俺と屍と鉄パイプ。あと装備とメンバーの調整。
川叉所市...名寄市。二章以降はこちらで統一。改稿版もコレで行く。
千人規模の収まる大きな空間。というか片付けられた車庫なわけだが、そこへ川叉所から逃げてきた俺達と、他の地域からの避難者やLG社本島の観光客の一部が集まっている。
LG社の人員不足を補うために募集したものだが、後方とはいえ危険な地域へまた出たいなどと考える人間はそれほど多くは無いだろう、と思っていたんだが。どうやら余程腹に据えかねたか、かなり多くの人間が参加しているのが伺える。避難者の総数が約四万人だからしいが、ここの他に三ヶ所車庫を使ってるらしいから、四千人近くの人間が参加している事になる。約一割。女子供を差っ引くと三割近いはずだ。
異常な数字に見えるが、ここに来ていた観光客はともかく救助された連中はあの状況を生き残るだけの能力と運があったと思っていい。そして終わっていない状況を終息させると言っているんだ。それも、後方で専門家のいる状況。危険が少ないなんて勘違いを起こすには十分な条件じゃないか?
だが実際には、敵地のど真ん中にドーナツ状の陣を張るなんて、普通なら絶対にやらない事をするんだ。話を聞く限り本社のある位置は奴らの多い激戦地だろう。そして、下手をすればFA社の私設部隊に襲撃されてもおかしくない。
ただでさえ戦力の不足している状況でそんなことになれば、幹部の既知外共はともかく平の戦闘員ですら大きな被害が出かねない。そんな中で素人がどうなるかなんてのは火を見るより明らかだ。
とはいえ....まず輩にそんな暇は無いだろうよ。
「俺達はどうすればいいんだろうな?」
「とりあえず社長の話を改めて、らしいけど。あとはウチは知らん」
「ぶっちゃけ話だけ聞いて、あとは装備の調整だろ」
「まあ、その通りだがよ....」
まあ灰斗の言うとおりでしか無い。今更この連中レベルの訓練をした所で焼け石に水だ。ここ数年体作りの方はサボっていたが、技の方は欠かしていない。
入り口にいても邪魔だろうが、壁沿いに少し移動して喧騒を眺める。
そうしてしばらく、僅かなハウリング音に車庫が静まり返った。
「おし、集まったな。時間だし後は知らんぞ。さて、手っ取り早く言っておくが、後援とはいえ死ぬ危険がある。現状作戦は敵地のど真ん中。いくら周辺を掃討した所で数が多い。漏れはある。油断して気付いたら死んでました。は冗談じゃない。マジだよ本気。
あ、今ここに居るのは日本語わかる連中オンリーだが、作戦中は英語圏の方が圧倒的に多いからな。会話内容の明確化とかの関係で戦闘中は英語が基本になるからな。みんな日本語やらせてるが、正確に標準語でないと伝わんねぇなんてのはザラだ。
ま、とりあえず独り身じゃない奴は出来るだけ帰れ。下らねぇ所で野垂れ死んだ所で名誉も何もないからな。体力のないやつもだ。基本は荷運びだしな。
あと戦闘発生の危険があるから全員ごく最低限の武装だけはしてもらうが。
よっぽどのセンスが無い限りは、今の短い調整期間の中でてめえらにマトモな武装をさせるわけには行かん。危なっかしい。ま、当然だわな。
銃器所持許可圏の奴らも同じだ。実戦で使い物になるようなのはまず居ない。
っと、こんな所か。
まあ、まず体力テストとか色々やらせて、どうにか使えそうなやつだけ連れてく。人手がないのは事実だしな。だが、足手まといはいらん。構っとる暇がない。
じゃ、そういう事で殺る気のあるやつだけ受付に並んでくれ。
あーそうそう、事前に連絡してあった連中はこれからさっそく調整があるから移動してくれ。
以上、受付係諸君。あとはよろしくっ!」
....なんて適当な野郎だ。
まあ、必要な事項はしっかり喋っていたしいいのか。いいのか? しらね。
「じゃあいくか。研究棟の方か?」
「あー、俺はまたセレアに呼ばれてるわ」
「じゃあ、私と紗那で行く。後で来るな?」
「おー。俺は調整とかほとんど無いが」
「良いから来い」
