俺と屍と鉄パイプ。あと、疑問と現状。
「腑に落ちねぇわー」
渡された書類を机に放り投げて、背もたれに体を預ける。
苦笑した社長を横目に天井を見上げた。
「だろうな。これだけ洗って内部こそ行けなかったとはいえ情報が少なすぎる。FA社の基本の企業形態とは全く別ラインで組織化されてるとしか思えない。関連のありそうな企業も探っちゃいるがなぁ」
「人手か‥‥」
LG社はいつも人手不足だな。正規社員の雇用は社長の決定だし、規模の拡大ペースに追いついてないのはしかたのないことだろう。ココ数年で非正規を増やしたとはいえ、触らせられるネタに限りがある。
「FA社の企業規模から出せる人員は各所への派遣でかなりカツカツになってるはずなんだが、そこからさらに工作員とか出してる辺り、上がってない部分があるのは確かだな。とは言え、規模から言って本社以外にあるとは思えないんだよなぁ。取引規模より大きすぎる施設が現状見当たらないとなるとな」
「まあ、本社に地下があることは確認できているからな。気になるのは南だが。資金的に余裕ないとは思うが、どうかな」
まあ、後処理を考えるなら生物兵器系は極点付近がいいよなぁ。北は陸がないし凍結処理には温度が高い。物資輸送が十全に出来るなら、南極は良いところだ。
「そういえば、社長は南極基地作んねぇの?」
「金はあるが人はいない。そもそも生物兵器系は作る予定がねぇし、その他は本島の面積があれば事足りるからな。あいつらの縄張りさえ避けて歩けば資源も取り放題だし」
「それもそうか」
何がともあれ人がいないのだけはどうしようもないことだ。
「あ、今回の件であいつらの方に行ったのってどうなったんだ?」
「すべからく駆逐されたな。こちらが敵性認識されていないあたり、状況をなんとなく理解されている気がするが。奴らの生態は未だによくわからんから警戒は一応している」
本島の生態系は意味不明すぎるし、警戒するにこしたこともないか。
「で、結局いつ攻めるつもりだ?」
「支部に関しては一週間後。本部は一ヶ月以内。確定している以上、証拠が出なければ適当にでっち上げてこの世から消してくれるわ」
「確定してんのに証拠がないのか?」
「情況証拠とレコードはあるが、物的証拠は現状無い。物自体はあっても繋がりが見えないものも多い。中々これを仕組んだ奴は頭が切れるな」
「日本人的には有罪にし難い所か。まあ知ったこっちゃないね。こちらがどうゆう人間か外面しか見ていないわけだ?」
「視野の狭さは否定しがたいな。酷くアンバランスな気もするが向こうさんの事情などもはや知ったことじゃない」
サンプル持ちの工作員がわりと簡単に捕まっている事を考えると、暗部の能力はそう高くないだろうが戦力自体が大きいのが問題だな。
「支部はともかく本部の方は総力戦に近い形になる。奴ら誤魔化すつもりだったのか本部のある都市でウィルスをばら撒きやがったからな。今、処理させてる地域を国軍に引き渡したら徐々に引き下げてくる予定だ」
「あれ? 本部ってどこだった?」
「‥‥‥‥ロスだ」
「‥‥はぁ!?」
馬鹿じゃないのか? あの規模の都市にあんなもん撒き散らしたら大惨事だろうに、本当に押さえ込めるとでも思ってんだろうか?
