、さっきから茶色いのに接触した奴らが弾かれてるのを見るに、攻防一体の厄介な性質みたいだ」
『データが足りませんね』
「分かってる」
ひたすら茶色いののダイビングパンチを避けたおかげで、床一面血みどろではあるが、StDの数はすっかり減っている。
とりあえず、何が効果的かわからない。俺や紗那あたりは必要なら甲殻の隙間を突いてバラせば問題ないが、普通の奴らには無理だろう。
ブレードのスイッチを切って納刀し、MX10アネラスを抜く。.40S&Wでは大した効果は無いだろうが一応チェックしておこうか。
足元に気を使いながらダイビングパンチを避け、部位を別けて数発ずつ打ち込む。甲殻命中分はほぼ跳弾。垂直着弾は弾頭が木っ端微塵か。硬いな。皮膚の露出部や関節に当たった分もどうやら相当入りが浅いのか、反応は至極鈍い。
まあ良い。次はX1アンティーク、いくか。5.56NATOよりやや薬量と弾頭重量の重いSRC.22C1Mだが、この距離の威力なら大して変わらない。同じく撃ち込んでいくが、結果は思わしくない。相変わらず甲殻部分はほぼ跳弾。皮膚露出部分も関節以外は反応が薄い。一弾倉30発まるっと撃ち込んだ左肩の動きが大分鈍くなったくらいか。硬すぎ。
朱鬼ほどでないが厄介な。筋肉ダルマや朱鬼の報告件数は極々少数にとどまってる。というか、俺のとこであんなに朱鬼がいた方が異常だと言われてしまったが。
「データ取れたか?」
『はい。ですができれば、手榴弾の効果も知りたいですね』
「無茶をいうよ、ほんと」
『お願いします』
とと、危ない。会話に気を取られて一瞬轢かれそうになったがまあ、轢かれてないし問題ない。
さて、どうするかな。今持ってる手榴弾は威力低いからな。お土産攻撃でいくか。
性懲りもなく同じダイビングパンチを繰り返してくるのに辟易しながら、ピンを抜いた手榴弾を足元に落として飛び退く。手頃なStDの首を刎ねて、引っ掴み盾にする。HG5 13PG 攻撃型手榴弾の危害半径はたかだか2mだが、範囲外でも破片で即死すらありえるから甘く見てはいけない。
茶色いのが起き上がる寸前に、足元で手榴弾が爆発する。乾いた爆音に混じって明らかな悲鳴が聞こえた。
「お、流石に効いてるみたいだな」
『13PGで効果があるのでしたら、40mmHEで対応します』
「大玉の方が良いかな。逆にHEAT系は弾かれて効果でないだろ」
『はい。整理して伝達します』
「よろしく。まあ、伝達終わる頃には狩っておくよ」
『了解』
さて、アルマジロっぽい茶色いのは、お怒りなのかさっきから転がりまくっている。ほんとアルマジロかよって。
銃を仕舞って、鉄パイプを握る。多分ブレードで迎え撃ったら折れる。
広場とは言え、ほんの40m四方ほどの空間で器用に加速して迫る茶色いのを迎え撃つ。腰を落とし、身体はやや左に捻る。鉄パイプは左肩に担ぐように両手で構える。一刀・竜断ちの変種だ。ちょい威力重視の構え。
迫る茶色いのを床に押し潰すつもりで、全身のバネを使って前に出る。身体の捻りを利用して上段やや左から鉄パイプを叩き付けた。爆音に近い衝突の音。
鉄パイプに打たれた茶色いのが床に深くめり込んで急停止する。身体の半分近くが床に食い込んでおり、下層に抜けなかった事が驚きなくらいだ。
丁度良く、首筋の甲殻の隙間が見える。復帰されないよう一瞬だけ負荷を跳ね上げて、持ち替えたブレードで脊椎を切り裂く。痙攣の後弛緩した身体から首を切り離しておく。緑のはともかくこれでまた動いたりしないだろう。
『伝達終了です』
「こちらも終わったぞ」
『早いですね...後30秒ほどで、本隊がそちらへ到着します』
「了解だ」
周囲にはもうほとんど、StDはいない。
「つかれた」
『もう少しで本隊がつきます』
「んー」
ブレードを納刀し、鉄パイプを拾って担ぎ直す。X1アンティークで周囲の残敵を片付ける。近いやつからセミオートで粛々と。脳漿を撒くのをぼんやりと見つめながら、弾の続く限り頭を撃ち抜く。
あっさり残りの弾薬を撃ち尽くし、アンティークを放り投げ、座り込む。
「つかれた」
『もうつきます。もう少しです』
「もうつかれた」
『はい、帰りましょう』
「ん」
まだ少し、残ってる。
でも、もういいや。
床に寝転ぶ。ここの天井高い。
疲れた。つかれた。
頭痛がひどい。いつ、ねたかな....
きこえてる。あしおと。
はやくきて、もうだめだ。
ねむっちゃいけない。おれが、ねたら...
わた...しが....おきる.....