「りょーかい」
生返事を返して医療棟へ向かう。
灰斗の装備は試作動力磑だそうだからそれなりに時間がかかるだろう。脱ぐ方は一瞬らしいが。そりゃそうだな。壊れたらパージにも時間掛かるとか怖すぎるわ。
セレアの報告は現状では俺の知り得ている情報を収集、再解釈して他の人間にも理解できるようにまとめたものだった。俺を含む本人には理解できてもそのままの情報を他人に伝達するのは難しい。それを再解釈して理解できるようにまとめた手腕は称賛に値するが、ぶっちゃけ俺にそれを報告する必要はなかったと思うが。
他人に理解できるようにしたとは言え、現状で公開する情報ではないため資料は持ち出さずそのまま部屋を出て、調整をしている部屋に向かった。
調整は実験棟の一部で行っている。まあ、モノが試作品である程度実戦テストに行く前にデータを取っておきたいだろうしな。あとは、灰斗の鎧の調整だろうが。
着いた時には、鎧を着終わった灰斗が重たげな足取りでがっしゃんがっしゃん歩いているところだった。どうやら動きの同期を取らないと相当反応が悪いらしく、転倒していないだけマシってレベルのぎこちなく硬い動きをしている。
「おー、大変そうだな」
「あぁんっ!? コイツくっそトロくせぇわ! バランスだけは調整されてるから転ばないけどなっ!」
「まあ頑張れよ」
悪態オンパレードの灰斗をスルーして、何やらやたらとメカニカルな剣らしきモノを弄くる紗那に近づく。
「そっちは?」
「んー、ただの剣と自家発熱な溶断刀ってとこ。ソードマンは前より軽くて長いけどちょっとしなる。溶断刀は摩擦で刃が急激に熱くなってあとは燃え尽きるまで。だから交換式になってるけど造り込みが甘い」
「あーなるほど。刃の熱で固定側が灼けてるな。それに柄の方の断熱が甘いんじゃないか?」
「さっき試したけどかなり熱い。手もだけど振る時に体に近づけると自分が焼けそう」
「貸して」
溶断刀を借りて少し振ってみる。若干重心が捩れている上に重すぎる。刃が脆いのか消耗交換部分を減らしたいのか、刃を固定する峰が先端付近まで伸びており先重りになっているのもマイナスだな。
「あー、まだ時間あるしデータがあれば再設計ってところだな。この鞘での冷却システムも連続で差したり抜いたりするとオーバーヒートまっしぐらだしな。表面が剥離して切れ味を保つシステムは素晴らしいと思うが、刃以外の部分の作りの甘さで台無しだわ」
「まあ、今のコストにもよるけど刃金に黒鋼のライナーを数本入れるのが手っ取り早い気がするけど」
「発熱温度的にもそんなところだろ。どっかとの兼ね合いでコレにしたんだろうが、知ったこっちゃないし作らせようぜ」
「そだね。ソードマンは前のソードマンとは別物って考えればモノとしては良いし問題ないから」
「おけー。社長に言っとくわ」
直で通すと文句多そうだし、とりあえず社長だな。
近くにまとめて置いてある俺の装備一式から、新品のブレードを取り出す。試作品であるだけあって送られて来ていた二本とはまた違う形状をしているが、直刀片刃であることに変わりはない。
前の物よりスイッチのコントロールが容易でオンオフが指の感触でわかる。鞘に突っ込んだ時に勝手にスイッチが切れるようになっているのもプラスポイントだな。
取り扱い説明書には稼働時間が七分から八分に伸び、若干起動時間が短縮されて立ち上がりが早くなったことが書いてあるが、それ以外に特に変化は無い。形状こそ違うが長さは前のものと殆ど変わらず、重量バランスもより良くなっている。
破壊したことを踏まえてか、複数のブレードを帯刀できるように剣帯がかなり豪勢になっている。腰は右後二本に左二本、さらに背中に二本の合計六本。結構な重量だが身体能力が上がっているため、さほど気にならない。バランスも俺の戦闘スタイル的には問題ない範囲だ。
俺に限って言えば、さらにダガーを二〇ばかり仕込んで完成だ。全く火器がない。
紗那は拳銃にソードマンと溶断刀、それの替刃って所で比較的軽装。