「バカバカしい話だが余程兵力に自身があったようだな。実際は外の対処に思った以上に兵力を取られたのか、ロスでは防戦一方のようだが。そもそも奴らは拡散速度を甘く見積もりすぎているんだよ。自発的に感染を広げられるということがどれほど恐ろしいことか分かっていない」
「となると、ロスでは掃討戦も視野に入れて、か」
「大火力で殲滅も視野に入れて、だな。どちらにしろロス市周辺は壊滅だろう。余力を見て生存者を探すがろくに残ってはいないだろうな」
「範囲は?」
「封鎖線は27号、101号、134号、5号、105号ってとこだな。北から東にかけてはロサンゼルス川を境にしている。空港を使って州軍と国軍を送り込んでるから封鎖の方はさほど心配ない。が、やはり数が多いみたいだな。前線が上がったって報告は来ていない」
「思ったよりは狭いか。東京のほうが被害デカイんじゃないか?」
「ところがだ。アメリカは五ヶ所あるんだな、これが。総面積と人口で言えばアメリカの被害は中華に次ぐぞ」
五ヶ所か。国内の人員総動員ってレベルじゃないのか? それは。
「ん? 中華の方は都市圏か? 韓国とか朝鮮とか近いとこは?」
「中華は天津から爆発的に広がって北京の近くまで押し込まれてるな。南北にはあまり広がっていないが、人口の関係ですごいことになってるわ。韓は高興郡が壊滅。ネックになってるとこで止められたようだから大丈夫だろう。北は平壌で発生した以降の情報がないからなんとも言えん」
「派手にやってるな。全体的には?」
「確認できたのは28ヶ国、67箇所だ。動員兵数は300万人を超えたんじゃないかな。実際にはPMCや民兵のたぐいもいるだろうからもっといてもおかしくはないが」
「ある意味第三次世界大戦とゆーか、むしろ大惨事世界大戦というか、うん、ばっかじゃねぇの」
どう考えても統率力とかいろいろな面で適性の顕著に出るもんだと思うな。連中が海を渡って来ないとしても、奴ら相手に対岸の火事とは行かねぇだろうな。
「ま、その関係か自衛隊以下戦闘能力のある連中全てに戦闘許可が出たらしいけどな。国連の上の方にいる国とかとかく主要国家は須らくバラ撒かれてる辺り、ちょっとやり過ぎだとは思うが。そら手にも負えなくなるわな」
「そこは自業自得ってやつだなぁ。しかし、菅も涙目だな。最高のタイミングであの計画をするには菅のままでは無理か。手の内入れてるのか?」
「いーや。協力者が居てな。放っといても問題なく発動する予定だが、まあ今回の事案が解決してゴタゴタが収まるまでは、今の政権に負ってもらうさ。アジア圏はともかく西側との話は大方終わってる。ろっしーとアメ公の折衝だけが難航してるが、体質だからしゃあねぇわな。東亜連盟が組めれば、三極化してバランスが取りやすくなるんだが、そこまで行ってない。半島は今後内戦化しておかしくないし、中華がどこを目指してんのかよ‥‥政治側での切り崩しの進捗が悪いんだよなぁ」
「問題は技術格差ってか」
「そうだ。近いとこでは、ロシアはともかくアジア圏での日本の技術の尖り方は半端じゃない。そして、技術を概要を晒しただけでそれっぽいもの作ってくるような変態国家だ。ウチの研究者も米露のやつらも結構いるが、日本人が一番多いからな。あとドイツのとかさ。ちょっと変態馬鹿ばっかりで引くよな」
「仕方ないだろ。馬鹿と天才は紙一重なんだからよ」
「大体、なんでウチで国連の折衝やんねぇといけねんだよって思うが。ホントは戦争関係だけコントロールする予定だったんだがなぁ。他の売上が伸びたせいでそうも言ってられないんだよ。国籍がないってのがやっぱネックなんだな。各支店毎に国籍を取ってる状態だから税金がヤバいんだわ」
「なるほろ。本社から出す分だけでも関税下げさせたい所か」
支店間でやり取りするだけで膨大な税金取られてるんだからやるせないわな。本社から出る分は特に、国レベルの取引として扱われてるせいで、やたらと税金かかっているようだしな。
「そ。高すぎて売れねぇ物も多いけどな。カタログだけは各国に渡してる。まだ細い物しか発注はないけど。あ、いや一つだけあったな。輸送艦用のタービン一式が」
「それこっちの技術力みたいだけじゃねえか」
「まあそうともいうな。三年式静音タービンはシンシアでのテストデータはあるがジェニファーから本採用だから実績がない。精々No.4タービン辺りを出すのがいいところだわな。何にしろこの事態を収拾してしまわんことにゃ、何処とも取引できんわな。しゃあねぇさ」
「そうさな。この件が収束すれば、例の炉、手を付けても良い」
本社のシステムのグレードアップも含めてネタはあったが学生やってる身分ではなぁ。そもそもLG社に入る予定も無かったんだけど。今後の事を考えるとLG社じゃないと身動きしづらくなるだろう。
「おぉ、マジかよ‥‥研究者でもない人間にヤらせていいのだろうか俺よ‥‥頼んじゃうもんね」
「衝撃受けすぎて壊れてんじゃねぇよ。ま、そういうことだから、俺はあいつらと打合せでもしてくるわ」
「任すよ。こっちはもうそろ穂月に連行される予感」
「m9(^Д^)プギャー」
「そ・の・か・お・や・め・れ(笑」
「あ、社長。ちゃんと雇って給料出したまえよ」
「わーとるわい。心配しなさんな。たぶん」
「おいこら(笑)全く。じゃあな」
椅子から立ち上がるとほぼ同時、短くノックの音と共に穂月が入ってきた。
「お迎えに上がりました」
「測ったか!?」
「いいえ。いきますよ」
「あーれー」
連行される社長を尻目に部屋から出る。
やることは多いが一つずつ潰そう。問題山積みだがネタは出てきている。後は整理と準備。そいで仕上げか。
ま、なるようになるさ。出来るとこから片そうか。