灰斗は重鎧の背中にハードケース入りの短銃身化したバレットM82A2と長剣のスカフェルド。左腰にソードオフダブルバレルショットガン、右腰に多弾装の拳銃。と結構な重装である。
後のメンバーは普通装備のメンバーを入れたいところだな。遠距離の火力がなさすぎる。
ひとまず装備を身に着けて動きを阻害しないかチェックしていく。
同期の終わっていない灰斗は置いておき、紗那と訓練用模擬剣で適当に打ち合う。さほど、鞘や柄が邪魔になるようなことは無いようだ。
多少のプロテクター以外の防弾具とか普通装備にある防具を身につけていないため、軽いはいいがStD関係以外が出てくると、火力も防御も不安が残るな。輩に余裕がないとはいえ、捨て身に攻められたら不味いだろう。七人か八人か。前が多いからバックアップ含めてそれなりに後いないと難しいな。途中で別れてもいいが。
やや思考を散らした状態で打ち合いを続けたせいで酷く押され始めた。
顔の横を模擬剣が掠めて通る。二刀を滑らかに操って絶え間無く斬閃が降り注ぐ。時間稼ぎに刀身を弾きながら受け、躱していくがどうにも間に合わない。
僅かに膂力に寄った俺の技は超高精度で迫る雷閃に対するにはやや速度も精度も足りない。雷の速さで流水の滑らかさを持った剣閃は、確実に俺の領域を削り取って模擬剣を振るう自由を奪っていく。
割けるリソースには限りがある。膂力があるのだからそれに合わせて最適化するしか無い。
技を削って、より機械的に斬閃を処理する。より合理的に、より単純に。フェイントに反応するのは仕方ない。ギヤを一段上げて反応速度を上げる。
弾きで隙を広げて辛うじて対処するが、フェイントへの反応で殆ど相殺されている。
止まらない連撃の中、僅かに剣閃の高さが下がったのを見て直ぐに視野を広げた。姿勢をやや低くした紗那の踵が僅かに滑る。致命を感じる冷やりとした感触に、模擬剣を放り出して飛び退いた。
直後、放り出した模擬剣が空中で四分割される。ちらりと鎖骨の当たりと腹部の布地に切れ込みが入っているのを見て、冷や汗が流れた。
「若干、殺しに来てんじゃない。刃もないのに」
「別に焦れてないし。なんで当たんないの」
焦れてんじゃねえかよ。
ただでさえ模擬剣とは言え、千の致命は単発でも痛いってのに三散華一閃とか食らったら死ぬから。
「お前、千の致命の速度上がってるだろ。もう少し違和感なく繋げてたらバッサリだぞ」
「まさか。二重一重ならともかく、三散華一閃くらいじゃ打撲と擦り傷がせいぜいでしょ」
「普通はあの速度で来たら死ぬわ!」
切っ先が平然と音速を超えてくるんだぞ。人類の出していい速度じゃないってぇの。
全く、十数えたら君は死ぬですらコンマ何秒の世界で打ってくるとか。パターンさえ防げば回避できるが、千の致命はそうもいかないからな。あれエンドレスだし。
一刀では手数が足りないと二刀で受けたが、二刀同士だと技術も経験も追いつかねぇな。器用貧乏には辛いところだ。辛うじて身体能力で抑えているが、全く余裕が無いな。
「速度でコレで、膂力もあるとかステータスチート乙ですわ」
「人間卒業しましたのでっ! 畜生め」
「まあ、単独行動の末路ですなぁ m9(^Д^)プギャー]
「えぇい、その顔やめろ!」
見込みが甘かったことは否定出来ないが、まさか連中の索敵能力があれほどのものだとは思わなかった。意識共有がどれだけ恐ろしいものなのか、身を持って思い知らされてしまったわけだが。クソッタレめ。
言い合いを続けていると、がっしょんがっしょん、なんてゆう重たげな足音を立てながら灰斗が近寄ってきた。まだまだぎこちないが、実戦前には最適化が終わるだろう。
「ロボアニメちっくな足音でコッチ来んな」
「てめぇブッ殺す」
「ぶっ殺されるのは困るな」
がっしょんがっしょん。
がっしょんがっしょん。
一生懸命に近づいてくるのに合わせて後退する。ぬっ殺りんなんて嫌じゃないよ?痛そうですし?
鈍重に猛追する全身鎧から逃げ惑っているといきなり殺気が膨れ上がった。
「待てぇこらっ!」
「のおぉふっ!?」
踏み込みで砕かれた拳大のコンクリートの床材が蹴り飛ばされて顔を掠める。
全身鎧から鈍い金属音が響いて火花を上げた。ぱっと見ただけでも腰回りのフレームが大きく損傷しているのがわかる。
「あっぶねぇえなおいっ!」
「だぁれっ! てめぇコイツを見ろって言ってんだよ!」
「初耳だよ! おぉいぃい!? わかったから床を砕くな!」
さらに床を踏み砕いた所で止めに入る。やめてっ! もうその床はぼろぼろよっ! って言わなきゃいけない気がしたが気のせいだ。あ、言っちゃった。まあいい。
鎧の方を見ながら幾つか体を動かしてもらう。ふむ。
「なんかフッツーに可動範囲足りないんですが、如何に?」
「だよな。これ以上は強度が、とかなんか面倒くせえこと言ってるから、ちょっとどうにかしろよ」
「無茶振り!? 出来ないこと無いけど材料的な問題があるんだぞ?」
「しらん」
「....了解よ」
あぁ、諦めよう。だって面倒くさいし。
灰斗の全身鎧を脱がせて、紗那の溶断刀も含めて三人で意見を纏める。ついでに改善点とその方法もちょびっと載せる。てんで何書いてんのかわかんねぇ。って目線を二人から感じるが、気のせいなので気のせい。
おおよそ意見が纏まった所で、部屋の扉が叩き開けられた。
「おい、あたしも混ぜろっ!」
「部長!訓練付けて!」
「うっせえだまれしね」
飛び込むようにして入ってきた伊藤と皇都の二人に遅れて、実験室の扉が跳ね閉じる。頑丈だなおい....
「しねって何よっ!」
「部長のバカっ!」
「交互に喋んな!」
女三人寄らば姦しいというが二人でも十分うるせぇな。まあ、人が集まりゃ喧しいわな。
大体用件の予想は付くが先乗りする必要もないか。
「で、用件は?」
「私も参加するから。社長さんには許可取ったし」
「野郎なにしてくれやがる....」
社長の許可があるとこちらで拒否するわけにもいかないか。面倒なことを....確かに最良のメンバーで揃えるなら伊藤の参戦はありえる配置だとは考えたがよ。
「で?お前は?」
「あたしも参加する」
「こっちは後援じゃねぇんだぞ? 前に来ておまえに何ができる?」
皇都は回避と察知スキルは尖ってるが、性格的にも身体的にも暴力に向かな過ぎた。だからこそ部活でも最低限の護身術以外は回避一辺倒の教え方しかしていない。まぁ、それでも俺の攻撃を十分以上回避し続けられる辺り、身体能力が低いわけではないんだが。
それでも戦いたいなら手っ取り早く殺し方を教えるしかない。短期間で生き残れるようにするにはそれ以外の方法は浮かばない。
「部長はさ....あたしがどうやって生き残ったかわかる?」
「他人の事情にかまってられる程の余裕はない、と言いたいところだが。どうだろうな?」
「質問に質問で返すのやめてよ!
わかるでしょっ!? あの時戦えないのがあたしだけだったことくらい! どれだけ逃げ足が早くったってあんな沢山どうすればよかったのよ! なんであたしを庇ったのよ! あたしを見捨てればもっと生き残れたはずでしょう!? ねえ!」
「そこで見捨てるような輩に私があの技術を教えるわけないだろうがっ!」
「っ!」
そんな顔されてもしょうがねぇんだよ。それが一つの縛りだった。己刀流がどれだけ恐ろしい技術なのかわかってない。戦うため、なんて甘い技術じゃない。殺す為の力だ。
「あの技術は力だ。己の肉体を兵器に変える最悪の殺人術なんだぞ? 効率的に生物を壊し、殺すために磨かれたものだ。傷つけることを恐れてるお前に傷つけるための力を教えられるかよ」
「それでも....無力なままは嫌だ!」
「その選択をお前は後悔するぞ、皇都」
「後悔なんてもうしてるよ」
それはどうしようもないことだと、わかっているはずだろうが....
「紗那、伊藤を伸せ。半分じゃ足りん。七割強だな」
「んー? ワタとホネだけ無事ならおっけーって?」
「そうだ。身体能力だけではどうにもならないことを理解させておかないとな」
「あいよ。そいじゃーまー、こっちなー」
紗那のやつ、途中のシリアスでめんどくさくなってんな? まあやってくれる内は文句ないけど。
「で、皇都。ほれ」
「え、はい?」
拳銃を一つ手渡す。アホ面している場合ではないんだがな。
渡したのはMX10アネラスというLG社で独自開発されたポリマーフレームの拳銃だ。徹底的に機能面を簡素化した実用一本のもので、今の一般社員の標準装備だ。.40S&Wを15発装填できるかわりに、全重量は結構重くなるわけだが。本体がまだそれなりに軽いからちょんちょんってとこか。
模擬剣を金属製の丈夫なものに変えて構える。
「よし、使い方は覚えてるな? 護身術上級編・拳銃への対処だ。忘れたとか言うなよ?」
「うん、覚えてるけど?」
「じゃあ撃て」
BGMに阿鼻叫喚が流れ始めたのを無視して、自分を指差す。
「え!? 無理ムリむり!」
「手前みてぇなド素人の鉛が当たるかよ。そも、一発二発喰らった所で今の私は死ねん。さあこい」
それでも、躊躇っているようなのでサクッと顔の真横に本気の突きを打つ。
条件反射というものは恐ろしいもので、皇都の体は勝手に模擬剣を払い銃を構えて何の躊躇いもなく引き金を引いた。片手打ちとは言え今から引き戻すのでは間に合わない。左手を差し込んで手の甲を黒く染め、弾丸を弾く。間合いと三歩程の距離を空けて模擬剣を構え直した。
「で? どうする?」
「っ....!」
苦虫を噛み潰したような顔リアルで見るとは。
渋々と言った様子ながら、銃を構えた皇都に爆弾を投下する。
「よろしい。じゃあ、とりあえず一発当てるまでな」
「はぁ!?」
驚きながらも引き金に指がかかる。よし、覚悟があるなら付き合おうかよ。
胴の芯狙いを半身で躱し、膝狙いを足の向きを変えて避け、肩狙いの位置には体がなかったのでスルー。三射とも非常に素直で情けない。
「温いぞ。殺しに来いよ」
正確にすぎる。馬鹿正直なその射線を読むのはそう難しいことじゃない。読めた所で対応できなければしょうもないが、身体能力も反応速度も以前の比ではないのだ。
「その程度で当たるわけがなかろうよ! 私を舐めるなよ!」
「なんでよっ!」
一発、狙いの甘い弾丸を弾き返して足元に当てる。
ビクリと硬直した皇都を足で掬いあげて蹴り飛ばす。二間ほど飛んだがなんとか受け身を取って立ち上がった。リカバリは次第点かね。
「殺る気がねぇなら私が貴様を殺してやろうか皇都!」
「うるさい!」
叫んで放たれた射線は正直だが、逃げ道を塞ぐように次々と撃ち込まれる。
回避の面倒な幾つかを模擬剣で払って避けきる。15発の手数制限は装備重量の兼ね合いからしてどうしようもない。自力でどうにかしてもらわなければ困るね。
弾倉を既に六本。短時間にそれだけ撃てば当然手は痺れてくる。模擬剣の質量を利用したサイドスライドに付いてこれずに、皇都が拳銃を取り落とした。
「なってねぇな。そんなんで連れていけるかよ。紗那!」
「おー。おわってる。いけるよ」
特に言葉にせずとも、紗那が短機関銃を二丁構える。合図無しに引き金に指が掛かった瞬間に、思考と身体の制限を無理矢理全て外した。
不要な情報を徹底的に切り詰めた灰色の視界に無意識の赤い線が描かれる。敢えて回避を選ばず、吐き出される鉛弾を片っ端から斬り払う。二丁合わせて秒間約三〇発の灼け鉛は適度にバラけながら逃げ道を塞いでくる。だが、元より逃げるつもりもない。ほんの二秒ばかり、六〇発の弾丸を斬り払って視界が色を取り戻した。
「で、これで当たると思ってんのかい?」
「むちゃくちゃじゃない....わけ分かんない....」
唖然としながらも皇都は銃を構え直す。殺る気があるのはいいことだ。
それから灰斗の調整が終わるまでしばらく相手をしていたが、至近弾一発だけが成果だった。まあ掠めただけ良しとしよう。久しぶりに扱ったにしては上出来だ。
「で、正直なとこどうよ?」
「伊藤は本社で死ぬし、皇都は支部で死ねるんじゃない?」
「右斜め後方に同じ」
俺達に与えられた部屋で、紗那と灰斗の意見に小さく同意を示して考えこむ。
現状の二人は伸び代はあるが成長率は平凡だし戦闘勘が致命的に足りない。空気くらいは感じているが、LG社の一般社員よりも戦闘能力は低いと見て間違いない。大体、ここの奴らは事務方ですら戦術基礎はガッツリ出来てやがるからな。自衛の関係で仕方無いとはいえ。
実戦は少ないとはいえ十年ばかり訓練してきた俺たちならともかく、一週間ほどの期間で実戦レベルにするのは不可能だろう。
「本当に戦力がカツカツなのか。まぁ今更どうしようもないといえばそうだがよ」
「んーとりあえず無闇に前に出さなきゃまあそこそこ。ただ伊藤の方は体力が足りないんじゃない」
「あー...皇都は部活でそこそこ鍛えてるからな」
センスはともかく、体が出来ていないってのは問題だな。
「となると、バックアップ専門にして面倒見れるのを一人ずつ付けるか。で、俺達のサポートに一人。これで八人、ちょうど一分隊だな」
乾いた音を立てて本を閉じた灰斗が薄い溜め息とともに言う。
「ま、本番に強いタイプであることを祈るだけだな」
「そうだがよ...まあ、どうにかするしかないか」
まあ枷としては悪く無いだろうがな....クソッタレだ。よくわかってやがる。
はぁ....ま、明日からも訓練、訓練、訓練....だな。
4月に投稿しようと言って、こんな時まで引きずってしまった。
もう少し、投稿間隔が短くなると良いなぁ....とかね。